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ポストラグジュアリー 360度の風景


林さんは以前、日本サッカー協会に勤め、今はスポーツビジネスコンサルタントとしてインターナショナル・ブラインドフットボール・ファウンデーションなどのプロジェクト支援と研究の二足の草鞋を履いています。まず、現代におけるスポーツの位置について、林さんは以下のように解説します。



「スポーツは大きなお金が動くビジネスになり、社会的影響力をもつようになりました。その過程で『する・みる・ささえる』に加え、国や行政、企業がスポーツを『活用する』動きにますます注目が集まっています。

例えば、スポーツの増幅機能。元々スポーツは、組織や経済規模に比べ発信力に秀でたコンテンツと言われてきましたが、SNSの発達により選手個人の発信力・影響力も大きくなっています。

そして、スポーツには人々を鼓舞し、団結させる機能もあります。移民が多いロンドン市では、マイノリティの社会参画にスポーツを活用し、インクルージョンの推進をしています。これらの増幅機能や人々を一体化させる機能を併せ持ち、中立性が高いスポーツは、社会テーマと結びつきやすいと考えます」

社会とハイエンドが繋がる一つの実例に、マンチェスター・ユナイテッドに所属する英国代表マーカス・ラッシュフォードが推進するプロジェクトがあります。英国内の貧困家庭の子どもたちに食糧提供する活動です。

英国代表マーカス・ラッシュフォード
マーカス・ラッシュフォード(c)Getty Images

自身も貧困家庭に育ち、20代前半の彼はパンデミックのロックダウン中、学校給食が停止で困る子たち向けの無料給食の提供を英国政府に訴え、募金活動の先頭に立ったのでした。それをバーバリーが支えることになったのです。

「夏休み中の学校給食を停止しようとした政府をラッシュフォードは鋭く批判し、ソーシャルメディアも効果的に活用しながら世論を形成し、政策見直しまで追い込みました。後に、この件で大英帝国憲章を受章することになります」(林さん)

スポーツウォッシングの懸念と対策


政治家でも実業家でもなく、有名なサッカー選手(ラッシュフォードのインスタのフォロワーは1200万人)が動いたことで成果が得られた背景には、林さんが表現する「スポーツの中立性」が有効に働いたのでしょう。ただ、林さんはその裏の面についても言及します。

「スポーツが持つ中立性という特性は、1936年のナチス時代のベルリン五輪を持ち出すまでもなく、長く政治に利用されてきた歴史があります。またスポーツ産業というシステム内でもガバナンスや人種差別など多くの課題を内包しています。五輪はその意味で非常に象徴的な存在であり、その五輪がシステムとして岐路に立っている事実は、大いに考えるに値するテーマだと思います」

「スポーツウォッシング」との言葉があります。スポーツを盾にして外面を良くすることです。同じような表現に、環境問題の解決に取り込んでいるフリをするを指す「グリーンウォッシング」があります。いずれも、ポリティカルコレクトネスへの神経質ともいえる対応がひきおこす弊害です。要するに、スポーツの中立性と影響力を「機能」として頼るのが、一種のリスク回避になるわけです。

文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

ポストラグジュアリー -360度の風景-
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