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子どもには東大より「スタンフォード大を目指させるべき」? スタンフォード大邦人コーチが見た「日米」のリアル

スタンフォード大学アメリカンフットボール部コーチ、河田剛氏。コーチ業の傍ら、シリコンバレーで日米双方のスタートアップのサポート/アドバイザーを務める

「給料も、席も机も何もいらないから、フットボールの勉強をさせてほしい。あわよくば、勝利に結びつくようなお手伝いをさせてほしい」。

2007年のある夏の日、私はスタンフォード大学アメリカンフットボール部の門を叩いた。吹けば飛ぶような細く軽いコネクションの下、その門を叩いたまでは良かったが、オフィシャルに認めてもらえるまでには数日を要した。あくまで、ボランティアとしての活動である(その後、2011年9月には正式に雇用された)が、この国には、そのポジションに就きたい人間はごまんといる。加えて、英語もろくに喋れないアジア人が来て、「Ready to work(いつからでも働けるよ)」と言ったわけだから、今、考えてみると、私がボランティアとして受け入れられたことは「これを奇跡と言わずして、何を奇跡と呼ぼうか……」といったところである。

その時の苦悩、その後と現在の苦労はまた機会があればシェアする。が、ともかく、その前後左右も、自分が誰かも見失うような初日、最初にあったミーティングは、なんとリクルーティング、つまり「優秀な高校生フットボール選手を、いかにスタンフォードにスカウトするか」のミーティングだったのである。

その冒頭、出席者のほとんどが大爆笑するアメリカンジョークの意味が1ミリも理解できない私に、雲の上の存在と呼んでも過言ではないヘッドコーチが、質問を投げかけてきた。

HC:「TK(筆者の愛称)、フットボールコーチにとって、最も一番大事な事は、なんだ?」

TK:「PASSION(情熱)じゃないか?」

HC:「それも重要だ。でも、もっと重要なものがある」

TK:「では、新しい戦術を考え出すことか?」

HC:「それも大事だ。でも、もっともっと重要なものがある」

TK:「勝てるチームをつくることか?」

HC:「良い答えだ。でも、違う。一番大事なのは、リクルーティングだ! だから、こうやってスタッフ全員で、長い時間をかけてミーティングするんだ」

日本人の指導者に「どうやって、選手を育てるか? 強いチームをつくるのか?」と尋ねると、十中八九、自分の指導論をここぞとばかりに語ってくれる。練習内容、マネジメント、コミュニケーションの方法等。

しかし、飛行機で10時間弱、太平洋を渡った瞬間、強いチームを作る方法はズバリ、「リクルーティング」になるのである。

頭の片隅にひらめいた。渡米直前、リクルートグループの人材系の会社で働いていた時、外資系の会社が日本に進出する際に、「金に糸目は付けないから、まずは良い人材を!」と言っていたのと同じことだ、と。それらの企業が、良い人材を採用することに労と金を惜しまないのと同じように、こちらの大学スポーツ界では、いかに良い人材、つまり、アスリートを引っ張ってこれるか、すなわちリクルーティングできるかが鍵になるのである。

スタンフォードの1人の同僚のことが思い当たる。彼は、戦略についても、教えることについても、普通かそれ以下だ。しかし、ことリクルーティング、特に欲しい選手とその家族とのコミュニケーションになると、彼は抜群にうまい。暇さえあればパワーポイントを駆使して、資料やカードを作り、彼らにそれを送ったりしている。

プリンターの近くで作業をする彼に、「それは何?」と尋ねた時に、(リクルートしたい高校生の)「祖父母の結婚記念日だからカードを送る」、と言われた時にはさすがに驚いた。どこから手に入れたのか、そのプレイヤーがプレイする写真と、彼の祖父母の写真を組み合わせた洒落たデザインのカードをプリントアウトしていたのだ。

文=河田剛 編集=石井節子

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