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ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信

Getty Images

昭和の時代は懐かしく、良いイメージばかりかというと、もちろんそんなことはない。あの頃の役所や郵便局、国鉄などの職員の愛想のなさを、いまでも鮮やかに思い出し、平成から令和と経て、日本の公共サービスが(民営化の波を含めて)格段によくなったことを再認識する。

長くアメリカに暮らしていると、一時帰国したときに感じる日本の公共サービスにひどく感銘し、感動すらする。

アメリカの場合、公共機関と民間で人々が転職を繰り返して交わるので、一概に役所だから愛想がないなどと言うことはできないが、人間社会の摂理として、税金で雇われている人たちのサービス業意識は一般的に低い。

笑わない職員は半年の停職


さて、実は話はフィリピンの話だ。マニラから車で南に1時間のシラングという人口約30万人の市の新市長と、南東に約6時間のムラナイという人口約6万人の市の新市長が、「公共機関の職員は笑わないといけない」という条例を発布した。

特に後者のムラナイ市のほうはかなりシリアスなもので、「笑わない職員は半年の停職か給与半年分の罰金とする」となっており、違反が重大な場合には「懲戒処分にする」とまであり、アメリカでも驚きをもってとらえられている。

ニューヨーク・タイムズが報じたところによれば、先月当選したばかりのこのムラナイ市のアリストテレス・アギレ市長は、地方自治体のすべての職員がこの条例の対象者となることを明らかにし、自らのフェイスブックで市民に条例を施行したことをアピールしているという。

選挙公約にしてきたことの実行なので、市民の多くはこれをとても好意的に迎えているということだが、記者のインタビューからうかがえるのは、これまでムラナイの市民は日本の昭和のような無愛想な役人のサービスに辟易としていたにちがいない。

両市長とも、コロナ禍によってフィリピンの風土や人々の人間関係が著しく毀損されているのを打破することが大切だと考えたことが契機になっていると言っている。それを2人とも公約にして当選したのだから、あながち世相に対するポイントとしては間違っていなかったわけだ。

とはいえ、笑顔の定義から始まって、例外規定をどうやって設けるのかなど、条例を運用するための問題は山積だ。そもそもこの条例は議会の承認を経ておらず、市長令で発布したということなので、今後、フィリピンの法体系のなかで条例として本当に生き残れるのかどうかという議論もある。

しかしムラナイ市の市長は抵抗勢力があってもこれをやり通すと強気で、自身が2016年までニューヨークのブロンクスの治安の悪いエリアに10年間住んでいた経験をもとに、笑わないコミュニティが全体として生み出す不利益はよくわかっているからだと理屈づけている。

文=長野慶太

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