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病で髪を失う人の声なき声


かくも根付いてしまった日本での「髪ハラ」を減らすためには、脱毛の原因を正しく知ることが欠かせない。日本人成人男性の約3人に1人がなるとされるAGA(男性型脱毛症)や、円形脱毛症などの「脱毛症」は広く知られているが、白血病などのがん治療(抗がん剤など)によって髪の毛を失う方がいることを忘れてはならないだろう。

病院内の美容室「こもれび」で10年以上、抗がん剤治療などで髪を失った方々に接してきた是枝貴彦店長は、「抗がん剤の副作用で患者様が最も気にされるのが脱毛で、それを理由に治療を拒否する場合もあります。脱毛をともなう抗がん剤治療では、自分の外見が変わってしまうことにも不安を覚えられるのです」


美容室「こもれび」がん研有明病院店の是枝貴彦店長(写真提供:アデランス)

ウィッグを着けていることが、『周囲に知られてしまうのではないか…』という不安を拭えない患者も少なくないという。

「患者様が経験したショックや恐怖、そして抱えている不安は、誰もが共感できるとは容易に言えないものですが、こうした人たちが心無い言葉に触れた時、どのような感情を抱くかを想像することは難しくないはずです」

髪ハラに対して是枝氏はこうも話してくれた。

「おそらく、ご家族ががんになって髪を失われた経験をお持ちの方などは、不安な気持ちがよくわかると思いますので、そういったことを言わないのではないでしょうか。今は2人に1人はがんに罹患する時代ですので、病気や治療にともなう脱毛症状が知られていくことで、心無い言葉も減っていくのではないかと思います」

髪ハラ解決の処方箋は?


コミュニケーションの専門家は「日本社会の同調圧力への考察を」


2万人アンケートを実施した、コミュニケーション教育のシンクタンク「日本パブリックリレーションズ研究所」の井之上喬所長は、アンケートをこう総括する。

「髪ハラ被害者が声を上げられず見落とされてきた原因は、日本社会に根付いてきた過度な『同調圧力』だと考えています。子供の頃から正しいハラスメント知識を教育するとともに、倫理観をベースに『ただしいとおもうこと』や『良くないと思うこと』をはっきりと主張できる未来の大人たちを育てて行くべきでしょう」

また、井之上氏は、過度な同調圧力を考察することで、日本の会社や組織に根付く前例踏襲主義や不祥事の隠ぺい体質の根本原因を探る契機となると語る。


日本パブリックリレーションズ研究所の井之上喬所長

髪ハラと向き合う中で見えてきた、モノいえぬ日本の「同調圧力」社会。何気ない言動によって、声に出せずに陰で泣いているかもしれない誰かを思いやる想像力とコミュニケーション力が求められている。

文=葉崎修

ウィル・スミス

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