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朝日新聞外交専門記者

posteriori / Shutterstock.com

ロシアによるウクライナの侵攻から間もなく50日になろうとしている。日本のテレビ、新聞、ユーチューブなどでウクライナが話題にならない日はない。そして、折に触れて世間の注目を浴びる発言が登場する。最近では、12日に東京大学の入学式に来賓として出席した映画監督の河瀬直美さんが「『ロシア』という国を悪者にすることは簡単である」と語ったことがSNSなどで話題になった。少し前には、立憲民主党の泉健太代表が、ウクライナのゼレンスキー大統領の演説内容について「両国合意の範囲にすべきだ」という考え方が示し、波紋を呼んだ。

発言の是非について踏み込むつもりはないが、こうした発言に共通しているのは「一方の立場に偏らず、客観的に公平・中立に」という視点だろう。日本政府で長く情報分析を担当した元当局者は「日本人が特に好きなフレーズだと思います」と語る。元当局者の近所の小学校でも、先生が生徒に「色々な視点で物事を見なさい」と教えているという。

しかし、一般市民にも銃口を向けているのはロシアであり、申し開きの余地がない。さらに、「今日のウクライナは、明日の台湾だ」という懸念もある。今回、ロシアによるウクライナ侵攻という事態が、これほど多くの日本人の耳目を集めている理由のひとつがそこにある。プーチン大統領は「ロシアとウクライナは一体だ」と主張しているが、中国だって「ひとつの中国」を国際社会に認めさせている。ここで大国の横暴を許せば、日本も含む世界の安全保障が壊れてしまう。日本人が危機意識を持つのは当然だ。

元当局者は「日本にはケンカ両成敗という言葉もあるように、一歩下がって高いところから物事をみることが知性として評価される文化があります」と話す。「ワイドショーに3人のコメンテーターがいて、児童虐待事件について語るとき、必ず1人は、こうした事件を起こした社会にも問題がある、と主張するでしょう。あの発想と同じですよ。日本のメディアも不偏・不党を掲げている媒体がほとんどでしょう。政治的な主張がはっきりしている欧米メディアと異なる点ですね」。こうした文化が生まれた背景には、先の大戦で「鬼畜米英」と教えられていたのに、終戦を境に価値観が180度変わってしまう世の中を経験してしまった過去があるからかもしれない。

元当局者は「ただ、同じ情報でも、世間と政府とでは、情報を追いかける動機が異なります。例えば、岸田政権はロシアとウクライナのどちらが正しいのかという情報ではなく、自らの政権運営にどのような影響が出るのか判断するための情報を求めていると思います」と語る。言い換えれば、岸田政権にとって「よりリスクが少ない選択とは何か」という判断のための情報だという。

文=牧野愛博

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