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「小島先生の活動のゴールは何ですか?」

そのころ、丸井グループは創業以来初となる赤字を計上し、経営の危機に直面していた。この状況を乗り越えるには、受身的な企業風土を「自らで考え、行動する」ものへと変える必要がある。そう考えた青井は、社員たちに人生の目標や生きがいを聞いて回っていたのだった。

「医師として、健康を通じた人と組織の活性化に貢献したいです」

迷わずそう話すと、青井の顔がパッと明るくなった。そしてこう言われたという。

「私は、社員がフローに入れる会社をつくりたいのです」

フロー状態。まさにそれは小島が研究してきたテーマだった。そこから1時間、2人は理想の職場について語り合った。

この日を境に、ウェルビーイング経営に向けた小島の活動は一気に加速した。14年には健康推進部(現ウェルビーイング推進部)の部長に着任。2年越しでリーダー層向けのプログラムづくりに注力し、16年2月にレジリエンスプログラムを立ち上げた。そのとき真っ先に参加を表明したのは、店舗や事業所で出会い、信頼関係を築いてきたリーダーたちだった。

「ひたすら現場を回っていたころの努力は、決して無駄ではありませんでした」

16年11月には一般社員向けのウェルビーイング推進プロジェクトも始動した。50人の枠に対して260人の応募が集まった。運営にはレジリエンスプログラムを受けた管理職たちが参画している。

「ウェルビーイングな状態」は人によってさまざまだ。だからこそ、小島は自発性や主体性を重視する。プログラムへの参加を手挙げ式にし、自主的な取り組みを推奨しているのはそのためだ。

一方で、「開始から5年が過ぎて、新たな課題も見えてきた」と小島は言う。

「社員の『やりたい』を大事にしつつ、企業として、社員から立ち上がったプロジェクトをステークホルダーのウェルビーイング向上にどうつなげていくのか。社会により大きなインパクトを出せる活動が求められています」

経営トップの要求水準が上がっている。運営にもさらなる工夫が必要だ。そう課題を口にしながらも、小島からは挑戦を前向きにとらえる姿勢が感じられる。

「本当にやりたいことを突き詰められているし、ライフワークだと思うと頑張れます」

1本のカカシから生まれた、丸井グループのウェルビーイング経営。だが、いまの小島はもはや静的なカカシではない。母屋を支えるひとりのリーダーとして社会にムーブメントを起こすべく動き続けている。「いま思えば、心象風景のなかで当時の自分を静的なカカシに例えたこと自体が、もっと動きたいという思いと葛藤の表れだったのかもしれません」

ちなみにいま、心象風景を描くなら? そう聞くと小島は少し考え、こう答えた。

「会社や産業医の仲間たちと腕を組んで、光に向かって進んでいる感じでしょうか。とはいえ今は働く意義についての葛藤はもうないから、絵を描こうという気持ちにはならないですけれど」

小島玲子◎医師、医学博士。メーカーの専属産業医を約10年務める傍ら、心療内科にて定期外来診療を担当。2006年より北里大学大学院医療系研究科に進学し、医学博士号を取得。11年に丸井グループ専属産業医となり、19年に執行役員、21年に取締役執行役員CWOに就任。

文=瀬戸久美子 写真=小田駿一

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