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メズム東京、オートグラフコレクション 総支配人 生沼久

2020年、東京のベイフロント 竹芝エリアに誕生した「ウォーターズ竹芝」は、劇場や店舗、オフィスなどから成る複合施設。その上層階にオープンし、感性を刺激する空間やコンテンツで話題となっているのが「メズム東京」だ。この個性的なホテルを指揮する、こちらも個性的な総支配人である生沼 久(おいぬま ひさし)氏を取材した。


東京ベイエリアの新しいデスティネーション「メズム東京」




「メズム東京」の名は、英語のMesmerizing(「魅了する」「うっとりさせる」の意)に由来する。TOKYOの「今」を感じさせる空間や設え、照明、音、香り、食、サービス――五感に響く“新しさ”が、国内外からの宿泊客はもちろん、東京に住まい、暮らす人々をも惹きつけている。

窓の外に見えるのは、東京湾の広大なウォーターフロントを背景に聳える高層ビル群の眺め。足元には、ゴージャスな借景としての浜離宮恩賜庭園の緑が広がる。都内に身を置いていては気がつかない「水辺の都市」としての東京の魅力的な姿を、ダイナミックなパノラマとして目の前に見る体験は、なんとも新鮮にして爽快だ。

その「メズム東京」で采配を振るのが生沼 久氏。ひと目見たら忘れない、クリエイティブで個性的なルックスの名物総支配人である。この日は「メズム東京」を訪ね、氏のクリエイティビティとパッションの源泉に至るまでの話を聞いた。

総支配人の異色の経歴から生まれた
エキサイティングなコンピレーション感覚のホテル


──「メズム東京」はForbes JAPAN SALONの第1回レギュラーミートアップの会場ともなりましたが、そのスタイリッシュな空間や料理、サービスは大いに話題となりました。



自らを前向きにアップデートし続ける人にインスピレーションを与えるということを目指してつくったホテルなので、そうおっしゃっていただけると嬉しいですね。「スタイリッシュ」は下手をするとチープになったり押し付けになってしまったりするので“やりすぎないところでどう寸止めするか”というところにこだわりました。ホテルの主役はあくまでもお客様ですので、やりすぎないギリギリのカッコいいところを模索して、舞台背景として用意しました。お客様にとっての余白を残しておきたいと考えた匙加減なのですが、いかがでしょうか。

──なるほど、あえて余白を残した感じというのは、実際に宿泊もしてみて合点がいった気がします。さて、今日は生沼さんご自身についてお話しを伺いたいと思いますが、まずこれまでの職歴について教えていただけますか?

私の経歴は、ホテリエとしては少し変わっているかもしれません。一般的にはラグジュアリーホテルに就職したら、同じカテゴリーのホテルでキャリアアップしていきますが、私は最初が「ウェスティンホテル東京」というシティラグジュアリーホテルで、次に「シェラトン・グランデ・トーキョーベイホテル」というディズニーリゾートを訪れるファミリー層を対象としたホテルに転職しました。

──それはどんな経緯で?

ウェスティン東京時代、外国人のGMと話した時に「いつかはあなたのようにGMになりたい」と伝えたところ、「幅を広げて経験を積んだ方がいい。違うタイプのホテルでも働いてみるべきだ。自分もそうやって、世界中を渡り歩いてきたからこそ今の立場があるんだ」というようなアドバイスをくれたんです。

実際にすぐ後で「シェラトン・グランデ・トーキョーベイホテルに宿泊部門の責任者として行ってみる気はないか?」と言ってくれました。私の中ではファミリー層向けホテルというのはまるで考えたことがなかったのですが、アドバイスもあったし、規模も800室(当時)と大きかったこともあり、新しいチャレンジとして行ってみようと考えたわけです。



──そこではどんな経験が待っていましたか?

レジャーやリゾートという、それまでとは違った考え方からのお客様への対応であったり、シティホテルとはまるで違うような期待値に触れたりなど、ホテリエとしての視野を広げることに繋がりました。それに、隣にあるディズニーリゾートがなぜあんなにリピーターのお客様をもっているのかということについても考えさせられました。ホテルは少しでもお待たせすると、すぐにクレームの対象となりますが、ディズニーリゾートでは当然のように列をつくって並びますよね。それが不満とならないほどの魅力づくりということについて、深く考えさせられました。

もう一つ、ディズニーリゾートでは皆さん、今日は例えばパレードを見ようとか、乗り物に乗ろうとか、コンテンツがたくさんあるがゆえに、ある程度プランニングをしてから来るじゃないですか。ホテルもそんなふうに、前向きに楽しみ方を考えた上で利用してもらえるようにできないものかと、あの頃、よく考えましたね。

次の転職では「モクシー・ホテル」という、いわゆるライフスタイル寄りのミレニアム世代向けのホテルで、ついにGMの役職を経験しました。そこまでで「ウェスティン」「シェラトン」「モクシー」というどれも異なるジャンルの、しかも規模で言っても200〜1,000室という幅広いバリエーションを経験させてもらったことは、ホテリエとしてユニークな経歴と言えるのではないでしょうか。

──そうした経歴を踏まえて指揮する「メズム東京」は、どんなホテルなのでしょうか?

これまで学んできたことを全部ミックスしてつくった、私の中では最高の“いいとこ取りのホテル”だと思っています(笑)。実はこうしたブランドミックスの感覚って、日本人の得意分野なのではないかと思っているのです。欧米の人たちが一つのお気に入りのブランドやお店で服を揃えるのに対して、日本人はセレクトショップをはじめとするいろんなお店を回って、ミックスコーディネートをするじゃないですか。欧米の人に言わせると、それが「日本人はオシャレだよね」となる理由らしいのです。ミックスされた感性だから、いろんな個性のお客様の受け皿になれる──そんな考え方です。

リミックスという感性


ちなみに私はクルマが趣味なのですが、純正そのままではなくて、私の考える最高のパーツを集めてきてカスタムしています。そうすることで、他の誰とも被らない自分だけの理想の形になるから。



「メズム東京」もそうで、例えば全265室にスピーカー代わりのデジタルピアノを設置しています。弾く人次第で違う音を出せるというのが面白いじゃないですか。他にも音とか香りとか、このホテルならではのクリエイティブな空気をつくるために、私個人の嗜好を反映させながらいろんな要素をリミックスして入れています。洋のいいもの、和のいいもの、新しいもの、古いけれどいいものを厳選して、お客様自身の“らしさ”を引き出せる舞台背景として用意しました。 

それから、「メズム東京」ではスタッフを「タレント」と呼んでいます。なぜかというと、彼ら一人ひとりがディズニーでいうところのキャストであり、エンターテイナーなんですよ。だから、ちゃんとプロのヘアメイクさんに一人ひとり見てもらって、個性を引き立たせて生かせるようなプロデュースをしています。

──どれもユニークな取り組みで、興味深いですね。それにしても、この規模でこれだけ総支配人のパーソナリティが表に出ているホテルというのは、珍しい存在なのではないでしょうか?

会社から信じて任せてもらえている私は、恵まれていると思います。私たち自身も楽しみながら、今の時代に求められる新しい感覚のホテルづくりにチャレンジできているのかなという自負がありますが、そんなホテルがもっと増えてくれたらいいですね。画一的なホテルブランドを何処かから持ってくるのではなくて、もっと個性のあるホテルを増やしていくことによって、日本の観光の魅力をもっと海外の人たちにも届けられるのではないかなと思っています。魅力ある独自コンテンツをつくって、ファン層をつくって──というところで勝負していけば、後はお客様から発信してくださいますから。

──ファンがファンを連れてくるという好循環ですね。

はい。クルマも同じで、移動手段として考えればなんでもいいわけですが、じゃあなぜそのクルマじゃなければいけないのかということがあります。私はクルマ自体の背景やストーリーが好きで、なぜこんなクルマが誕生したのかと。歴史やストーリーや人にハマって好きになっていくんです。今度はそのクルマに特化したショップに出合うと、そこで働く人たちもエンスーですから、また彼らに影響されてどっぷりハマっていくわけです(笑)。なぜそのショップに通うかというと、もちろん専門知識があって直せるとか、パーツが揃うとかいうこともありますが、やっぱり人に引き付けられているのだと思います。本当に好きを仕事にしている人たちに触れるのが楽しいから。

「メズム東京」も、そんなふうに同じ“好き”を共有し合える場所になれたら嬉しいなと思っています。

クルマへの情熱とこだわり




──そこまで情熱を注ぐ生沼さんの愛車を、聞かないわけにはいかないですね(笑)。

BMW M3ツーリングです。と言っても、私のはワンオフで世界に1台しかないクルマです。話すと長くなりますが、初代のM3オーナーさんが事故に遭ってしまって、でもエンジンや足回りなどは無事だったので、日本に正規輸入されていないツーリングボディに中身を総移植したのです。私は私で、M3を20年くらい乗っていました。これも正規では輸入されていない「リムジン」と呼ばれる4ドアタイプのレアな個体だったのですが、約2年前に私も事故に遭って、全損してしまいました。長年大切に乗ってきた愛車で、もう二度と手に入らない個体だから、ものすごくがっかりして。そうしたら、ツーリングのオーナーになっていたメカニックさんがそんな私を見かねたのか「譲るよ」と言ってくれて。無事だった内装やミッションなどは全部移植して入れ替えて、今の形になったのです。だからクルマ一つとっても、人と人の繋がりと、共有する熱い想いがあってのものなんですね。いつも感謝の気持ちを胸に抱きながら、ハンドルを握っています。

──並ならぬ情熱が伝わってきます。

こじつけではないのですが、クルマのショップの話も、それが例えばホテルとお客様の関係性であっても素敵だなと思えるのです。私たち側の熱意と、お客様の嬉しいとか楽しいが繋がっていく関係が築けたらいいなというのを、プライベートからも学んでいます。

クルマはまさに情熱で、乗るだけじゃなくいつもピカピカに磨いています。90年代のクラシックカーですから、洗いながら優しく声をかけるんです、「どこか具合悪くないかな?」って。クルマにも感情があって、他のクルマの話をすると途端に体調を崩すんですよ。走りながら「あ、あのクルマいいな」なんて思った瞬間にメーターが止まったりとか(笑)。だからちゃんと愛してあげています。



Forbes JAPAN SALONでは、ラナユナイテッドの木下さんとクルマの話で盛り上がりますね。サロンでも「クルマ愛を語る会」をやりたいですね(笑)。「メズム東京」をクルマ好きの溜まり場にできたらいいな。実は、実家のガレージには初代S30型フェアレディZも寝かしてあるのですが、磨くたびに「早く俺を動かしてくれよ」って語りかけてくるんですよ(笑)。今はまだ動かさずに、ただひたすら磨いています。ドライバーズシートに腰掛けて、ステアリングを握って、いつかこいつを走らせる妄想に浸るのが至福の時ですね。

──男同士はこうやって、クルマの話で盛り上がれるのが楽しいですよね。サロンメンバーには時計好きも多いですが、生沼さんは?



20歳の時に「本物を手にしなくては」と思って買った、ロレックス デイトジャストをずっと大事に愛用しています。今日のオーデマピゲは、義父から最近譲られたもので、70年代の手巻きですね。毎朝巻くのを楽しみにしています。巻きすぎないように気をつけながら、クルマと同じで機械と対話しながら愛用していますよ。自動巻きのロレックスとムーブメントの音も違うから、夜、枕元で2本の音を聴き分けたりして楽しんでますね(笑)。

──クルマも時計も、古いものを大切にされているんですね。

ホテルではクールなTOKYOの「今」を発信することを心がけているのですが、「今」っていうのは決して新しいものだけでできていないですよね。古いものからは、つくり手の人の想いが伝わってくるじゃないですか。そういうのを若い人たちが面白がってくれる時代になったので、「メズム東京」でも例えばデザインとか音楽とか、昭和のものもあえてミックスしながら、オリジナリティのある感性として発信しています。新しいものにアンテナを張りつつ、古いけれど“感覚が新しい”ものも探し出して発信するようにしています。

追求するのは関係価値という考え方


──ホテルに流れるJ-POPや、ヨウジヤマモト社のY’s BANG ON!の制服など、確かに古いけれど“感覚が新しい”ものですね。

昔のプロダクトって、使う時に覚悟を必要とするものがあるじゃないですか。私のクルマもマニュアルで、クラッチペダルが重たいから「さあ乗るぞ!」という気持ちになれる。Y’s BANG ON!の制服もそうで、着る人に気構えがないと着こなせません。このホテルって、何の気なしに来てしまえば、さらっと泊まることもできますが、ディズニーリゾートの話にあったように、今回はここを楽しもうとか、こんなことを発見しようとか、お客様にも気構えをもっていらしていただけると、もっと楽しんでもらえる。それにお応えするのが、我々にも張り合いになって嬉しいですし。それが関係価値という、私の大切にするワードに繋がっていくんですね。

──関係価値とおっしゃると?

関係する両者が、それぞれの意志をもって繋がっていくことで新たな価値が生まれてくるというもので、日本人が昔から大切にしてきた考え方です。日本人は林業にせよ農業にせよ、自然に手を加えながらそれを守り、共生してきましたよね。それが関係価値なのです。自然科学においてグローバルでも最近、この考え方に注目が集まってきているそうです。

これが私のやりたかったことで、想いをもってつくったホテルだから、私たちが一方的に発信していくだけじゃなくて、利用する側の人たちも、どうやって楽しもうかなと前のめりにぶつかってきてほしいんですね。それによって関係価値が高まって、心が豊かになっていくと。

Forbes JAPAN SALONのメンバーさんたちも、きっと同じ感覚なんじゃないかなと。お話ししていて共感できるのが、ベースがビジネスマインドだけだと、どうやって稼ぐのとかいう話ばかりになると思うのですが、決してそうじゃない。いかに好奇心をもって人と繋がって、想いを共有できるかというところに情熱的なんですね。話していてとても刺激になります。 

欧米型のホテル運営は、グローバルスタンダードと共に論理的に合理化を追求するというところがあって、私はそこに違和感を感じていました。私がやるなら関係価値をとことん追求していきたいという想いがあったので、日本らしさ、日本の良さというものを、この関係価値と共にもっと発信して、世界のスタンダードにしていきたいですね。関係価値のベースにあるのは、誠実さや真摯さ、思いやりやインテリジェンスというものだと思います。人と人の間に必要なのは、結局、信頼関係じゃないですか。このホテルが、信頼関係で結ばれた人たちの交差するノードになれたら嬉しいですね。

ホテルを舞台に、次世代へ伝えていきたいこと




──関係価値という興味深いお話を伺いましたが、そうした想いが背景にあったのですね。

ええ。ですから最近は「教育」にも関心があります。私の父親はかつて大学で教鞭を執っていたのですが、じゃあなぜ私がホテルに従事しているかというと、まず学問だと父親に敵わないから(笑)。母親は音楽科だったので、私は母親似なのではと自分に思い込ませて、ここまで来たのかな(笑)。ヴァイオリンやピアノを習いながら、でもバンドを組んでベースを演奏したり、スケボーをやってみたり、米国横断旅行に行ったりと、好きにさせてもらってきました。感謝しているのが、そんなすべての経験が、今のホテル業に生かされているのです。そんな親への感謝の気持ちが、私も親になったからこそ湧いてきたのでしょうか。私が経験してきたこと、学んだことを、次の世代に伝えたいと考えるようになってきました。

ホテルはライフスタイルの受け皿だから、いろんな引き出しがあって、これまでの自分の体験を全部入れ込めるところが魅力だと思っています。若い人たちも含めて、もっと多くの人たちに興味をもってほしい。そのためにも、Forbes JAPAN SALONのトークセッションをJINSの田中社長とやらせていただいたことは、いい経験になりました。

実は今、大学の先生方と話をしていて、私が経験してきたようなグローバルホテルのノウハウを伝える授業を、学生たちに向けてできたらと思っています。

──それは素晴らしい。お父様もきっと喜ばれることでしょう。ところで、ライフスタイルの受け皿としてのホテルの魅力を語ってくださいましたが、例えば東京の人たちは「メズム東京」をどのように利用するといいでしょうか?

インプットを得たいとか、インスピレーションに触れたいといった時に来てほしいですね。ホテルというと、よく「非日常」の言葉で語られますが、「メズム東京」は日常に刺激をプラスするといったような、リフレッシュの目的でも使ってほしい。「仕事が煮詰まったから、何かヒントを探したい」とか「ブレイクスルーの後押しがほしい」という人へのインプットを考えてつくっているので、例えばロビーにいるだけでも音楽が刺激になったり、クリエイティブなカクテルがアイディアをくれたり、窓からの景色が思わぬインスピレーションを与えてくれるはずです。



──しかも、そんなクリエイティブな環境でありながら、目に見えないところでサステナビリティにも配慮されていますね?

アメニティもそうですが、極力ゴミや資源の無駄を出さないように最善の努力をしています。レストランでも食物残渣を出来るだけ出さないようにしていますが、今、東京海洋大学と一緒に魚の養殖に生かすための研究に関わっていて。ホテルの食物残渣を分解して、魚の飼料にして、育てた魚を買って、またホテルのレストランで提供するという循環サイクルを形にしたいのです。しかもそれを教育として、子どもたちと共有したいと思っています。

──取材しますので、ぜひ実現させていただきたいですね。

教育もそうですが、ホテルはライフスタイルの舞台だから、どんなこともやれると思うのです。そこに魅力を感じてくれる人たちと一緒に、日本のホテル産業、観光産業全体を盛り上げていきたいですね。


おいぬま・ひさし◎東海大学卒業後、1994年「ウェスティンホテル東京」の開業メンバーとしてホテルキャリアをスタート。2008年「シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル」宿泊部長を経て、2016年に副総支配人に就任。2017年「モクシー東京錦糸町」総支配人、2018年、日本ホテルに入社し、2019年執行役員兼「メズム東京」総支配人に就任。

メズム東京 公式サイト https://www.mesm.jp
メズム東京公式Twitter https://twitter.com/mesmtokyo
メズム東京公式Instagram https://www.instagram.com/mesmtokyo/
メズム東京公式Facebook https://www.facebook.com/mesmTokyo/
ポッドキャスト番組「メズム東京 夜のバックステージ」 https://anchor.fm/mesmtokyo-backstage


Promoted by Forbes JAPAN SALON / interview & text by Shigekazu Ohno(lefthands) / photographs by Takao Ota

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