CONTRIBUTOR

川村 雄介

川村雄介の飛耳長目

1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、シンジケート部長などを経て長崎大学経済学部教授に。現職は大和総研副理事長。クールジャパン機構社外取締役を兼務。政府審議会委員も多数兼任。『最新証券市場』など著書多数。

  • 理系も文系も必要 リベラルアーツの重要性

    昔の人は偉かったなあ、と改めて思う。昨今その重要性が叫ばれているリベラルアーツ教育である。その淵源については諸説あるが、ギリシャ時代に遡るらしい。自由人として生きていくために必要な自由七科、文法・修辞・論理・算術・幾何・天文・楽理、が大本だという。これらを修めることで、自由な発想を涵養できると考えた ...

  • 「米国など全然恐れていない」中国の対アメリカ感情

    寒さが増す北京の夜空に、月が炯々と輝いていた。数年前には想像もできなかった澄んだ大気である。中国は日本の35年前を辿っている感がある。1970年頃の東京と2000年代初頭の北京の空気は同じように汚染され、河川に魚影を見なかった。だが、80年代半ばには東京の自然環境はぐっと改善された。いまの北京にも同 ...

  • 上海で見た「日本人コメディ」

    大音量のロックミュージックが流れる中、薄暗い舞台では、女装した無精髭の白人が、ショートコントやコミカルな出し物で客の気を引いている。かぶりつきで談笑しながらハイボールを傾けているのは若い中国人カップルたちだ。ショーのレベルは、新宿二丁目のクラブの足元にも及ばないが、ホールの活気ばかりは負けていない。 ...

  • 大学教授から研究を奪う、皮肉な「支援」

    はらりと柿の葉が舞い散る秋の終わり頃、大学の研究棟はうわ言で満たされる。「カケン、カケン」。文部科学省が研究者に交付する競争的資金、科学研究費の略称である。カケンは人文・社会科学から自然科学、基礎から応用までのありとあらゆる学術研究を対象とし、チャレンジ的研究か基盤研究か、個々人かグループか、若手向 ...

  • 長崎とシアトルに見る、スタジアムシティの未来

    久々の長崎であった。日本有数の観光地である。グラバー亭、雲仙国立公園、稲佐山からの夜景、世界遺産の教会群など、枚挙に暇がない。ところが、である。統計を見ると決して観光大県ではない。都府県別では中位、まあ、並なのだ。外国人訪問者の比率も10%未満で、東京、大阪の40%弱は別格としても、隣県の佐賀県や熊 ...

  • 「ロマン」で読み解く、中国人の地政学

    黒河・騰衝線(とうしょうせん)という中国地理上の考え方がある。ロシア国境、黒竜江沿いの黒河市から、ミャンマーに接する雲南省騰衝市まで、中国本土地図を斜めに横切る線を描いたものだ。1930年代に中国人地理学者が着目したラインである。 このラインを挟んで、西部は国土面積の約6割、東部は約4割を占めていた ...

  • 「吉本興業劇場」に学ぶ企業のリスク管理

    人は城、人は石垣、とは武田信玄の言と聞く。企業や組織にとっての、人材の大切さを簡潔に諭している。だが、一歩間違えると、人が廃墟を作り、人が溝、になりかねない。 これを見せつけてくれたのが、この夏の話題を独占した「吉本興業劇場」だ。一芸人の虚偽発言から始まった一社内問題の前に、参院選も日韓問題もすっか ...

  • 少子化から考える、老後「2000万円問題」

    妻子とともに訪れた実家の夏休みであった。男は介護ホームに預けている足腰の不自由な老母を連れ帰り、久しぶりの団欒に寛いでいた。認知症が進んだ彼女は、歯のない口で駄菓子をしゃぶりながら、孫たちの歌ににこやかに拍手を続けている。だが、先ほどから何か異臭がする。「あっ、おばあちゃんが大変だ」。長男の悲鳴に男 ...

  • ロクヨンの北京と天津漫才

    拍子木を両手にリズミカルな台詞が響く。独特の節回しの中国語の意味はさっぱりわからないが、得も言われぬ滑稽さである。6畳ほどの狭いゼミ室では、数名の若者が真剣な眼差しで、演技する学生を見つめている。戸口に仁王立ちの中年男性が指導教員だ。ここは、国立の天津芸術職業学院。二つのキャンパスを持つ。「天津漫才 ...

  • ユニコーン創出を目指す「中国版NASDAQ」の本気度

    夜霧にかすむ黄浦区、外灘の光景は時代を超えたエキゾチシズムを感じさせる。横光利一の『上海』を思う。視界が悪いお陰で、鉄の塊のような味気無い高層ビルが背後に隠れ、欧米租界時代の石造りの建物が浮かび上がっている。おりから開催された日中資本市場フォーラムの中国側主催の晩餐会場からの眺めだった。このフォーラ ...

  • 官民で進むフランスの成長戦略

    パリ北駅は、往来の人々でごった返していた。時刻表スクリーンに目をやると、近距離線はほぼ定刻のようだが、ロンドン行きにはかなりの遅れが出ている。 「Brexitの影響です。先週のロンドン出張は参りましたよ」。こぼすのは、パリの国際機関に勤務するスタッフだ。英国のEU離脱となると、物流、金流、人流が大混 ...

  • 平成に入って曲がり角の大学教育 東京集中を変えるカギ

    その若い女性は清潔感あふれるセーラー服姿で、大学面接室の堅い椅子に腰かけていた。いかにも聡明そうな目線が印象的だ。夜間主入試の面接であった。私を含めた長崎大学の面接試験官は、彼女の正確で明瞭な回答ぶりと応募資料の中身にいぶかしさを感じていた。高校は県内有数の進学校、成績は常に学年5番以内をキープして ...

  • 中世ヨーロッパの歴史から見る「EU崩壊」

    パリのノートルダム大聖堂が、見るも無残に焼け落ちてしまった。大聖堂を訪れたばかりだった私は、悲報に触れて、数瞬、言葉を失った。尖塔が焼失してしまった中、聖堂内の見事なステンドグラスやジャンヌ・ダルク像は無事であろうか。門前の露店に被害はなかっただろうか。アルベール・カミュの「カリギュラ」初版を自慢そ ...

  • 仕事は「憧れ」で選ぶ 親は子の良きアドバイザーになれ

    初場所3日目。国技館の館内は、千尋の巨大波動が寄せ来るような歓声にうねっていた。重い怪我に苦しみ続けていた横綱が、最後となる土俵に上がっていた。その愚直なまでに真摯な相撲道への向き合いに、ほぼ全ての観客が、一種の霊的トランス状態の中にあった。稀勢の里は、いつの頃から大相撲に惹かれていったのだろうか。 ...

  • わかりやすさより面白さ 上海・復興公園の「株情報会」で思うこと

    上海は旧フランス租界の一角にある復興公園である。北京とはがらりと違う大らかな雰囲気で、昔からの国際都市を思わせる。空気もきれいだ。案内してくれる劉君は、日本語が堪能な若き事業経営者である。土曜日とあって老若男女で賑わう園内で、日本ではもちろん、北京でも見かけたことのない光景に遭遇した。そこここに、2 ...

  • ウミガメが示唆するSDGsと市場の在り方

    波打ち際では10センチにも満たない黒い生き物が、三々五々、海に向かってよちよちと歩を進めている。ウミガメの赤ちゃんたちだ。灼熱の太陽が傾き始めたインドネシアのバリ島である。密猟や環境汚染のせいで、めっきり数を減らしたウミガメを保育しようと、卵の孵化から放流まで手掛けるセンターがこのバリ島にはある。折 ...

  • 「無電柱化」が分けた国際社会の明暗

    去燕の季節である。天井が抜けたような高い空を見上げると、思わずため息がでる。その碧さにではない。巨大な女郎蜘蛛の巣のように視界を邪魔する黒い網の目に、である。張り巡らされた電線だ。オリンピックに向けて建設の槌音も頼もしい東京だが、その景観は決して褒められたものではない。無秩序に林立する高層ビルと古い ...

  • 日銀と中国の「五十歩百歩」

    爆食といえば中国の代名詞である。おコメの消費量は年間約1億5000万トンと日本の20倍、基本的に先進国ほど多い砂糖消費も、年間1800万トンに達している。日本は糖質制限ブームの下で、いまや200万トンを切ろうとしている。8月のお盆前、蒸せい籠ろ 蒸しのような東京の猛暑を避けようと、私は江の島海岸にい ...

  • 定員割れの大学がとるべき施策とは?

    稲妻が走り、雨がぱらつく沖縄であった。だが、雷鳴をかき消すような若い女性たちの歓声が止まなかった。那覇の国際通りにほぼ隣接する好立地の真新しいビルは、今春開校したばかりのエンターテインメントの専門学校である。ときあたかも、同地で開催中の国際映画祭でレッドカーペットを練り歩くべく、著名芸能人が次々に控 ...

  • 商工中金のあるべき姿とは?

    昭和11年5月6日の衆議院本会議。2.26事件で総辞職した岡田内閣の後を受けた広田弘毅首相が施政方針演説に立った。時局が緊迫し、昭和恐慌から抜けきれない当時、中小業者は金策に困り果てていた。広田は、「最近国民生活ニ対スル重圧ガ愈々加ハラントシ、(中略)政府ハ国民生活ノ有ユル分野ニ於イテ其ノ安定向上ヲ ...