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朝日新聞外交専門記者

Photo by Christopher Jue/Getty Images

奈良市で8日、安倍晋三元首相が銃撃されて亡くなった。安倍政権時代に内閣危機管理監を務めた米村敏朗元警視総監は「私自身、大変悲しいし、内外に大きな衝撃を与えた事件だった」と語る。米村氏は警視庁公安部長や、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のチーフ・セキュリティ・オフィサー (CSO)も務めた警備のプロだ。

今回の事件では、最初の銃撃から2度目の銃撃まで2秒余の間隔があった。安倍氏の演説には警視庁の専従警護官(SP)や奈良県警の警察官らが警備にあたっていたが、銃撃を阻止できなかった。

銃社会で頻繁に銃撃事件が起きる米国と比べ、日本は銃への意識が低い国だという指摘が起きる。米国に住む知人によれば、公立の小学校では定期的に銃撃事件を想定した訓練を行っている。連邦捜査局(FBI)職員が派遣され、「銃声を聞いたら、すぐに低い姿勢を取って、銃声の正反対の方向に逃げろ」「逃げる場所がなかったら、隠れろ」「隠れる場所もなかったら、戦え」と教えているという。知人は「日本人は銃声を聞いても、それがすぐに銃声だと考えられないのではないか」と話す。

そんな話を米村氏にすると、「確かに、FBIは銃を撃つ訓練を頻繁に行っている。銃を扱う機会が非常に多いのも事実だ」と語る一方、「今回の警護・警備には大きな問題があったのも事実だ」と指摘する。

米村氏によれば、今回の警備担当者らの行動は、1981年に起きたレーガン米大統領暗殺未遂事件の時の大統領警護隊(シークレットサービス)らの動きと対照的だという。米村氏は「映像をみる限り、シークレットサービスはみな、レーガン氏を守ろうと動いていた。1人は銃弾を浴びている。SPは警護対象者にとって最後の砦だ。安倍氏を守り切れなかったSPの気持ちを思うと気の毒だが、非常に残念な結果になった」と語る。

そして、米村氏は「今回の警備・警護体制の問題点の99%は、銃撃以前の段階にある。不審者を見つけ出す機能が働いていなかった。緊張感が欠けていたと言われても仕方がない」と語る。「警護・警備には想像と準備が必要だが、具体的にやらなければ全く意味がない」。今回の事件の場合、遊説現場の状況に合わせて、誰がどこまでの範囲を警備するのか、どういう人間を警戒するのか、あらかじめ、具体的に指示を出しておくべきだったという。「一人でいる人物、視線をあちこちに飛ばす人物、同じ場所を行ったり来たりする人物などがいたら、ちゅうちょせずに声をかけるべきだった」

米村氏は、米ハリウッド映画「ボディガード」が描いている世界からも、現実の警備・警護に必要な課題を学ぶことができると指摘する。「警護対象者との信頼関係はもちろん基本だが、警備・警護する要員たちがお互いに無線で連絡を取り合い、情報を交換しながら、現場をきちんと把握できていたのか。今回の事件が、日本の警察の実態だとは思って欲しくないが、反省すべき点は山ほどある」

米村氏は2008年、警視総監に就任した際の訓示で「仕事になれるな」と語ったという。「習熟しても、繰り返しのなかでマンネリになるなという意味。警備・警護の案件は非常に多いため、どうしても緊張感が欠けてくる。いつ、どんなときでも、当たり前のことを当たり前にこなせなくては、危機管理とは言えない」

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文=牧野愛博

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