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ベンチャー。その最大の魅力は、“勢い”だろう。

新しいことにチャレンジするワクワク感、事業と共にビジネスパーソンとしても瞬く間に成長していくスピード感。ダイナミズムに溢れた体験が、そこにある。

ただし、それは不確実性と表裏一体。短期勝負ならばそれでもいいが、腰を据えて社会課題解決に取り組むならば、しっかり整えた土台の上で長期的な視点を持たなくてはならない。

この鉄則を着実に実践している若き起業家が、X Mile(クロスマイル)の代表取締役CEO、野呂寛之だ。

前職はFinTechサービスを展開するPaymeで、取締役COOとして事業開発からマーケティング、セールス、プロダクトまで全ての業務に携わった野呂。

彼は今、X Mileを立ち上げ、物流をはじめとするノンデスク産業の大きな課題である「人手不足」と「労働生産性の低さ」に真正面から取り組んでいる。運輸、建設、製造、自動車、小売、警備等、ノンデスク産業の市場規模は合計100兆円にも上る。軸としているのは、人材プラットフォーム事業とITプラットフォーム事業だ。

「令和を代表するメガベンチャーを創る」と若さ溢れる高い志を掲げる一方で、ベンチャーを多数見てきた投資家が、事業計画書の精緻さに「ここまでのものを創業直後に作成している起業家はあまりいない」と目を見張るほどの堅実さもある。

彼が持つその堅実さを深掘りすると共に、大きな志を叶えるために同社が必要としているのは何なのか探っていきたい。

逼迫する物流ドライバー不足。だが見切り発車せず、真に必要なことを見極め実行する


X Mileが運営する、ノンデスク事業者向け人材採用システム「X Work(クロスワーク)」は、大手企業を中心に毎年300%前後のペースで契約事業所数が増えている。

「特に物流業界におけるドライバー採用は緊急度が高い。それに対して弊社は人材ビジネスを立ち上げから経験してきたメンバーが揃っているので、セールスの組織基盤やオペレーション基盤を着実かつ迅速に整えることができました」

またITプラットフォーム事業では、ノンデスク産業に特化した経営効率化を支援するSaaSも提供。既に億単位の事業へ成長しているX Mileだが、野呂の経営者としてのスタンスは、起業直後の採用への姿勢に表れている。

「一人目の社員採用には覚悟が必要でした。組織拡大後の継続的な収益が見込めないと社員の人生を背負えないと考えていたので、まずは学生インターン数名のみでサービス開発に取り組みました」

社員採用の封印は、確実に給与を支払い続けられるだけの売上を立てられるまで続いた。「不安だったから」と野呂は振り返るが、事業者として果たすべき責任の本質を理解した行動だといえよう。

このように、野呂の行動には“見切り発車”がなく、「経営者としての責任」が常にベースにある。前述した事業計画書も、KPIやコスト計算、資金繰りの計画といった部分の精度だけでなく、「ベスト、グッド、ワースト」の3パターンを用意。

「予測不可能な変化が起きた場合でも、すぐに軌道修正できるようにするためです。そのおかげで、創業2年目に突入したコロナ禍でも、事業計画書通りに進められています」

結果、先述の通り億単位の事業を既に創出している。しかし、野呂にとってそれは、あくまでも「令和を代表するメガベンチャーを創る」というミッションを達成するための通過点に過ぎない。だからこそ、経営判断に無用な制限を設けてしまうような資金調達はせず、必要以上のPRもしない。

「『孫子の兵法』のように戦いをできるだけ避けたいというのもありますが、起業前の経験も大きいですね。まだ十分な力を蓄えられないうちからPRに力を入れて、競合を増やしてしまったのです」

同じ轍(わだち)を踏まないよう、個人のSNSも起業以来更新していないと明かす野呂。ただ慎重なだけでなく、その底には熱き志がある。

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「失われた30年といわれますが、日本経済の停滞を打破するにはメガベンチャーを創出するしかないと考えています。いつの時代も、イノベーションの担い手はハングリー精神のある新興企業から生まれています。

日本経済の活力を取り戻すためにも、新産業を創出し、次世代を担う人材を輩出しなければならない。X Mileはその役割を果たす企業になりたいのです」

大いなるビジョンと、そこに到達するための実行力。双方を兼ね備えた野呂の起業家としてのポテンシャルに対する期待は大きい。東証一部上場企業のファウンダーがエンジェル投資をしているほか、著名な経営者が何名もメンターに付いている。

GAFAの一角でマネジメント職を担っていた人材をはじめ、ビジネスパーソンとして脂の乗った30代が社員として複数参画しているのも、堅実さと挑戦がバランス良く共存しているからだろう。

「No Action, Talk Only」と揶揄され、海外経験で募らせた日本への危機感


堅実かつ精緻な事業計画と、「孫子の兵法」を意識した戦略。日本の現状に対する鋭い分析と強い危機感。これらを野呂が持つに至った背景には何があるのか。キャリアを追っていくと、大きなきっかけが高校時代にあった。

「アメリカに留学した際、諸外国の学生との意識のギャップにショックを受けました。遊び目的で来ている日本人学生に対し、『帰国後は国のためにこれをやる』と目的が明確だったんです。マインド面から負けているなと強く思いました」

以来、日本の現状を俯瞰して見るようになった野呂は、自らに起業家精神が欠けていることに気付く。「大企業に所属し、産業構造を変える」との思いから一変。新たな産業自体を生み出す方が社会に与えるインパクトも大きいのではと考え、電気自動車の製造・販売をするベンチャー、テラモーターズでキャリアをスタートさせる。

「ベトナムの現地企業とJVを設立し、ベトナム全土を走り回って地場の顧客開拓や工場の新設、カンボジアの拠点立ち上げなどを経験しました。その中で、多くのASEANのビジネスパーソンと交渉する機会がありましたが、彼らは日本企業のことを『NATO』と呼ぶんです」

NATO。北大西洋条約機構のことではない。「No Action, Talk Only」、つまり話をするだけで実行力がないということだ。ジャパンブランドへの信頼度は高いものの、「スピード感がなく、誰が責任者なのかもはっきりせず、結果的にビジネスが進まない」と日本企業への危機感を持った野呂は、起業の決意を固める。

起業を決断したのには、もう一つ理由があった。社会課題解決型のメガベンチャーが少ないということだ。

「ベトナムで製造業を立ち上げた時、私もトラックへ荷物の積み込み等の肉体労働を経験しました。Paymeでも様々なブルーカラー産業のサポートをした経験から、いわゆるノンデスク産業が社会生活を支えるインフラだと実感したのです。

ところが、ブルーカラーの社会的地位は低く、光が当たっているとはいえません。誰かが課題を解決しなければならないのに、その分野でグロースしている企業もプロジェクトもほとんど見当たらない。ならば自分がやるしかないと思ったんです」

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健全な組織づくりを重視すれば、売上は後から付いてくる


2021年の売上は前年比5倍を記録しているX Mile。そこまで急成長していれば、一気呵成のスケールアップを目論んでIPOやM&Aの手を打ちそうなものだが、そうしないのが野呂らしいところだ。

「短期的なIPOを目指すのではなく、10年単位での中長期的な成長計画を描いていますので、骨太な会社をつくるのが大前提です。率直なところ、事業と組織のどちらに意識の比重を置いているかといえば、組織が9割です」

実際、短期的な売上アップを優先せず、あえて「トップダウンで決めすぎない」ようにしているのだという。

「経営層が最適解を出すのは、ミドルや現場が意思決定する機会を奪っているともいえます。ですから最近は、社員自身が考える中で、組織全体としての意思決定をするようにしています」

「目先の売上だけを追ってもプレッシャーにしかならないが、組織を重視すれば売上も追い付いていく」と野呂。だからこそ、今のX Mileに追加すべきピースは事業化を推進できる人材なのだと力を込める。

毎月のように新たな福利厚生や人事制度を導入するなど、まさに組織としても成長フェーズにあるX Mile。気になる給与も、「一部上場企業で課長職をやっていた方に前職とほぼ変わらないオファー」を出しているほか、2021年の平均昇給率は21.6%と伸びしろも非常に大きい。日本全体の平均昇給率は2%前後であり、同社はその10倍の昇給を実現している。

ESG投資が本格化し、社会課題解決とビジネスの両立は世界的なトレンドとなってきた。X Mileは今後、海外進出も視野に入れている。同社が目指す「社会課題解決型のメガベンチャー」が、停滞する日本経済の突破口を開く可能性は十分にある。その先頭に立てる稀有なチャンスが、今ここにあるのかもしれない。

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