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日本最大級の総合コンサルティングファームのひとつであるPwCコンサルティング合同会社。同社の有志が立ち上げた、ソーシャル・インパクト・イニシアチブ(以下、SII)という部門横断型組織がいま、その存在感を強めている。これまで第三者的視点でクライアントにコンサルテーションしてきた同社において、社会課題解決のために、社会起点で発想し、クライアントを巻き込むことを目指すという点において独自性が評価されているのだ。

当連載では、SIIの意義や可能性に迫ってみたい。第三回のテーマは「脱炭素」。全世界で目標を掲げて取り組むこの社会課題に対し、コンサルタントはどのようなアプローチで取り組み、SIIの強みをどう生かして解決しようとしているのか。サプライチェーン、エネルギー、資源循環、農業をそれぞれ専門とする4名のコンサルタントに話を聞いた。
    


各業界で脱炭素への取り組みが一気に加速


── みなさんが社会課題や脱炭素に向き合うきっかけや、SII に参画された経緯を教えてください。

高橋信吾(以下、高橋):学生時代を京都で過ごし、京都議定書の採択時に友人と街頭行進に加わったことなどがきっかけで気候変動問題に関心を持つようになり、新卒入社時のエントリーシートにも「環境問題に関心があり、仕事で社会貢献したい」と書きました。その後、私のキャリアは一貫して気候変動や資源循環など環境のテーマを中心としており、今後もこの領域の社会課題解決に貢献したいと思っています。


高橋信吾◎公共事業部 ソーシャル・インパクト・イニシアチブ ディレクター。日系シンクタンク、外資系コンサルティングなどを経て、2021年にPwCコンサルティングに入社。サステナビリティ領域(特に気候変動、資源循環)において、官公庁および民間クライアント向けのコンサルティング業務(政策立案、戦略策定など)に多数従事。近年、デジタル技術やデータの活用を通じた脱炭素領域の支援業務に注力している。

中谷尚三(以下、中谷):私の地元の神戸が阪神大震災の被害に遭った際、引退間近だった父が自社の従業員やその家族、地域の子どもたちのために働いていたのが強く印象に残っています。私自身も東日本大震災後の福島でのフィールドスタディに参加した後にプロボノ活動を4年ほど続けており、社会課題解決に携わりたいという思いが強く、SIIへ参画しました。

田中大海(以下、田中):私は以前家電メーカーでサプライチェーンを担当しており、工場で大量のモノが捨てられていた光景がずっと頭に残っていました。コンサルタントに転じて課題を俯瞰的に見られるようになり、加えて年齢を重ねるごとにクライアントや世の中の意識の高まりに影響されてその違和感が増し、段々とサプライチェーン上の課題と社会課題が近づいてきました。そのころにSIIの活動を知り、参画しました。

片桐紀子(以下、片桐):私も田中さんと同じく、前職での経験とつながっています。前職から今まで主に農業関連の顧客を担当してきたのですが、今後は国も巻き込んだ大きな世界観で農業分野でも脱炭素を進めていくべきだと思っており、SIIで知識を蓄えてクライアントと話せるようにしたいと考えています。

排出量の計算とマネタイズが現場の課題


── それぞれの専門領域における、脱炭素の課題や現状はどのようなものでしょうか?

高橋:気候変動の領域では、2020年10月に、日本政府が温室効果ガスの排出量を正味ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を宣言してから潮目が大きく変わったと感じます。数多くの企業や自治体が野心的な目標を掲げ、具体的な行動を起こし始めました。目下の課題は、温室効果ガスの排出量と各主体者の活動が定量データで紐付けできておらず、全体を俯瞰した図を描けていないことと考えています。そのため、施策の優先順位付けも難しくなっています。

田中:サプライチェーンでも、ここ2〜3年で急速に取り組みが進んでいます。伝統的な生産開発業における指標QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)に、S(Sustainability:持続可能性)を加えることを各社が意識し始めました。まず見られる動きは、日用品のサーキュラーエコノミーです。ペットボトルはリサイクル率を高めて資源循環させる仕組みができていますが、自動車や精密機器などでも取り組みは始まっており、当社でも事例が出てきて、これから本格化する段階です。

中谷:エネルギー業界では水素やアンモニア、洋上風力といった再生可能エネルギーの事業化が加速していますが、脱炭素を掲げつつもエネルギー需給のギャップはいまだ大きい状況です。また水素を例にすると、資源調達からサプライチェーン構築、需要家側での対応を整備する必要があり、1社では実現できません。他業界や自治体も含めた大きな枠組みで課題解決を考える必要があります。

片桐:農業においては、ようやく脱炭素の入口に立ったという感覚を私自身は持っています。再生可能エネルギーを用いた循環型農業は先進的な取り組みというイメージがまだ強く、農業従事者のメリットを十分には示せていません。一方で、農業従事者の高齢化など喫緊の課題もあり、国や自治体は就農者に対して、農地、土壌に適した作物の情報、技術の教え手を全て提供し、経営が成り立つようサポートする仕組みを整備しています。これらと脱炭素はセットで取り組むべきだと考えています。


片桐紀子◎公共事業部 シニアマネージャー。メーカー系SIerに入社後、約10年にわたり農業関係機関のERPシステム開発に従事。PwCコンサルティングに入社後10年間は主に公的機関のクライアントへのコンサルティングに従事し、近年は農業分野での行政業務改革や、ドローンや人工衛星などのリモートセンシング技術を活用したデジタルトランスフォーメーションを推進している。

田中:どの分野でもマネタイズは外せない論点です。仕組みを作っても、マネタイズモデルができなければ事業として継続できないのです。そのためには5年や10年といった長期で投資回収するといった時間軸の持ち方に切り替え、商品や会社のブランドイメージ向上を目指すことが解決策の一つです。

SIIでナレッジを共有し、脱炭素の実現に向かう


── あらゆる分野で脱炭素の取り組みが求められている中で、SIIではどのような活動をされていますか?

片桐:日々の活動として、SIIのチャットルームで知見を共有しています。先日も「脱炭素の事例が欲しい」と投稿すると、さまざまな専門領域を持つ人たちが次々に回答してくれました。自分自身の知識に+αの要素を組み込んで思考を膨らますことができる。知恵を出し合うPwCコンサルティングの社風に助けられています。

中谷:確かに。私も未経験のテーマについて、知見がある人をチャットルームで募りました。ニッチなテーマの専門家が社内で見つかった驚きとともに、SIIの活動に可能性を感じました。新しいネットワークやチームのあり方の実証の場という感じがして、頼もしいです。


中谷尚三◎ エネルギー事業部 パートナー。製造業の分野で20年以上のキャリアを有する。近年はPwCコンサルティングにおけるエネルギー部門の担当パートナーとして、ネットゼロトランスフォーメーションに関する事業戦略や、デジタル技術を活用した新規事業開発を推進している。

── 普段から活発に知見を共有されているのですね。実際にSIIメンバー間で協働した事例はありますか?

高橋:京都府とPwCコンサルティングによる包括連携協定のもとで、田中さんと連携しながら、地域脱炭素に向けた取り組みを進めています。昨年度事業では、サプライヤーとメーカーに協力いただき、事業所全体からの温室効果ガス排出量を製品に割り当て、企業間でデータを連携することで、サプライチェーン全体で製品単位の温室効果ガス排出量を算定する方法論を策定しました。今後、各企業の現場で使っていただけるよう実証事業などを継続的に実施し、磨きをかける予定です。

脱炭素を責務からイノベーションへ


── 脱炭素は喫緊の課題である一方、日本ではまだ「やらなければならないこと」といったネガティブな側面で捉えられがちです。どのような仕組みがあればそのイメージから脱却できるでしょうか。

田中:個人にとって脱炭素は遠い話になりがちなので、「自分事化」する取り組みが必要だと思います。日々の生活とメディアの情報をつなげて理解したり、私たちの仕事でいえば、既存のコンサルティング事業と今後のサステナビリティ関連メニューをつなげて理解したりする時間を、意識して持つことが大事。社内のメンバーにもクライアントにも、自分事化していくための働きかけをしていきたいと思います。


田中大海◎ビジネストランスフォーメーション・オペレーションズ パートナー。大手家電メーカーにて購買・生産・SCM関連業務、情報システム部門を経験後、コンサルティングファーム、M&Aアドバイザリーファームなどを経て現職。主に製造業におけるプロジェクトマネジメントやコンサルティング営業、組織やソリューションの立ち上げを経験し、現在Operations Transformationをリードする。近年は社会課題を交えたサプライチェーンの再構築・再評価にも関与する。

中谷:私が普段接する経営陣は、脱炭素と成長戦略との関係性を模索しています。脱炭素が実現した世界でも通用するビジネスを、今から創出しようとしています。新たな価値を生むには、これまでの意思決定のやり方や社内の仕組みも変えなければいけません。

高橋:私も中谷さんの意見に同感です。脱炭素の取り組みを推進していくためには、異なるステークホルダー間で長期的なビジョン・目標を共有することが重要になります。持つべき価値観も、個別最適ではなく全体最適、競争ではなく協調領域に戦略の重点を置くことがより大切になっていくと思います。

片桐:農業においては、脱炭素化を前に進めるために小さくてもいいので成功事例を示す必要があると思います。また、日本の農業従事者は小規模経営が多く、補助金が大きな存在なので、脱炭素への取り組みに補助金を付けることも有効策です。

中谷:農業において、補助金は最初の動きを後押ししてくれると思います。一方で、エネルギー関連領域では、企業が個別に動くだけでは、補助金が切れたタイミングで採算が立たず撤退してしまうことも多いです。実証実験で培った技術を集めたり横展開したりする動きが進まず、もったいないと感じるケースも。私たちは領域や業界の垣根を越えて持続的な活動となるよう動きたいですね。

── では脱炭素の文脈からご自身が今後手掛けたい業務や作りたい未来をお聞かせください。

片桐:農業の人手不足をデジタルで補うべく、私自身が産官学をつなぐハブとなり、人工衛星から地表を観測するリモートセンシングなどをさらに進めたいです。その目的の一つに脱炭素があります。国のルールもデジタル活用を前提としたものに変える必要があるので、実現に向けて邁進したいと思います。

高橋:長期的なビジョン・目標を共有し、その達成に向けて、複数のステークホルダーが協力する実例を増やしていきたい。これを実現し、持続的な取り組みとするためには、インセンティブの設計とステークホルダー間の信頼関係が重要になります。気候変動の領域では、まだ排出量のデータ活用が限定的で、コミュニケーションも十分でないため、インセンティブが機能しておらず、具体的な事例を通じて、解決策を見出したいです。

田中:今、サプライチェーンの仕組みは根本から変わろうとしている潮目にあります。そうした変革を支援するために、高橋さんと進めている京都府のプロジェクトのような新しい仕組み作りをさらに推進していきます。並行して、人材育成も手掛けていきたいです。「自分事化」とともに、ビジネスと脱炭素をつなげて具体策を考えるスキルも高めなければ、学んで意識するだけで終わりになってしまう。そのスキルをどう提供できるか、突き詰めて考えてみたいです。

中谷:私たちコンサルタントの価値そのものを変化させたいです。社会課題に取り組む中で、あらゆるプレイヤーの役割が変化するでしょう。私たち自身も積極的に関わりトライアンドエラーを繰り返しつつ、社会を動かす原動力の一つになりたいです。



PwC コンサルティング「ソーシャル・インパクト・イニシアチブ」 連載
#1 公開中|「社会課題の解決にもビジネスの優位性を」──PwCコンサルティングの部門横断型チームが構築する新たなビジネスモデルとは
#2 公開中|「マルチステークホルダーをつなぐハブに」SIIだからこそ実現可能な社会課題解決へのアプローチ
#3 本記事|各業界の脱炭素戦略にどうアプローチするべきか──ナレッジの共有で横断的な施策を提案するPwCコンサルティングSIIチーム
#4 公開中|コンサル視点と当事者目線の両立で社会課題の解決を。PwCコンサルティングがプロボノ活動を積極的に推進する理由

Promoted by PwC Consulting LLC / text by Takako Miyo / photographs by Tadayuki Aritaka / edit by Kaori Saeki

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