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朝日新聞外交専門記者

尹錫悦大統領(Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images)

ソウルの観光名所、景福宮の周辺がにぎわっている。新型コロナウイルスによる感染騒ぎが落ち着いてきたという事情だけではない。5月10日に発足した尹錫悦政権が青瓦台(旧韓国大統領府)を市民に開放したからだ。文在寅前政権時代まで使われた今の青瓦台は、1991年に完成した。広大な敷地のなかに大統領と家族が住む官邸、大統領の執務室、秘書官たちが詰める建物などが点在している。大統領府に勤務した経験がある韓国政府の元当局者によれば、執務室がある建物を訪ねる際には、側近の秘書室長ですらまず電話で許可を取る必要があった。建物までの敷地内での移動にも必ず車を使い、検問を通過したという。

青瓦台を見物した市民たちは一様に、「こんな素晴らしい場所があったのか!」と感嘆する声を上げているそうだ。敷地のなかに樹木が生い茂る美しい庭園が広がる。都会の喧噪を感じさせない空間で、散策や山歩きが好きな人が多い韓国の市民はうらやましがることしきりだという。

文在寅前大統領も就任前は、官庁街がある光化門に大統領府を移す考えを示していたが、実現できなかった。今回の青瓦台解放にも、強い反対の意見があった。それは分断国家ならではの、事情があった。北朝鮮による暗殺の懸念だ。朴正熙政権時代(1963~79年)の68年1月に北朝鮮特殊部隊による大統領府への襲撃未遂事件が起きた。74年8月にも朴元大統領が襲撃され、陸英修夫人が亡くなった。青瓦台は権力の象徴であるとともに、北朝鮮の襲撃から身を守る要塞でもあった。大統領警護室長は歴代、非常に重要な職責とされ、政権内での発言力も常に強かった。

尹錫悦大統領はその青瓦台を後にし、国防省内に執務室を構えた。将来的には執務室のそばに公邸を構えるだろうが、今は市内のマンションから執務室に毎日出勤している。大統領夫妻は犬や猫好きで、犬の散歩も欠かさない。マンションでは、偶然大統領と出会った市民たちが「運気が上がる」と喜んでいるという。逆に警備は大変だ。毎日の出退勤時は、大統領が通過する道路の信号を全て青にするため、一時的に渋滞が発生するという。

ただ、青瓦台の解放が市民に好評だったためか、尹氏の行動は好意的に見られているようだ。ソウルに住む知人の1人は「市民の目に触れる機会が増えて好感が持てる。1日に10分やそこらの交通渋滞なんて、問題ないだろう」と話す。

文=牧野愛博

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