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ポストラグジュアリー 360度の風景


では、この事業のどこが「ラグジュアリー360度の風景」という本連載と関係があるのか。

熱心な読者なら、「前回の宇宙体験の大衆化の話の続きね」と思い出していただけるかもしれません。新しいラグジュアリーには「新しい世界観を先導的に取り入れて文化をつくる」という役割が期待されています。最初から“マス”とは距離をもちながら、新しい世界観を育む文化の創造自体を優先させる。それがラグジュアリーの一つのあり方です。

一方で、無形文化遺産には「たくさんのヒントがあるけど、テクノロジーの世界との共存が見えない」という見方(場合によっては先入観)もあります。ここで村木さんは「第二弾以降のビジネスは、最初の撮影モデルとは異なったサービスを追加することを検討中ですが、いずれにせよ多くの人が宇宙の視点をもつことで、今の生活を多角的に見られるようになって頂きたい」と語ります。

宇宙旅行とは別のラグジュアリー


そこで気が付きます。宇宙観のアップデートか!と。我々が古くからもってきた無形文化遺産の範疇とされる天体の知識や感覚、あるいはアポロ計画で得たような宇宙体験は、「精神的な次元では消化しきれていない」というのが村木さんの認識です。つまり、グローバリズムが地球に二次元的にへばりついていたのに対して、高さ方向も含めた三次元の世界観を構築していきたいと言うのです。

彼は、「もちろん、1960年代から大型ジェット旅客機の普及により、多数の人が空を飛ぶようになったわけです。旅行や時間の概念は大きく変わりました。だが、空を世界観との視点で自分たちのものにしたかと言えば、そこも不十分かも」と言葉を加えます。


(c)ソニーグループ

“精神的価値”の向上に貢献する宇宙エンターテイメントという位置づけが、今回のソニーの狙いなのです。

宇宙に関しては概して、実利的な活用を試みる計画をニュースで散見します。天気予報やGPSなどは人々の日常生活のために役立っているのですが、宇宙を身近に接することは、「地球を俯瞰する(こんなにも奇跡的に美しい場に生きているのだ!)」や「人生観の充実(宇宙の時間と我々の時間を比較することで、人生への感度があがる)」というような側面においても貢献できるだろうと思っている。これが村木さんの発言の核にあります。

新しいラグジュアリーは文化の創造に貢献すると書きましたが、この真意をただせば「人生に深い意味を提供する」とも言い換えられます。「宇宙人としての人類を体験的に感じられれば、合理性を越えた次元への理解力が増すはず」(村木さん)という点は、まさしくこのところを突いています。

ぼくも、ラグジュアリー領域の広がりの先として、いずれ宇宙旅行が加わると思っていましたが、村木さんの角度でラグジュアリーと宇宙経験を繋げることでビジネスが成立する道があるとは視野に入っていませんでした。

言うまでもなく、ソニーの事業が人々の支持を受けるかどうかは来年以降の推移をみないとわかりません。ただし、このプロジェクトがパンデミックによって人々が内省的になった実に絶妙なタイミングで、明るい展望をプレゼントしてくれているのは確かです。ラグジュアリーは往々にしてしかめ面な表情を見せがちです。そういう意味でも、ラグジュアリーに新しい言語を提供してくれているかもしれないです。

中野さん、村木さんへのインタビューにお付き合いいただきましたが、新しい言語という観点も含めて感想をお聞かせください。

文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

宇宙ポストラグジュアリー -360度の風景-
VOL.15

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ホストとゲスト 「関係価値」とラグジュアリー

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