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カルティエ ジャパン プレジデント& CEO 宮地純

カルティエ ジャパンの設立以来初めて、日本人女性としてトップに就いた宮地純氏。コロナ禍に就任し、本国からの大きな期待を背負いながら、いま何を目指しているのか。仕事への想いと共に、氏が大切にする事柄について話を聞いた。


日本からグローバルに発信したい


──まず自己紹介を兼ねて、ご自身のお仕事についてお話し願えますか?

宮地:私は父の仕事の都合で2歳から17歳までの大半をヨーロッパで過ごし、大学に入るタイミングで帰国しました。社会に出たら、日本のメーカーに就職してものづくりに携わりたいと考えていたのですが、ものをつくるにはまずビジネスを読むために数字を理解する必要があると諭されて、投資銀行に就職しました。その後、フランスのビジネススクールINSEADに留学し、ものづくりにデザイアビリティやエモーションなどの付加価値をプラスするブランドビジネスというものを初めて学び、興味を惹かれました。そこからLVMHに入社したのち、2017年にカルティエと縁があって今日に至ります。

カルティエに転職した理由には、もちろんブランドに対する憧れもありましたが、現在のグローバルのヘッドであるシリル・ヴィニュロン(現カルティエ インターナショナル プレジデント&CEO)が人間的にも素晴らしい方で、彼がブランドをどう変えていくのかをそばで見たかったという理由もありました。



カルティエにはマーケティング&コミュニケーション本部長として入社し、2020年8月に現職に就任しました。何しろずっとコロナでしたので、初日からZOOMでの挨拶でしたし、どうやって社員と繋がっていけるかというのがテーマでしたね。

私自身の仕事の内容としては、我々が目指すべき高みはここ、というハードル設定と土壌づくりのようなものかな、と考えています。企業カルチャーや、そこに含まれるコミュニケーションを介してどのように繋がりや一体感をつくっていくのか、どのようにパーパスを育んでいくのかを考えるのが自分の仕事なのかなと思っています。土をいじって改良し、耕して、あとはめいめいが育っていく、といった感じでしょうか。

──いまの立場になられてからは、どのようなモチベーションが背中を押しているのでしょうか? 

宮地:時に、お客様からお叱りを受けることもありまして、着任当時はドキドキしましたが、考えてみると、ブランドに対する期待感が大きいからこそ叱ってくださるのですね。そのこと自体がありがたいですし、それだけの期待を背負うブランドを牽引していく責任を感じます。

──そうした強い責任感も認められての、社長への抜擢だったのではないでしょうか。 

宮地:最初は「なぜ私?」と自問自答しながら、自分が貢献できることはなんなのかを考えました。社長のポジションは日本支社の設立以来、最初の方を除いてずっと外国人でしたので、日本人である私が今後いかにローカルのマーケットや現場と繋がっていけるのかを追求しようというところに行き着きました。

カルティエは、ローカルの組織をエンパワーしていこうという考えをもったブランドです。日本はアジアパシフィックとして括られることなく、一つのリージョンとして位置付けられています。日本には独自のマーケットがあり、非常に洗練された文化とお客様をもつ重要なマーケットとして認識されていることをありがたく思っています。と同時に、その期待にいかに応えていくべきか、日本からどれだけグローバルに発信していけるのかを課題として意識するようにしています。

日本のラグジュアリーに対する感覚や価値観はとてもマチュアなもので、日本から発信していけるものが多くあると思っています。まだまだ発信下手な国かもしれませんが、きらりと光るマーケットであり続けたいですし、グローバルをびっくりさせてみたい、そんなモチベーションをもっています。

女性活躍推進事業とサステナビリティへの取り組み





──誰もが憧れるブランド「カルティエ」ですが、近年は女性活躍の推進や、サステナビリティに配慮した製品開発といった分野でも新しい動きを見せています。そうした変化の背景についてご説明いただけますか?

宮地:女性活躍推進の活動には、早くから取り組んできました。元々カルティエでは、女性が重要な役割を担ってきましたので、女性支援もごく自然に始まった流れと言うことができるのではないでしょうか。

歴史を振り返ってみても、1930年代に宝飾業界で女性を起用するということは前代未聞でしたが、ルイ・カルティエの鶴の一声でジャンヌ・トゥーサンという女性がハイジュエリーの最高責任者になりました。彼女自身、ラ パンテールと呼ばれていたのですが、パンテール(豹)というしなやかで強い、凛とした女性像はいまでもカルティエのスピリットとして受け継がれています。そうした背景もあり、女性起業家を支援する「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ(CWI)」や、2020ドバイ国際博覧会と共同で創設した「ウーマンズ パビリオン」、「カルティエ フィランソロピー」では女性と子供たちの教育を支援する活動などさまざまな取り組みを行なっています。

──宮地社長の存在によって、より説得力が増したのではないでしょうか。またサステナビリティの面でインパクトがあったのは、光起電発電で動く新しいムーブメントの発表でした。

宮地:カルティエとしての美しさとサステナビリティの共存を形にした作品だと思います。数年前にスマートウォッチが話題となった時に、カルティエもスマートウォッチをつくらないのか? と問われることが多々あったのですが、シリルは「絶対にやらない」と断言していました。なぜかというと、スマートウォッチの中身のテクノロジーはわずか1、2年で取って代わられていくのに対して、我々の時計のケースは100年以上も続くような普遍的なデザインで、これからも代々受け継がれていくものです。賞味期限の短いテクノロジーを取り入れることで、時計自体に賞味期限をつけてしまってはいけない、という理論でした。では我々にできることは何か? と考え、導き出した答えが、伝統ある「タンク マスト」に加えた光起電発電で動くムーブメント「ソーラービート™」だったのです。



幸いたくさんの反響をいただいており、メゾンとしての成功を収めました。

──宮地社長は、サステナビリティの取り組みを今後どのように推進していこうとお考えですか?

宮地:大きな取り組みは本社主導のもので、すでに温室効果ガスのネット・ゼロを達成し、これからさらにネガティブにしていくところですが、今後は日本でもカーボン・ネガティブの実現に向けて寄与していきたいと考えています。ただ、我々単体では限界があり、百貨店の方々をはじめとするパートナー企業にもご賛同いただかなくてはならない部分が多々ありますので、そうしたムーブメントを起こしていけるように努力したいと考えています。

本社は数ヵ月前にRJC(責任ある宝飾品業のための協議会)と共同で、グローバルでどのようにサステナブルアクションを取っていくかの最初の声明を出しましたが、現状はどうしてもスイスのブランドが主導になっています。日本の大手ブランドの方々とも手を携えて、もう少し国境や垣根を超えた活動を広げていけたらと思っています。

群れない、媚びない、美しい女性たちに寄り添いたい


──宮地さんが大切にする仕事のスタイルやポリシーとはどのようなものなのでしょうか?

宮地:ご機嫌でいることです。仕事が楽しくあることが鉄則で、そうでなければ辞めたほうがいいと思っています。家でシュンとしてしまうこともありますが、夫から「好きでやっているんだろう?」と言われて、また立ち直れるんです(笑)。

──これから取り組んでいきたいことはなんでしょう?

宮地:カルティエはものをつくる会社ですし、これからも何十年、何百年と続いていくようなものをつくっていくだろうと思いますが、先ほどお話ししたパンテールのスピリットとしての「群れない、媚びない、美しい女性」という女性観をもつので、そうした女性をもっと日本で増やすためにも、女性に勇気を与えるブランドでありたいなと思っています。だからこそ、女性のエンパワーメントを目的とした「ウーマンズ パビリオン」の取り組みなど、コーポレートアクティビティに注力していきたいですね。

──ご自身も、そんな輝く女性の一人である宮地さんが、日頃の生活で心がけていることはなんでしょうか?

宮地:昔の交友関係含め、仕事とは関係のない人たちと会うことでしょうか。リラックスした付き合いのなかで、視野を広げてくれますから。それと、芸術など美しいものに触れることはとても大事なので、目の保養も兼ねて美術館に出掛けるようにしています。もっと舞台や音楽会にも出掛けたいですね。

──ご趣味はなんですか?

宮地:週末には庭の手入れをしています。ウィークエンドハウスでは雑草を抜いて、土いじりをして、お花やハーブを育てています。手をかけただけ美しくなって返ってくるので、すごく分かりやすいんです。子どもだと、なかなか分かりづらいところもあるのですが(笑)、植物は目に見えて違いが出るところがいいですね。



──お子さんがいらっしゃるのですね?

宮地:3人います。一番上の子が5歳です。

──それは大忙しですね。

宮地:はい。なかなか自分一人の時間はありません(笑)。

──どんな人間に育てたいですか?

宮地:親からの教育は価値観も含めてとても大切で、最終的に自分の親がなんと言っていたかが重要な場面でものを言うと思っています。私は子どもの頃から“女性だからこう”というような決め付けをされたことがありませんでした。それもあって、息子がこの前「〇〇ちゃんは女の子だからできないと思うんだよね」と言うので叱ったんです。偏見のない、恥ずかしくない人間に育ってほしいなと思っています。

そのためにも、本物と現実を見せるようにしています。最近は自宅で仕事をする機会が増えたこともあり、仕事をする姿をあえて見せています。仕事関係の来客があったり、交友関係のある音楽家がいらしてくださったりと、いろんな大人と触れ合う機会が増えているのは、子どもたちにとってもいい教育になっているのではないでしょうか。そういう機会をForbes JAPAN SALONでもつくっていけたら、面白いですよね。

──子どもと一緒に参加できるサロンのイベントを、ぜひ一緒に企画しましょう。ところで、宮地さんが仕事において大事にしているモノや価値観はなんでしょうか?

宮地:モノではないのですが、健康、信頼、好奇心、想像力を大切しています。想像力と好奇心については、新卒のウェルカムスピーチでもよく話をするのですが、私自身、まさにそれだけで生きてきた人間ですので(笑)。信頼については、信頼できる仲間ですとか、自分を信じること、人を信じることが大切だと思っています。

──そうしたお手本になるような、憧れの人物は誰でしょうか?

宮地:祖父です。経営者で、すごくキラキラしていて、その様子を幼い頃から見て育ちました。直接的な学びもあった一方で、祖父の周りにいた人たちから祖父語録のようなものや本を通して聞かされました。その言葉は、自分も経営者になったいま、とても力になっています。

──例えばどんな言葉がありますか?

宮地:「ビジネスは数値である。けれど、そこに感性を加えることによって人が生き生きしてくる。それが経営である」とか。「機能対等」もそうです。社長であろうが課長であろうが、それぞれの職務をまっとうするにおいては誰もが対等である、という考え方です。

──お祖父様も、いまの姿をきっと喜んでくれることでしょう。そんな宮地さんがForbes JAPAN SALONに期待していることがありましたら、ぜひお聞かせください。

宮地:他の方と繋げてくださるのはありがたいなと思っています。日々、仕事に追われているので視野が広がります。普段の行動範囲は意外と狭いので、自分の業種から遠ければ遠いほど興味がもてるはずです。それと、いまのポジションに就いて、改めて女性経営者がまだまだ少ないことを実感しています。サロンのメンバーにも女性が増えるといいなと思っています。

──最後にぜひお聞きしたかったのですが、カルティエで自分へのご褒美として買った、とっておきの品がありましたらご紹介ください。




宮地:このフレグランス・ケースが直近のお買い物です。ケースのデザインが昔のカルティエのライターを彷彿させるような、ちょっとレトロでエレガントな感じがとても気に入っています。キンカンの香りも爽やかで、すぐに気に入りました。もう一つ、このパンテールのリングも、私にとってはとても大切な存在です。


みやち・じゅん◎カルティエ ジャパン プレジデント&チーフ エグゼクティブ オフィサー。京都大学法学部卒業後、外資系証券会社に入社。INSEADにてMBAを取得後、ラグジュアリー業界でのキャリアをスタート。2017年、リシュモン ジャパン株式会社に入社し、カルティエ ジャパン マーケティング&コミュニケーション本部長に就任。2020年8月から現職。

Promoted by Forbes JAPAN SALON /text_Mari Maeda(lefthands) edit_Shigekazu Ohno(lefthands) photographs_Takao Ota

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