CONTRIBUTOR

川村 雄介

川村雄介の飛耳長目

1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、シンジケート部長などを経て長崎大学経済学部教授に。現職は大和総研副理事長。クールジャパン機構社外取締役を兼務。政府審議会委員も多数兼任。『最新証券市場』など著書多数。

  • 難儀な獅子との付き合い方

    梁啓超といえば変法自強運動である。清朝末期の体制内大政治改革の試みだ。列強に踏みにじられた清国の惨状を嘆き、明治維新を範とする改革を断行しようとした。彼の「睡獅」という言葉が「眠れる獅子」のルーツである。梁啓超はまた、英国の陸軍総司令官、ウルズリの言を引き、「中国はフランケンシュタインのような怪物で ...

  • 「東大債」発行から考えるこれからの大学のあり方

    コロナの感染再拡大や豪雨の災禍など、暗いムードが日本を覆っていた7月31日のことである。東京大学の公式ホームページに、日本の資本市場史に残る出来事がアップされた。第1回東京大学債券の発行を告げるものだ。わが国初の公募大学債である。超長期の40年債、200億円程度の発行と観測されている。これは第1回債 ...

  • 日本の隠れた労働市場──新しい生活様式が示したポジティブな側面

    おおよそ想像したことのないイベントであった。大阪は千日前の誰もが知っているお笑いの殿堂。6月下旬に、ようやく制限付きの劇場再開が認められた。チケット売り場には消毒ボトルが置かれ、普段は破顔して出迎えてくれる劇場スタッフの表情は、大きなマスクに隠れて見えない。入場口で検温すると、大阪府自慢のコロナ追跡 ...

  • 歴史から考察する新型コロナウイルス後の世界

    フランス革命のちょうど90年後、1879年7月14日に日本では太政官布告第28号が公布された。海港虎列刺病伝染予防規則という。コレラを水際で検疫するためのものだ。歴史的に、日本は天然痘以外、比較的風土病や感染症が少ない国だったが、鎖国をやめたことで海外の疫病が押し寄せてくる危険性が高まった。コレラ予 ...

  • 歴史的悲劇から我々が学ぶことは?

    世の中はときとしてひっくり返る。昨日までの秩序や常識が通用せず、ほとんどの人が途方に暮れる。大量の失業や一家離散の悲劇が増える。だが、こんなときにこそ、新時代を果敢に取り込んで大きな成功を収める例も少なくない。生きていればとうに100歳を超えている私の母が、生前、口癖のように言っていた。「私の叔母の ...

  • 投資期間は「永久」10万円給付金の活用法

    インフルエンザがきっかけだった。半世紀近く前である。年末に発熱し、一週間ほど寝込んだ。正月明けには回復し、大学の授業にも通い始めた。だが、風邪薬が切れると発熱して呼吸が苦しくなる。開業医に行くと「ちょっと風邪をこじらせましたねえ」。熱は下がっても快癒感がない。薬が切れるとまた熱発である。 3カ月もの ...

  • 理系も文系も必要 リベラルアーツの重要性

    昔の人は偉かったなあ、と改めて思う。昨今その重要性が叫ばれているリベラルアーツ教育である。その淵源については諸説あるが、ギリシャ時代に遡るらしい。自由人として生きていくために必要な自由七科、文法・修辞・論理・算術・幾何・天文・楽理、が大本だという。これらを修めることで、自由な発想を涵養できると考えた ...

  • 「米国など全然恐れていない」中国の対アメリカ感情

    寒さが増す北京の夜空に、月が炯々と輝いていた。数年前には想像もできなかった澄んだ大気である。中国は日本の35年前を辿っている感がある。1970年頃の東京と2000年代初頭の北京の空気は同じように汚染され、河川に魚影を見なかった。だが、80年代半ばには東京の自然環境はぐっと改善された。いまの北京にも同 ...

  • 上海で見た「日本人コメディ」

    大音量のロックミュージックが流れる中、薄暗い舞台では、女装した無精髭の白人が、ショートコントやコミカルな出し物で客の気を引いている。かぶりつきで談笑しながらハイボールを傾けているのは若い中国人カップルたちだ。ショーのレベルは、新宿二丁目のクラブの足元にも及ばないが、ホールの活気ばかりは負けていない。 ...

  • 大学教授から研究を奪う、皮肉な「支援」

    はらりと柿の葉が舞い散る秋の終わり頃、大学の研究棟はうわ言で満たされる。「カケン、カケン」。文部科学省が研究者に交付する競争的資金、科学研究費の略称である。カケンは人文・社会科学から自然科学、基礎から応用までのありとあらゆる学術研究を対象とし、チャレンジ的研究か基盤研究か、個々人かグループか、若手向 ...

  • 長崎とシアトルに見る、スタジアムシティの未来

    久々の長崎であった。日本有数の観光地である。グラバー亭、雲仙国立公園、稲佐山からの夜景、世界遺産の教会群など、枚挙に暇がない。ところが、である。統計を見ると決して観光大県ではない。都府県別では中位、まあ、並なのだ。外国人訪問者の比率も10%未満で、東京、大阪の40%弱は別格としても、隣県の佐賀県や熊 ...

  • 「ロマン」で読み解く、中国人の地政学

    黒河・騰衝線(とうしょうせん)という中国地理上の考え方がある。ロシア国境、黒竜江沿いの黒河市から、ミャンマーに接する雲南省騰衝市まで、中国本土地図を斜めに横切る線を描いたものだ。1930年代に中国人地理学者が着目したラインである。 このラインを挟んで、西部は国土面積の約6割、東部は約4割を占めていた ...

  • 「吉本興業劇場」に学ぶ企業のリスク管理

    人は城、人は石垣、とは武田信玄の言と聞く。企業や組織にとっての、人材の大切さを簡潔に諭している。だが、一歩間違えると、人が廃墟を作り、人が溝、になりかねない。 これを見せつけてくれたのが、この夏の話題を独占した「吉本興業劇場」だ。一芸人の虚偽発言から始まった一社内問題の前に、参院選も日韓問題もすっか ...

  • 少子化から考える、老後「2000万円問題」

    妻子とともに訪れた実家の夏休みであった。男は介護ホームに預けている足腰の不自由な老母を連れ帰り、久しぶりの団欒に寛いでいた。認知症が進んだ彼女は、歯のない口で駄菓子をしゃぶりながら、孫たちの歌ににこやかに拍手を続けている。だが、先ほどから何か異臭がする。「あっ、おばあちゃんが大変だ」。長男の悲鳴に男 ...

  • ロクヨンの北京と天津漫才

    拍子木を両手にリズミカルな台詞が響く。独特の節回しの中国語の意味はさっぱりわからないが、得も言われぬ滑稽さである。6畳ほどの狭いゼミ室では、数名の若者が真剣な眼差しで、演技する学生を見つめている。戸口に仁王立ちの中年男性が指導教員だ。ここは、国立の天津芸術職業学院。二つのキャンパスを持つ。「天津漫才 ...

  • ユニコーン創出を目指す「中国版NASDAQ」の本気度

    夜霧にかすむ黄浦区、外灘の光景は時代を超えたエキゾチシズムを感じさせる。横光利一の『上海』を思う。視界が悪いお陰で、鉄の塊のような味気無い高層ビルが背後に隠れ、欧米租界時代の石造りの建物が浮かび上がっている。おりから開催された日中資本市場フォーラムの中国側主催の晩餐会場からの眺めだった。このフォーラ ...

  • 官民で進むフランスの成長戦略

    パリ北駅は、往来の人々でごった返していた。時刻表スクリーンに目をやると、近距離線はほぼ定刻のようだが、ロンドン行きにはかなりの遅れが出ている。 「Brexitの影響です。先週のロンドン出張は参りましたよ」。こぼすのは、パリの国際機関に勤務するスタッフだ。英国のEU離脱となると、物流、金流、人流が大混 ...

  • 平成に入って曲がり角の大学教育 東京集中を変えるカギ

    その若い女性は清潔感あふれるセーラー服姿で、大学面接室の堅い椅子に腰かけていた。いかにも聡明そうな目線が印象的だ。夜間主入試の面接であった。私を含めた長崎大学の面接試験官は、彼女の正確で明瞭な回答ぶりと応募資料の中身にいぶかしさを感じていた。高校は県内有数の進学校、成績は常に学年5番以内をキープして ...

  • 中世ヨーロッパの歴史から見る「EU崩壊」

    パリのノートルダム大聖堂が、見るも無残に焼け落ちてしまった。大聖堂を訪れたばかりだった私は、悲報に触れて、数瞬、言葉を失った。尖塔が焼失してしまった中、聖堂内の見事なステンドグラスやジャンヌ・ダルク像は無事であろうか。門前の露店に被害はなかっただろうか。アルベール・カミュの「カリギュラ」初版を自慢そ ...

  • 仕事は「憧れ」で選ぶ 親は子の良きアドバイザーになれ

    初場所3日目。国技館の館内は、千尋の巨大波動が寄せ来るような歓声にうねっていた。重い怪我に苦しみ続けていた横綱が、最後となる土俵に上がっていた。その愚直なまでに真摯な相撲道への向き合いに、ほぼ全ての観客が、一種の霊的トランス状態の中にあった。稀勢の里は、いつの頃から大相撲に惹かれていったのだろうか。 ...