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「効果的利他主義」とは何か


「僕の目的は効果のある寄付をすることだ」。そう語る、バンクマン=フリードの「効果的利他主義」は、シリコンバレー流のひねりを加えた慈善活動の考え方で、プリンストン大学の哲学者、ピーター・シンガーが支持しており、フェイスブックの共同創業者であるダスティン・モスコヴィッツのような人々の賛同を得ている。基本的な考え方は、証拠と理性に基づいて可能な限り絶対的に最大の善を行うことだ。通常、人は流行の理念や個人的に影響を受けた事柄に関する運動に寄付をする。一方で、効果的利他主義者はデータを見て寄付先や寄付時期を決め、その判断の基準となるのは、寄付金1ドル当たり最大多数の人が救われることや最多の所得を生み出すことといった非個人的な目標だ。ちろん、最も重要な要素のひとつは、そもそも寄付できるだけの大金を有していることである。

スタンフォード大学の法学教授を両親にもつバンクマン=フリードは、両親が西海岸の学者たちと交わす政治の議論を聞きながら育った。

2014年にMITを卒業すると、ざっくりと考えていた物理学の教授になるという考えを棚上げし、世界レベルの資産を蓄えようと仕事に取りかかった。金融業の高給職に就き、クオンツ投資会社のジェーン・ストリート・キャピタルで上場投資信託(ETF)取引を担当しながら、6桁ドル台の年俸のかなりの部分を慈善活動に注ぎ込んだ。

若くして成功を収めているバンクマン=フリードは米国で最も裕福な50人のなかでも、現金保有額が飛び抜けて少ない。スイスに銀行口座ももっていなければ、バランスの取れた株や債券の投資ポートフォリオもない。彼の資産のほぼすべては、FTX株の約半数と110億ドル超に相当するFTT 、すなわち公開市場で取引されているFTXのトークンからなる。FTTはFTX上での支払いや手数料の割引に利用でき、ギフトカードに近い。また、自身が投資しているほかの暗号通貨も、数十億ドル相当分を保有している。

そのため、これまで寄付より稼ぐほうの比重がはるかに大きくなってきたのは驚くに値しない。生涯寄付金額は2500万ドルで、有権者登録、世界の貧困緩和、人工知能(AI)の安全などの少数の慈善活動が対象となってきたが、これは換算すれば、典型的な29歳の米国人が救世軍の街頭募金バケツ(社会鍋)に15ドル押し込むのと同じだ。

「なすべきことはまだまだたくさんある」とバンクマン=フリードは認める。大口寄付は「短期的な目標ではない。長期的な目標なんだ」。

サム・バンクマン=フリード◎1992年生まれ。マサチューセッツ工科大学で物理学の学位を取得。大学では学業よりもゲームに夢中に。本来は物理よりも倫理や道徳に興味があったという。22年3月現在、資産は約245億ドル(2.8兆円)と推定される。

文=スティーブン・エンリッチ 翻訳=木村理恵 写真=ギュエリン・ブラスク

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