電通総研内のクリエイティブシンクタンクによる連載「NEW CONCEPT採集」

将棋やチェスに代表されるアナログゲーム。日本ではモノポリーや人生ゲームが有名かもしれない。世代を越えて、何度でも遊ぶことができるため、世界中で親しまれている。そんなアナログゲームのなかには一度しか遊ぶことのできないゲームが存在する。

なぜ一度しか遊ぶことができないのか。いったいどのようなシステムなのか。そのエッセンスをヒントにビジネスでの活用方法を考えてみたい。


「レガシーシステム」という言葉をご存じでしょうか。IT関連で聞いたことがある方も多いかもしれません。時代に取り残されているにもかかわらず、いまだに使用されているコンピュータのソフトウェアやハードウェアのことをレガシーシステムと言うそうです。

しかし今回取り上げるレガシーシステムは、アナログゲーム界に登場した新しいゲームメカニズムのことです。レガシーゲームとも呼ばれています。アナログゲームにおいて「レガシーシステム」とは「永続的かつ不可逆的な変化が将来のプレイに引き継がれるシステム」のことを言います。代表的なレガシーゲームである「パンデミック:レガシー」を例にあげてみます。

パンデミック:レガシーは2015年に発売された協力型のゲームです。4つの病原体が人類を滅ぼしてしまう前に治療薬を発見して、感染症の大流行を防ぐためにすべてのプレイヤーが協力していきます。ゲーム内での1年間を連続ドラマのように複数回にわたって繰り返しプレイし、最終的に全員が勝利するか、全員(人類)敗北というどちらかの結末が待っています。そしてこのゲームの最大の特徴がその名前にも含まれているレガシーシステムです。


人類を病原体の感染から救う協力ゲーム、『パンデミック:レガシー』。

パンデミック:レガシーでは、ゲーム展開次第で、カードを実際に破ったり、あるいはゲームボードに直接シールを貼ることでルールが書き換えられたりしながら、ゲーム内の世界もストーリーも変わっていきます。この物理的に不可逆な変化を起こすことによって、その後のゲームに大きな影響を及ぼしていくというシステムがレガシーシステムです。

カードを破ったり、シールを貼ってしまったら二度と遊べないのでは?と思われたみなさん、正解です。もう一度遊ぶことはできません。

通常のアナログゲームなら、何度でも遊ぶことを前提につくられています。例えば将棋では、計40枚の駒を並べて対局したあと、もう一度対局したければ再び駒を並べ直せば対局できるわけです。ところがレガシーシステムは、カードを破ったり、ボードに直接書き込んでしまったり、物理的に一度しか遊ぶことができないというシステムなので、とてももったいない印象を受けます。


カードを破いたり、シールを貼ったりすることでゲームに不可逆的な変化を与える。

しかし「一度しか体験することができない」。ここがゲームのメカニズムとしての斬新さ以上に「価値」があるのではないでしょうか。一度しか遊ぶことができない。だからこそ、より一層真剣に遊んだり、誰と一緒に遊ぼうか悩んでみたりと、その体験はとても貴重なものとなっていきます。

レガシーシステムによって、一期一会の体験を提供することができるのです。ビジネスではどのように活用できるのでしょうか。いくつかのモデルを想定してみたいと思います。

文=大山 徹 イラストレーション=尾黒ケンジ

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