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デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が叫ばれて久しいが、成功している日本企業は多くない。B&DX社の安部慶喜代表取締役社長にその原因と、DX成功の要諦について話を聞いた。


変革の経験がない日本企業


高度経済成長を経て人々の生活水準は一定レベルまで上がり、市場は飽和状態となり、大量にものをつくれば売れる時代は終わった。

ところが日本企業はその成功体験が強烈すぎて、経営手法を変えることができなかった。それが日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を妨げている要因だと、B&DX社の安部慶喜代表取締役社長は言う。

「日本企業は戦後80年近く同じ経営の仕方をし、いまの経営層もその企業文化・経営手法をなぞっているだけ。変革をした経験がないのです」

長年、大手コンサルティング会社で企業の変革を支援してきた安部は、日本企業の変革が進まないことに強い危機感を抱いていた。日本企業のビジネストランスフォーメーション(BX)とDXを実現すべく、2021年にB&DX社を立ち上げた。

「『経験する』ことをドライブする。『Journey to Transformation』が我々のパーパスです。絵を示して終わりではなく、変革の旅へといざなう。何よりも最初の経験をしてもらうことが重要で、一度経験すれば企業はそのあと自分たちで変革を進められるようになるのです」

DXには追い風もある。コロナ禍により、日本でもデジタル化が加速。リモートワークやリモート会議はもはや当たり前になった。

「これは大きな進化でした。日本でも一斉にやればできるのです。なぜなら日本という国は、働いている人たちが優秀だからです。優秀なのに過去のやり方や固定観念に縛られているため、改革(=変える)という発想がない。なぜできないかの説明は理路整然とするのですが、どうやったらできるかを考える癖がついていないのです」

B&DX社ではこうした状況を打破し、DXを実現するための9つのステップを提示している。その第一歩として欠かせないのは、トップの姿勢だと安部は強調する。

「まずトップがこうするのだというビジョンを示すことが必要です。そしてイニシアチブを取って、みんなを巻き込んでいく。社員が本当の意味での腹落ちをして『やろう』という気にさせる。そうすれば我々のサポートがなくなっても、自分たちで自走できるようになります。DXのゴールは突き詰めると、企業文化を変えることなのです」



安部は、それを企業の現場で実践してきた。

社員数5万人規模のある大手企業では業務が肥大化し、完璧主義かつ多重チェックにより非効率な業務であふれていた。加えて成長が鈍化しているため、デジタル活用を軸に余力を生み出し、新規事業を立ち上げようと社長は考えた。そこでDXプロジェクトに取り組んだのだが、1年間で生まれた余力は、全業務のわずか1%にすぎなかった。

DXに失敗した原因を安部はこう分析する。

「この会社は『現状の業務から課題を洗い出し、それを解決するためにシステム化する』というやり方をとっていました。何を成し遂げたいのかというビジョンがなく、定量目標が欠如しており、単なる作業のデジタル化に過ぎなかったのです」

安部はまず、15%の余力創出をいつまでに実現し、それによって新規事業に取り組むという目標を明確にさせ、経営者にそれを自分の言葉で語らせた。社員に納得させたうえで、どんなささいな業務も現場目線で変えていった。部門を横断する改革にも取り組んだ。そうした抜本的な改革により、わずか1年の間に50万時間もの余力を創出することに成功したのだ。

「何が抜本的かというと、業務の自動化は改革の3割程度で、残りの7割は、無駄な業務を徹底的になくしたことです。例えば承認に必要なハンコの数を減らしたり、経営会議の数を減らしたりといったことです。経営会議は社員が準備から時間を取られ、かなりの負担でした。この改革によって、普通の会議でも無駄をなくそうという空気が広まりました」

改革することで余力が生まれるという成功体験を得られたことが、何よりも大きいと安部は言う。それにより、自分たちから積極的に改革に取り組むようになるのだ。



目指すは日本企業の復権


会社のありたい姿や存在意義、つまりパーパスを経営者が明確にする。事業部門やコーポレート部門の役員や部長は、それを伝書鳩のようにただ伝えるのではなく、会社のパーパスと連動させたかたちで部署の方針や計画をメンバーに自分の言葉で伝えなければならない。さらにはそこに所属する個人のパーパスとすり合わせていかねばならない。

それがパーパス経営の本質であり、日本人のパーパスのとらえ方は間違っていると安部は指摘する。

「企業のビジョンをただ示すことがパーパス経営だと思っている人が多いですが、それではこれまで日本企業がやってきた企業理念の植え付けと変わりません。そうではなくて、個々人がいまこの会社にいるのはこういう理由があるという説明を自分の言葉でできるかどうか。自分はこういうポリシーで仕事をしているという、個人のパーパスが企業のパーパスとリンクしていることが重要なのです」

そうすることでやりがいが生まれ、従業員のエンゲージメントが最大化される。従業員エンゲージメントを上げることが、パーパス経営の最も大事な要素のひとつだという。

日本企業は、福利厚生の充実など従業員満足度を向上させることがエンゲージメントにつながると考えてきた。ところがそうした期待に反し、従業員満足度が向上しているにもかかわらず仕事のやりがいが低下しているというショッキングなデータもある。

「従業員満足度を上げることは、言葉を選ばず言えばぬるま湯をつくることです。従業員たちが気持ちよく働けるということは、ストレスが少なく楽になること。でも、本来は楽になるよりもやりがいをもって働くことのほうが重要なはず。従業員にチャレンジさせる環境をつくってあげることも必要なのです」

だからこそ、安部の言うパーパス経営が重要になる。社員と企業とのパーパスが一致していなければ、いいチャレンジができないからだ。

「これまでの積み上げではなく、新しいことに取り組んでいかなければならない時代では、自分が何のために仕事をし、企業が何のために存在するのか、お互いが対話していくことが大事です。パーパス経営とはすなわち対話でもあるのです」

その対話は当然、DXの進展にも影響する。いくらトップがビジョンを示しても、パーパスが一致していなければ従業員がついてこないからだ。真のDXを実現することで安部が実現したいことは、日本企業の復権だ。

「日本の企業が変革し、再び世界に伍して戦える企業へと生まれ変わることが、我々の目指していることです。その変革を実現できれば、人はいまの半分の仕事量で同じバリューを生み出すことも可能になるでしょう。報酬が上がることも大事ですが、働く時間を少なくできれば、残り半分の時間を自分の人生の幸福のために使えます。そんな社会にしていきたいのです」


あべ・よしのぶ◎大学院卒業後、デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)入社。2011年より執行役員。15年からは経営改革部門の責任者 を務める。21年、B&DXを設立し、代表取締役社長に就任。

promoted by B&DX / text by Fumihiko Ohashi | photographs by Kayo Igarashi | edit by Yasumasa Akashi

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