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PwC Japanグループは2022年5月、企業におけるAI(人工知能)活用状況と優先課題を探るため、予測レポート「2022年AI予測(日本)」を発表した。注目すべきは、日本企業によるAI活用が大きく進み、米国と匹敵する状況にまで達しているという調査結果。一方、それに伴い、AI活用における新たな課題やユースケースも生まれているようだ。これらのトレンドを踏まえ、日本企業がAIを最大限に活用しビジネスを変革するために取り組むべき優先課題やアクションなどについて、PwC コンサルティングの中山裕之、藤川琢哉が解説した。


米国に追いついた日本企業のAI導入


PwCは米国で「AI予測」を2018年より毎年発表している。この調査は米国におけるAI活用状況と優先課題について探るものだが、PwC Japanグループも2020年から日本での調査を開始し、今回3回目となる「2022年AI予測(日本)」を発表した。

調査は日米ともにWebアンケートによって行われた。対象となったのは、AIを導入済みまたは導入検討中で、米国では売上高5億米ドル以上の企業の幹部、日本では500億円以上の企業の部長職以上の役職者である。有効回答者数は日本300人、米国1,000人となっている。

冒頭、PwCコンサルティング パートナー、PwC Japanグループ データ&アナリティクス リーダー、AI Labリーダーの中山裕之は「今回の調査結果は非常に興味深い内容になった。日本でAI活用が進む企業が急速に増えている」と語った。


中山裕之 | PwCコンサルティング合同会社 パートナー PwC Japanグループ データ&アナリティクス リーダー AI Labリーダー 

同調査では、AIの業務への導入状況について、「全社的に広範囲にAIを導入」「一部の業務でAIを導入」という日本企業が21年の43%から22年は53%と10ポイントも増加。対して、「概念検証(PoC:Proof of Concept)を実施したが本番導入に至っていない」「AI導入検討中」というAI未導入企業は41%から36%へ減少し、日本企業のAI導入が大きく進展し、米国の水準に近づいたことが明らかになった。


業務へのAI導入状況(日米比較)

その要因について中山は「2018年に経済産業省が発表した『DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート』により、企業にDXという言葉が広まり、取り組みを開始した企業が増えたのではないか。特に日本では、ファーストペンギン(リスクを取って最初に行動を起こす人)が飛び込み、フォロワーが動き出すと、一気に流れが起きやすい」と語った。

注目すべきは、同じ質問を米国の企業にしたところ、AIを導入している企業は昨年の58%に対して今年は55%と、3ポイントのマイナスとなったことだ。米国の企業では、導入に関して進展がないのである。中山は「私自身にとっても意外な結果だった」と感想を述べた上で、その理由について、「米国の企業といえどもすべての企業が先進的なわけではない。先行企業にフォロワーが付いてきて6割近くになるというのは、一つの上限ではないか。また、米国企業は短期的な成果を求めるため、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、プロジェクトが止まっているとも考えられる」と説明した。

数字の上では、日本企業におけるAI活用度合いが米国に追いついたように見えるが、中山は「その中身を見ると、『全社的に広範囲にAIを導入』していると回答した企業の割合は、日本で13%だったのに対して、米国は26%と倍になっている。日本企業が取り組むべきことは多い」と話した。ただし、AI活用が進んでいる日本企業の55%が今後1年の売上高が増加すると回答しているのに対して、AI未導入企業ではそう回答した企業が27%にとどまっていることから「AIの活用がビジネスに貢献していることがうかがえる」と中山は語った。

「ROI測定」「AIガバナンス」で米国に後れを取る


AIの業務への導入状況は米国の55%に対して日本は53%と、日本のAI活用水準が米国に追いついたと言えるが、具体的にどのような点が進展してきたのか。PwCコンサルティング パートナー データ&アナリティクス リーダーの藤川琢哉によると、「データ利活用におけるルール(データガバナンス)を導入(80%)」「データに関する専門の部署を設置(67%)」「全社データ基盤を導入(60%)」「データカタログを整備し、社員によるデータ活用を推進(56%)」「社員に分析用のクラウド環境を提供(45%)」「社員に機械学習の構築を自動化する環境(AutoML)を提供(40%)」など、多くの企業でデータマネジメント組織およびデータ民主化の環境の整備が進んでいるという。


データマネジメント組織およびデータ民主化の環境整備状況(日本)

藤川は、「私もコンサルタントとしてクライアントと接する中で、企業の取り組みが進んでいることを実感している」と話す一方で「日本が遅れている部分もある。その一つがROI(投資収益率)の測定方法だ」と指摘した。今回の調査では、「現在のAI活用」のROI測定能力について、「正確に測定できている」と答えた企業が米国で64%だったのに対して、日本では21%と大きく水をあけられている。「PoCを実施した後にやりっぱなしという企業も散見される」と藤川は加えた。

また、日本企業は米国と比較しAIガバナンスでも後れを取っているという。日本はAIガバナンスの検討に留まっており、アクションにまで移せていない。藤川はPwCの提言として「PoCのROI測定を確実に実施し、全社展開で効果を最大化すべき。また、社会に受容されるAI活用を目指し、AIガバナンスの対策とその対外開示をすべき」と述べた。


「現在のAI活用」のROI測定能力(日米比較)

「内製化」がAI活用のキーポイント


今回の調査では、「テーマの創出・企画」「PoC」「業務組み込み・本番実装」「運用改善(MLOps)」のそれぞれのフェーズで、AI導入企業と導入準備中の企業に「完全内製化」度合いについて尋ねている。その結果、AI活用が進む企業は、内製化が進んでいることがわかった。


AI導入の各フェーズにおける完全内製化度合い(日本)

藤川は「内製化はAI活用におけるキーポイントになる」と説明する。その理由として、アジャイル(短い周期で改善を繰り返す手法)の必要性が挙げられる。「AI活用はトライ&エラーから数少ない成功事例を見つける作業。また、AIはリリースしておしまいではなく、リリース後に精度の改善を行う必要があるため」(藤川)だ。

アジャイルを推進しようとしても、旧来型の請負契約では柔軟な軌道修正は困難であり、内製化・自走化できる状態を作っておくことが重要だという。調査では「2022年に自社で内製化に取り組みたいAI導入フェーズ」について尋ねている。注目すべきは「運用改善(MLOps)」のフェーズに取り組みたいと回答した企業が23%に過ぎないことだ。さらに、「2022年に自社で育成し、最も内製化したい職種」についても、「高度データサイエンス人材」が42%と高くなっているのに対して、「運用保守人材」は8%となっている。運用保守フェーズにおける内製化の注目度が低いことは、日本企業の大きな問題点であろう。

「AIの価値を最大化する運用フェーズこそ、軌道修正のために内製化・自走化すべき。また、ユースケース創出を担い業務知見を要するトランスレーター人材を社員で育成すべき」と藤川は提言する。


藤川琢哉 | PwCコンサルティング合同会社 パートナー データ&アナリティクス リーダー 

日本企業のAI活用は新たなフェーズへ


日本企業にAIの活用が普及してきている中、新しい取り組みを進めている事例も増えているようだ。調査では「2022年のAIに関する優先課題」についても尋ねている(優先順位上位から3つ)。「AI戦略の設定」は米国31%に対して日本は46%、「AIと他のテクノロジーの融合」は米国33%に対して日本は40%と、日本企業のほうが高くなっている項目もある。「AI単独での活用はひと段落し、AIと他のテクノロジーの融合で新しい問題を解決していこうという動きが増えている兆候ではないか」と藤川は分析する。


2022年のAIに関する優先課題(優先度1〜3番目合計、日米比較)

実際に「AIと他の技術の融合の取り組み状況」を尋ねたところ、IoT、ロボティクス(RPAを除く)、AR、VR/メタバース、3Dプリンティング、ブロックチェーン、ドローン、量子コンピューターのいずれについても50%以上の企業が「実施している」「計画済・導入予定」または「検討中」と答えている。「AI単体ではできないような様々なことが、他技術との融合によって生まれてくるのではないか」と藤川は期待する。


AIと他の技術の融合の取り組み状況(日本)

今回の調査で示された日本企業ならではの特長として、ほかに、データ流通への注目の高さがあるという。「他社とのデータ連携の取り組み状況」について、「実施している」または「検討中」と答えた企業は70%に達している。また、AIガバナンスについては、「すでに取り組んでいる」「取り組みを一部進めている」と回答した日本企業は47%だった。

藤川は「AIガバナンスに取り組む企業は増えている実感がある。ただし、日本企業はサイバーセキュリティ、プライバシーに関するリスクには注目しているものの、安全性・信頼性、公平性、説明可能性など、AI固有の新たに生まれたリスクへの理解はまだ進んでいない」と調査結果を紹介した。その上で、「新たな問題解決が可能な他テクノロジーとの融合活用を早期に検討すべき。データ流通による社会課題解決に目を向け、新たなビジネスチャンスを模索すべき。AIガバナンスはAI固有の新たなリスクにも目を向け早急にアクションを取るべき」と提言を行った。


他社とのデータ連携の取り組み状況(日本)

日本企業がAIを活用して事業変革するために


調査結果の発表に加えて、藤川から、日本企業がAIを活用するために、PwCがどのような支援を行っているのか紹介があった。

PwCコンサルティングは、「アナリティクス&AIトランスフォーメーション」というフレームワークを掲げ、ユースケースの創出から、データガバナンス、データプラットフォームの整備、組織設計、KPI設計、人材育成まで、包括的な支援を行っている。また、PwCコンサルティングが大切にしている観点としてクライアント企業の自走化を支援することがあるという。

AI活用の内製化に向けて、伴走型人材育成支援のサービスを行うのもPwCの特長だ。「せっかくAI人材育成のプログラムに参加したのに、現場に戻ったらそれを実践する場がないという例はよく聞く。PwCでは学びのビジネスへの転用、PoC実施を含むプロジェクト支援もきめ細かく行っていく」(藤川)というから頼もしい。

PwCの国内外のネットワークや知見を生かし、データ流通のプラットフォーマーやデータ流通協議体を含む様々なプレーヤーを支援することで、社会課題解決を促進する。企業のAIガバナンスの対応についても診断から実行、教育までを包括的に支援する。

「私たちのソリューションを通じて、日本企業のAI活用による事業変革を支援していきたい」と藤川は結んだ。


関連情報

PwC Japanグループ 2022年AI予測(日本)

PwC Japanグループ データアナリティクス

AI Business Transformation AIを経営の中枢へ-「AI経営」

Promoted by PwC Japan / text by 下原一晃

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