ポストラグジュアリー 360度の風景


中野:ああ、なるほど、アートな生地づくりを基本としながらもタイムレス、前衛、都会的、ナチュラル……とさまざまにテイストを展開していく姿勢に、似た空気を感じます。いまヨーロッパではソーシャルイノベーションまで視野に入れた新しいラグジュアリーの波が起きていると思うのですが、それを感じることはありますか?

村瀬:パリに「レクレルール」という40年以上続くセレクトショップがあります。マルタン・マルジェラ、ヨウジヤマモトなどをいち早く見つけた目利きのお店で、オーナーはユダヤ人のアルマン・アディダさんです。「コレット」がなくなり、パリのファッションシーンを牽引しているのはここだけになった、と言えます。

そのアルマンさんが、先シーズンからコングロマリットのブランドの扱いをすべてやめたのです。理由は、ブランドが一方的に決定するさまざまな制約が多すぎることと、ブランド側の取り分を多くするような設定に疑問をもったことだと、パリでお会いしたときに話していらっしゃいました。

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「レクレルール」のオーナーであるアルマン・アディダ氏(右)

中野:ラグジュアリービジネスと言えば、粗利益が大きいビジネスというふうに解釈されていますね。粗利益の大きさをどのように納得させるかということが、ラグジュアリー戦略に含まれています。

村瀬:美術館をつくるとか、文化的・社会貢献的なことをやっているので、そこに夢を見させることが粗利益の理由付けになっていました。ただ、やはりそれは健康ではない、とアルマンさんも思い始めたのです。ビジネス的な要素を別としても、クリエイティブな若い才能を拾っていくのが我々の役目だ、と話していました。

中野:価格設定のなかに広告費も入れないし美術館をつくる費用も入っていない。その在り方のほうが新しいラグジュアリーの理想に近いですね。

村瀬:利益を上げて文化的なことをやる、というのは「旧型」ですね。いまは、ビジネスをやっていること自体が社会に対してポジティブな影響を与える、という方向にシフトしていると思います。購買者もまた、サポーターとしてよい循環の中に取り込む。サポーターが企業活動に参加し、ブランドの価値を一緒に作っていくというイメージがあります。

中野:結果としてソーシャルイノベーションが起きる、と。

村瀬:職人や生産者に還元される、富の分配につながるところに行くのが落としどころだと思っています。

独創的な製品を売るなら、独創的なビジネスのやり方で


中野:展示会ではメディアやバイヤーよりもむしろ、一般のお客様を多く見かけました。

村瀬:受注生産なんです。その場でオーダーしていただいて、半年待っていただくのです。

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中野:購買者は、作り手の顔が見えるのがいい、とよく言っていますが、作り手にしても、着てくださる方の顔が見えるほうがいいですよね。

村瀬:はい、いつか売れ残ってセールになって最終的に焼却されて……と想像するより、その方がモチベーションが上がります。でも、失敗することもあります。「○○さんの分の絞りの柄を失敗してしまいました」とか。「では色を変えてもらえるか、待ってもらえるか聞きます」なんて、ばたばたすることもあります。

文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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