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日本最大級の総合コンサルティングファームのひとつであるPwCコンサルティング合同会社。同社の有志が立ち上げた、ソーシャル・インパクト・イニシアチブ(以下、SII)という部門横断型組織がいま、その存在感を強めている。これまで第三者的視点でクライアントにコンサルテーションしてきた同社において、社会課題解決のために、社会起点で発想し、クライアントを巻き込むことを目指すという点において独自性が評価されているのだ。

当連載では、SIIの意義や可能性に迫ってみたい。第五回となる今回のテーマは「自治体支援」。デジタル実装を通して地域活性化と課題解決を図る「デジタル田園都市構想」の実現や、地域格差の是正など、持続可能な社会のための取り組みにおいては、自治体の役割が非常に大きい。しかし、新型コロナ対策やスマートシティの実現、少子高齢時代の福祉政策などさまざまな問題を抱えており、特に地方自治体の疲弊が指摘されて久しい。今回は、PwCコンサルティングでコンサルタントとして勤務するかたわら、さまざまな立場で自治体支援を行っている4名に、自治体が抱える課題、そして目指すべき自治体の在り方について話を聞いた。


求められている、ファシリテーション型の思考への移行


──SIIが掲げるコレクティブ・インパクト・アプローチ(※)を実践し、より大きな社会課題を解決していくためには自治体との協業が不可欠です。しかし、自治体そのものにも解決すべき課題は山積しています。みなさんの自己紹介とともに、支援を通して見えてきた自治体の課題について聞かせてください。

※コレクティブ・インパクト・アプローチ:SIIのコアとなる概念。社会の多くのステークホルダーを巻き込みながら、各者がそれぞれのくくりを超えて協働し、さまざまな社会課題に取り組むことで集合的なインパクトを最大化することを目指す。

草野秀樹(以下、草野):私は公共事業部に所属しており、事業開発や自治体DX、行政改革の領域で地方自治に関わる領域を専門にしています。また10年前から出身地である長崎で地域団体を立ち上げ、地域課題解決にチャレンジし、現在は複数の大学で非常勤講師も務めています。そのなかで、常に言われていることですが、改めて地域の人材課題は大きいと感じています。

東京のように人材供給力が高くない地方の自治体では、足りない人材をどう連れてくるかを含めて、課題解決のフェーズに応じて適切なタイミングで適切な人材を当て込んでいく必要がある。言い換えれば、無形財産をいかに育てるかが課題解決のカギになるでしょう。

また自治体では、ディレクション型に偏った思考が課題解決を難しくする要因となっています。単年度評価で成果を定義しながら、数十年先を見越して地域づくりを行う自治体の在り方にとって、ディレクション型の思考は欠かせません。一方で多様性を取り込みながらオープンイノベーションを加速させていくためには、より短いスパンで試行錯誤を繰り返す必要があります。その際には、中立的な立場で民間企業や住民から建設的な意見を引き出すファシリテーション型の思考がより重要になると感じています。


草野秀樹◎公共事業部 シニアマネージャー。マーケティング会社、コンサルティングファームを経て、2016年より現職。プロダクトデザインから社会・公共デザインまで幅広い学術研究の経験を活かし、地域における新規事業開発支援や課題解決支援、地域の変革に向けた戦略検討やデジタル活用、協働に向けたファシリテーション支援を推進。また複数の大学において講師を務め、デザイン×ビジネス×アントレプレナーシップの視点から地域イノベーション人材育成や産官学連携を実践している。

三島明恵(以下、三島):私も草野さん同様に公共事業部に所属しており、地方自治体のなかでも主に市町村の窓口業務改革やデータ分析などを支援しています。地方創生もさることながら、地方自治体で働く職員を専門知識で支援するというのが私の活動テーマです。

草野さんが提言したファシリテーション型の思考と実践は、人材だけでなく自治体の在り方そのものを左右していくかもしれません。例えば、私たちはしばしば「役所仕事」という表現を使います。その背景にあるのは、「行政=サービスを提供する側」という固定化されたイメージです。しかし地方創生を考えたときに、「自治体=サービス提供者、住民=サービスの受領者」といったイメージからの脱却が求められています。ファシリテーション型の思考と実践は、自治体側だけでなく、住民側の価値観の転換を促すことにつながるのではないでしょうか。


三島明恵◎公共事業部シニアアソシエイト。2019年より現職。「デジタルアクセラレーター」という役割で、人材会社の自治体BPO事業支援や自治体データ利活用戦略などに従事。プライベートでも、デジタルガバメント実現に向けて活動を行うNPO法人「Digital Government Labs」のプロボノメンバーとして、自治体システム標準化対応のオンライン勉強会の開催などに取り組んでいる。前職では自治体基幹システム(戸籍・住民記録)のパッケージベンダーにて、システム導入・開発・保守および法改正・総合窓口化のコンサルティング業務に従事。

中林優介(以下、中林):私は、TMT(テクノロジー、メディア、情報通信)チームに所属しています。ここ数年、社会のデジタル化とともに、より複雑化する課題を解決していくためには、国や大手企業といった大きな視点での取り組みのみならず、個人が生活する最小単位のコミュニティである地域に根ざすべきとの認識を強め、当社に許可を得た形で自治体の非常勤DXアドバイザーとしても活動しています。

私も人材問題は大きな課題だと思います。社会課題が複雑化・多様化するなかで、自治体が職員だけで地域の課題を解決するのは非常に難しく、住民や、通勤者、観光客など、地域に関わるリソースもうまく活用する必要が出てきています。そのためにも、しっかりとしたビジョンに基づいて、産学官民連携も強化していくべきだと考えています。

またこれまで自治体の目標は人口や歳入の増加など、経済的な豊かさを主なゴールに設定してきました。しかし、企業や個人の価値観が多様化し、社会課題解決がより強く意識されるなかで、旧来の価値観のままでは自治体が時代に取り残されていくリスクが顕在化しています。産業構造も住民の数も異なる約1,700の自治体がそれぞれの“豊かさ”を再定義することが求められていると考えています。

奥野和弘(以下、奥野):私は、テクノロジーコンサルティングに所属をしており、スマートシティで可能となるサービスと既存の行政情報システムの連携を可能にするオープンな連携基盤「都市OS」 などを担当しています。シビックテックの活動を推進している一般社団法人コード・フォー・ジャパンとの仕事をきっかけに、地方創生に関わるようになりました。

私は自治体が抱える課題の本質として、ニーズの吸い上げがあると考えています。企業であれば自社サービスのターゲットセグメントを抽出できますが、地方自治体はすべての住民に対してサービスを提供する義務を負っています。また行政は基本的にゼロサムゲーム。税収を予算として配分する際に、優先順位をつけなければなりません。相対的に少ない職員の数で、あますことなくニーズを吸い上げ、さらに説明責任を果たしながら意思決定を行う。これは一般企業では考えられない難しさであり、課題だと思います。

必要なのは、失敗のメカニズム解析と共有


──実際にみなさんはさまざまな立場で自治体支援を行っていますが、支援アプローチにおける課題はどう感じていますか?

三島:成功事例しか評価する仕組みがないのは、自治体が抱える固有の難しさのひとつです。前例のない政策や事業の推進が評価軸になっていますが、必要な政策のために既存サービスを中断した場合の評価は仕組みそのものが存在しません。これは課題解決を難しくする大きな要因です。

草野:失敗事例を共有できないのも自治体固有の難しさかもしれません。成功にはさまざまな要因がありますが、失敗要因はかなりの確率で再現性があるため、本来であれば地域課題にアプローチする事業では失敗事例こそ収集し、共有すべきです。失敗がどういったメカニズムを持ち、どういったアプローチがあれば問題が表出しないかを丁寧に分解する必要がある。これは民間企業への補助事業や委託事業だけでなく、自治体自身が推進する政策においても同様です。

奥野:それは、自治体の仕事が基本的に請負契約であることも、要因の一つかもしれません。請負契約では原則としてあらかじめ決まっている成果物をアウトプットする必要がある。それほど上手くいかなかったとしても、とりあえず形だけ整えて報告するということも起こりかねないので、失敗事例が蓄積しにくい。 

中林:宇宙ロケットの開発においても、失敗の回数が多いほど成功に近づくといわれています。失敗が悪いものとされて個人の責任に閉じるのではなく許容されることが重要であり、成功も再現性・汎用性が高いものにしていく必要があると思います。具体的には、私が自治体内部にいる時は、「これはどのようなゴールを達成するためにやるのか」「誰に対してどのような価値を生むのか」を徹底的に問います。これまでの自治体は既存の慣習・業務にとらわれてしまい、なかなかそういう発想をしきれずにいました。開始時に事業の中止を考えることはあまりないですが、本来は事業を止めるための基準値の設定や、失敗事例の共有など、根幹にあるマインドセットを変えていくことが、自治体の未来を考える上では避けては通れない課題ですね。


中林優介◎テクノロジー・メディア・テレコム事業部ディレクター。当分野において15年以上のコンサルティング経験を有する。日系大手コンサルティングファームを経て、現職。近年は、AI・RPA・IoTなどのテクノロジーを活用した新規事業創出、グローバル事業開発、アライアンスプロジェクト(M&A、スタートアップ連携など)に従事。2021年より自治体非常勤特別職員として地域社会課題解決に向けたDX戦略推進を支援し、新しい働き方を実践している。

地域内外を巻き込んだ、自立的な社会づくりを


──地方創生のためには自治体のさまざまな改革が必要ですが、みなさんが思い描く自治体の在り方をお聞かせください。

奥野:私は住民一人ひとりが地方創生を自分事として捉えるべきだと考えています。良い街づくりは行政の仕事でもありますが、そこに住む人々にも主体的に参加することが求められます。その自分事化を支えるためにも、短期的な視点のみならず、中長期的な発展も考慮して、住民のニーズを効率的に吸い上げ、住民との対話を通して優先順位をつける仕組みが必要です。私はテクノロジーのコンサルタントとして、デジタル面で自治体の効率化を支援していきたいです。


奥野 和弘◎テクノロジーコンサルティング部門 ディレクター。2019年より現職。 IT業界で約20年にわたり、主に大企業に対するITソリューションの提案や導入に携わる。その間にインフラ基幹系アプリケーション、情報系システムなど幅広いテクノロジーに関連する知見を獲得する。現在は、企業のDXやデジタル新規事業の立ち上げ、スマートシティなどのテクノロジー領域を限定しないプロジェクトを多く支援している。土・日は入社前に立ち上げた自身のITベンチャーのCEOも務めており、「兼業人材」として新しい働き方を実践している。

中林:私は自治体職員に「自分たちがありたい姿、やりたいことは何なのか」を突き詰めていただきたいと思っています。上司や住民の意見だけでなく、自分たちが楽しみ、やりがいを持って職務に励んでこそ、地域にも良い影響が波及していくと考えています。

三島:本来提供し続けるべき行政サービスを維持するのが使命だと考えています。今の行政サービスは昭和30~40年頃につくられた制度であり、非効率な側面が多分にある。職員がやりがいを持って働ける時間をつくれるように、制度設計の改革が急務だと思っています。

草野:地方自治権という権利を地域として行使するために、地域の内外の人たちと関わりながら、自立的な社会づくりを一緒に達成するモデルを生み出していきたいです。そのためにも、全員が中心となってアクションを起こす、ファシリテーション型の地方自治体を実現したい。また、人材が不足しているなか、テクノロジーや人材育成、制度設計など私たちが得意とする領域で支援を続け、地方創生のために必要な時間的・精神的な“余白づくり”に寄与していきたいです。



PwC コンサルティング 「ソーシャル・インパクト・イニシアチブ」連載

#1 公開中|「社会課題の解決にもビジネスの優位性を」──PwCコンサルティングの部門横断型チームが構築する新たなビジネスモデルとは
#2 公開中|「マルチステークホルダーをつなぐハブに」SIIだからこそ実現可能な社会課題解決へのアプローチ
#3 公開中|各業界の脱炭素戦略にどうアプローチするべきか。ナレッジの共有で横断的な施策を提案するPwC コンサルティングSII チーム
#4 公開中|コンサル視点と当事者目線の両立で社会課題の解決を。PwCコンサルティングがプロボノ活動を積極的に推進する理由
#5 本記事|地方創生に必要な支援とは──PwCコンサルティングSIIチームが考える「産官学民が連携した、自立した自治体の在り方」

Promoted by PwC Consulting LLC / text by Jonggi Ha / photographs by Tadayuki Aritaka / edit by Kaori Saeki

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