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味の素 藤江太郎(左)とPwC Japanグループ 磯貝友紀(右)

いまやSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)は、企業戦略にとって欠かせない要素になっている。そのSXを積極的に推進している企業の1社が味の素だ。PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス、リードの磯貝友紀が、味の素株式会社代表執行役社長の藤江太郎氏とSXの実践について語り合った。


「10億人の健康寿命の延伸と環境負荷の50%の削減に向け、バリューチェーン全体でエコシステムを構築し、企業そして業界の変革に挑戦しながら社会課題の解決を図り、コーポレートブランド価値や経済価値に対するインパクトを実現させたいと考えています」

藤江はそう力強く語った。味の素グループは、100年以上前に「おいしく食べて健康づくり」という志を掲げて創業。創業以来続く「人びとの栄養改善」という目標は、現在「ASV(Ajinomoto Group Shared Value) 」という、味の素グループ版共通価値創造 (CSV)として進化している。その中にはサステナビリティ推進が組み込まれており、社会課題を解決しながら経済価値を創出することを目指している。2030年までのロードマップを描き、その実現に向かって取り組んでいるのだ。

磯貝は、サステナビリティには長期的な視点が求められ、業界の根底にある流れが変わる変数を見極める必要があると指摘したうえで、食品業界の未来についてこう分析した。

「根底に流れる大きな方向性は、少しホラーストーリーのような向きがあるように思います。地球人口はどんどん増加していく傾向にあり、フードシステム全体が需要を満たすことができなくなっていくのではないか。飲料・食品業界にとって、そうしたフードシステムの崩壊に対応しながら企業として成長していくことは、非常に難しいのではないかと思うのです」

藤江は、調達部門の重要性がますます高まっていると同調したうえで、「長期でありたい姿を描き、そこからバックキャストして道筋を書いていくことが重要だ」と強調。危機に対処する手段として、同社のタイでの事例を紹介した。


味の素代表執行役社長・最高経営責任者 藤江太郎

「当社はタイで、味の素®︎をはじめとするアミノ酸を製造しています。その主原料であるキャッサバ芋から採れるタピオカ澱粉と、サトウキビから採れるサトウキビジュースは、ほぼ100%をタイ国内で調達しています。タピオカ澱粉は、タイにおける国内需要の15%ほどを我々が使わせていただいているので、原料が手に入らなくなると、事業の持続性に問題が生じます。そうした課題意識をもち、独自に農業支援をしていた時期もありましたが、それだけではどうしても限界があります。そこで近年では、40ほどの企業や大学、NGOの皆さんと共同で農業支援に取り組んでいます」

その支援の仕方は多岐にわたる。

「発酵をしたときの副産物として、アミノ酸リッチな肥料が生成されるので、これを農家の皆さまにご提供することで、病気に強い作物が育つよう支援をしています。それに加え、たとえばパソナさんは人材育成の支援、損保ジャパンさんは気候変動に伴うリスクに対する保険の提供など、それぞれが得意分野で支援をしています。こういった全体の取り組みによって、タイの農業の活性化や持続可能な農業を実現するための貢献をしていくことは、非常に意義があることです。私たちとしてはタイだけでなくて、インドネシアやベトナムなど各国でグッドプラクティスをつくり上げ、グローバルにおけるフードシステムの安定化に貢献していきたいです」

トレードオフをトレードオンへ


磯貝は「こういうお話は、CSRの取り組みという印象をおもちになる方も多いかもしれませんが、そうではなく、事業継続のために必要な活動として取り組んでいらっしゃる」と述べたうえで、こう問いかけた。

「地球のフードシステムを守っていくのは非常にお金がかかることで、企業にとっては、負担が増えるという側面もあります。将来的には調達を確保するという意味があっても、短期的には非常にコストが上がっていく。このバランスをどう取られているのでしょうか」

それに対して藤江は「どうしてもトレードオフになりがちな取り組みを、どういうふうにトレードオン(二律背反を超え、両立させること)にするかが大切です」と述べたうえで、その解決策を示した。

「こうした取り組みを生活者の皆さまにしっかりとお伝えすることによって、味の素グループのコーポレートブランド価値をもっと上げていきたいと考えています。それが『素晴らしい取り組みをしている企業の製品であれば、価格が若干高めでも買おう』という購買意欲につながります。タイだけに限った話ではなく、各国でそういった動きがあります。自分たちだけよければよいという考えでは、トレードオンになりません。社会にとっても、お客さまにとっても、生活者の皆さんにとってもよく、結果として我々にとってもよいという取り組みが、最終的にトレードオンをもたらすのです」


PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス、リード 磯貝友紀

磯貝は、PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス エグゼクティブリードの坂野俊哉とともに上梓した『2030年のSX戦略』(日経BP)でも解説している「インパクトパス」の考え方について紹介した。サステナビリティに関わる多様な活動がどういう経路(パス)をたどって環境・社会や将来の財務にインパクトを与えるかを示すのがインパクトパスであり、環境・社会価値を創造したり、負荷を低減したりすることが「利益増加」や「機会損失減」にどのように影響するかを理解するのに役立つ考え方だ。磯貝によると、それはサステナビリティを考えるうえで重要な指針となる。

「サステナビリティを追求した活動というのは、社会や環境によいことをするだけでなく、自分たちの企業の中において、未来に稼ぐ力を蓄えていくことです。未来に稼ぐ力としては、『人材力』『オペレーション力』『創発・技術開発力』『評判形成力』『原材料調達力』『資金調達力』の6つのドライバーがありますが、味の素さんの取り組みは、まさに原材料調達力と評判形成力につながっています」

それは、味の素グループがASV経営推進の原動力に据えている「無形資産」形成の成果であり、「今後はその無形資産をデータから“見える化”していきたい」と藤江は語る。

「例えば、組織力と業績は正の相関関係にあります。それぞれの組織の文化がよければよいほど、その組織の業績は向上するのです。ここ10年にわたって社内で調査した結果にもそれが表れています。データによる見える化をさらに進めていくことが、活動全体の進化につながるということを確信しています。この見える化と、『志×熱×磨』という姿勢が重要であると考えています」

トップ企業として食料安全保障にも参画


磯貝は、PwCが実施した消費者調査の結果の一部を紹介した。それによると、日本は世界と比べてサステナビリティに対する意識が低く、サステナブルな商品を買いたいと考える消費者は全体の約40%に過ぎないことがわかった。ただしZ世代をはじめとする若い世代はサステナビリティへの関心が高く、この割合は今後、増えていくと思われるため、「食品業界は、業界そのものも消費者も変わっていくのではないか」と磯貝は指摘する。

「消費者の行動が変化するという大きな流れと、フードシステムが崩壊していくかもしれないという大きな流れの中で、食品業界における企業が果たす役目が変わっていく側面があるのではないでしょうか」

それに対し藤江は、「これまでのように単に安くて美味しいものを便利にお届けするということだけでは、消費者のニーズを満たせなくなった。消費者が気付かないうちに、崩壊しつつあるフードシステムをきちんと維持し、それを価値として消費者の皆さんに訴求していきたい」と応じたうえで、食料調達に対する危機感を露わにする。

「日本が買い負けつつあるという実態があります。中国やインドではあれだけの人口があり、経済が発展している。日本はいまはまだ食料を確保できていますが、すぐ先に食料が手に入らないという危機が押し寄せている実感をもっています。当社としても、食の安全保障が確保できるような取り組みにしっかり参画していく必要があります。これも1社だけではできませんので、政府やいろいろな企業・団体の方々と連携することが非常に重要だと考えています」

食品業界では、これまでのビジネスのあり方が根底から変わる「ゲームチェンジ」が起きようとしている。その新しい世界では、味の素のように他者とアライアンスを組み、SXを推進していけるかどうかが、成功のカギを握っている。

PwC Japanグループ サステナビリティ経営支援サービス
https://www.pwc.com/jp/ja/services/sustainability-coe.html


藤江太郎◎味の素株式会社 取締役 代表執行役社長 最高経営責任者。1985年、味の素入社。中国食品事業部長、フィリピン味の素社長、ブラジル味の素社長、執行役専務などを経て2022年4月から現職。

磯貝友紀◎PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス リード。日本企業のサステナビリティビジョン・戦略策定、SXの推進、サステナブル投融資支援の実績多数。

Promoted by PwC Japan Group | text by Fumihiko Ohashi | photographs by Tadayuki Aritaka | edit by Kana Homma

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