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ポストラグジュアリー 360度の風景


もちろんさまざまな技術進化の裏付けや、当時の米ソ冷戦を背景にした軍事競争もありました。

しかし、「日々眺める空の彼方がどうなっているのか? 行って体験してみたい」という好奇心と夢がもとにあって、巨額を費やすプロジェクトを突き動かしたのは間違いありません(デイヴィッド・ミーアマン・スコット&リチャード・ジュレック『月をマーケティングする』によれば、1963年から1969年にかけ、米国政府はNASAだけで年間3.3%以上の予算を使っていました。ここに宇宙船の回収に動く軍艦や軍用機を派遣する等の国防省の予算は含まれません)。

ところが、1970年以降、ロケット開発は商用に特化されることで、宇宙が人々の意識から逆に外れていきます。並行して、1990年代以降のグローバリゼーションは、人々が古くからもっていた生活の知恵を喪失するのではないかという危機感を招くに至ります。ユネスコはそれらを認識し、2003年に「自然及び万物に関する知識及び慣習」を無形文化遺産としたのです。

「新しい宇宙観」をつくる


さて、こうした話を長々としてきたのは、ソニーグループが今年、「宇宙感動経験事業」に参入すると知ったからです。なんと「宇宙を解放する」と言っています。現段階の構想では、人が宇宙に実際に行くのではなく、地上にいながらにして宇宙を体験できるようなビジネスを始めるそうです。

同社の新規事業探索部門・宇宙エンタテインメント推進室の村木祐介さんは、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)に所属しながらソニーでも働く宇宙工学エンジニアです。その彼が「世界中の誰もが空を共有しています。新しい宇宙観をポスト・グローバリズムの時代にこそつくっていきたいのです」と語ります。無形文化遺産のレイヤーにすっぽりとはまります。これは人文学発ビジネスとしてのラグジュアリーと「軌道」が近いので、詳しく話を聞きました。


ソニー新規事業探索部門・宇宙エンタテインメント推進室 村木祐介さん(c)ソニーグループ

今年の秋、全長およそ70メートルのロケットがあるところ(未公表)から発射されます。いくつか積み込む衛星の一つにJAXA、東京大学、ソニーの3者が協力した長手方向の最大寸法が約30cmの小型ボディがあります。カメラ、ソーラーシステム、通信システムなどが搭載されたその小型ボディは、地上から500-600キロの距離で本体から「スプリングで放り出されるように」切り離され、地球のまわりを15周/日のペースで動きます。

ソニーは来年から、事前に予約した地上の人々がこの衛星にコンタクトして、自らが欲しいアングルの写真・動画を自分のPC(あるいはどこかのブースのような場所)で操作してリアルタイムで撮影できるサービスを始めます。サービス価格は幅広く、内容によって1万円レベルから何百万円まで。設計寿命は約2年半を想定。サービスを享受するユーザー数は、最終的には億単位を想定しています。今まで宇宙旅行をした人がおよそ600人ですから、桁がまったく違います。

文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

宇宙ポストラグジュアリー -360度の風景-
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ホストとゲスト 「関係価値」とラグジュアリー

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