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ラナユナイテッド 代表取締役CEO 木下謙一

今回訪問したForbes JAPAN SALON会員は、ラナユナイテッド代表取締役CEOの木下謙一氏。国内外の名立たる有名企業やブランドをクライアントにもち、そのウェブサイト制作やインターフェース・デザインほかクリエイティブ全般を手がけるトップクリエイターでもある。日々めまぐるしく進化するデジタルクリエイティブの最前線で挑戦し続ける、そのクリエイティビティの源泉に迫る。



──自己紹介を兼ねて、御社並びにご自身のお仕事についてお聞かせ願えますか?

木下謙一(以下、木下):ラナユナイテッドは複数の会社と事業部をまとめたホールディングスのような会社ですが、ひとことで言えばデジタルを中心としたクリエイティブの会社です。ちなみに個人としては、出身校である武蔵野美術大学で教鞭も執っています。

──国内外の、しかもオールジャンルと言えるようなクライアントを抱え、幅広いスタイルやテイストのクリエイティブを手がけていらっしゃいますが、今日はぜひ、木下さんのデザインの源泉、ルーツについて掘り下げてみたいと思い、楽しみにしておりました。



木下:僕が武蔵野美術大学に行った理由は、クルマのデザインをやりたかったからなのです。カーデザイナーになりたいというのが、もともとの志でした。


──あえてカテゴライズすると、プロダクトデザインから始まったのですね?


木下:そうです。プロダクトデザインの中でも、僕にはクルマというジャンルがずっと憧れの的でした。クルマの魅力はいろいろあるじゃないですか、デザインの面で言えば、まず時代ごとのトレンドが如実に反映されているところが面白い。あと何と言っても、やっぱり自分が乗る、自分が中に入って動かすという肉体機能の拡張という面が非常に強くて、そこがワクワクさせるのです。トレードオフとしては、事故の危険性なんかもあるわけですが、それも含めた人馬一体感がたまらなくて。家電など、他のプロダクトとまったく違う点ですね。時計も好きですが、時計の中には入れないじゃないですか(笑)。

──そこからどんな経緯で、いまのデジタルクリエイティブの分野へと移行したのでしょうか?

木下:プロダクトデザインは、ほぼすべてのものが奥行きとボリュームのある立体物ですよね。とはいえ、そのデザイン過程はまず二次元のスケッチから入って、最終的に三次元へと仕上げてきたものなのですが、やっぱり次元をジャンプさせるというところが難しい。実際、当時のクルマは「スケッチでは格好良かっただろうに、実車になったらカッコ悪くなってしまったのだろうな」と思えるものが少なくありませんでした。
そんなときに、衝撃的な出会いがありました。コンピュータです。CGやCADのソフトでは三次元データをそのまま扱えるので、きっと合理的にデザインできるのじゃないかと思って胸が高まりましたね。それで学生時代、NHKでアルバイトをして、当時発売されたばかりのマッキントッシュを買ったのです。

──そして、カーデザイナーを目指したと?



木下:大学を卒業したら、さてどうしようかといった頃、自動車メーカーではまだまだ従来のアナログなデザイン手法がメインストリームだったのです。図面を描いて、クレーモデルを削って、というような。僕はもっとコンピュータの可能性に興味があったので、いったんはクルマを諦めて、そのままアルバイト先のNHKの関連会社に就職しました。それで映像制作をやっていたのですが、やはり予想通りというか、しばらくするといよいよクルマのデザインもCGを使ってやりますっていうプロダクションが現れ始めまして。
満を持してクルマ業界に転職して、いろんなメーカーから仕事を受けて、カーデザインをやりました。やっぱり3Dソフトって面白いなと思いましたね。

ちょうどそれぐらいのときに、今度はインターネットが出てきまして。これはすごいぞ!という非常に大きなインパクトがありましたね。こちら側の仕事の方が面白そうだな、可能性があるなと思ったのです。当時、デザインをちゃんと勉強した人がWebをやるというのはまだ全然なくて、完全に理数系の人たちのものだったのですね。だからこそ、逆に自分にとって有利なのではと思って、勤めていた会社を辞めてフリーランスになったというのが最初です。それからは、ウェブデザインやユーザーインターフェースデザインをメインにやってきました。



──インターネット業界に、理数系ではなくデザインの分野から入ったというのが強みになっているとのことですが、他にもラナデザインの個性になっている要素には、どのようなものがあるのでしょうか?

木下:やはり美的な見地というか、何をつくっても美意識がちゃんと貫いているところかなと思います。Webサイトにしてもアプリにしても、裏側にはプログラムが走っているロジカルなものなのですね。ユーザーインターフェースもいろんな人が操作するものですから、ちゃんとルールがあってロジカルじゃないといけないのです。そうした部分をちゃんと担保しながら、それに加えて美しい部分があるというのが我々の個性であり、強みであると思っています。

──そこにはやはり、プロダクトデザインを手がけてきた経験が生かされていると?

木下:プロダクトをやってきて良かったなと思うのは、表面の下にちゃんと実体としての中身や裏側があるものだから。プロダクトは見た目の部分があって、その中に機械が入っていて、操作するところがあるじゃないですか。実はプロダクトとウェブサイトやアプリって、そういう意味で似ているのですよ。

──なるほど、ネット上のグラフィックデザインにも、表面の奥があるわけですね。

木下:そういうことです。だから、ボタンを押すとどこか他のページに飛ぶとか、何かが現れるといったインタラクションがあるわけです。うちの会社も含めて世界中の人々が研究を続けていて、どうやったら迷いにくいかとか、どう操作したら気持ちいいかを日々進化させているので、実に奥深いノウハウがある分野なのです。



──デザインというと、シルエットやフォルムなど、いわばプロダクトの「側(がわ)」を形づくる仕事というイメージがありました。

木下:僕はインサイド・アウトと呼んでいるのですが、例えば靴下のようなものって裏返せるじゃないですか。従来のプロダクトというのは、クルマにしても、洗濯機のような家電にしても、中に機能を担保する機械部分があって、それを側がカバーしているわけです。でもスマホの場合は、機能する部分は画面上のデザインであり、それが靴下の裏返しのように表に出てきているわけです。iPhoneが世に出たのは2007年のことでしたが、その瞬間から、言って見れば外装はどうでもいい、いまあるような板みたいなものでいいという価値観にシフトチェンジした。主役が側から中身に変わったのです。


──それで言うと、木下さんのデザインするものも最初は側だったけれど、今は中を機能させるもの、つまりインサイド・アウトになったというわけですね。


木下:そうです。いまクルマの世界は自動運転の方向にシフトしつつありますが、それが本格的になってきたら同じようなことが起こるはずと思っています。インターフェースとしてのインテリアありきで考えられるようになり、外装のデザインはほぼどうでもよくなると。


──そうなると、美しさの定義は今後どう変わっていくのでしょうか?


木下:こだわらないといけないポイントが、どんどん変わっているのです。これまでは面の美しさや連続性、プロポーションといった部分に注力してきたところが、スマホで起きたように、クルマにおいてもだんだんとコンテンツと一体化して、渾然一体とした存在になっていくのではないでしょうか。そうした価値観の変遷の中で、美しさの新しいポイントを探す仕事ができたらなと思っています。



──いまのお仕事の中で、木下さんが手応えを覚えたり、やりがい感じる瞬間とは?

木下:これが美しいなとか、カッコいいなと思うものが、一人よがりのものでは意味がないのです。デザイナーとして美しいと思うものが、商品となったときに届けたいエンドユーザーにも受け入れられたときに、何より大きな喜びが得られます。何かその瞬間に共通言語ができたような、言葉が通じたような感じがするのです。


──そのアイディアソースは、どんなところから得られるのでしょうか? 


木下:やっぱりユーザーに触れ、クライアントに触れというように、人と実際に会ってコミュニケーションを取るというのは欠かせませんね。あとは、自分でもユーザーになってみるというのも大切な体験です。そうすることで、ようやく見えてくるところがあります。

──複眼視の大切さですね。さて、デジタルの最先端の分野でデザインに関わる木下さんですが、座右の銘は意外にも建築界の巨匠ミース・ファン・デル・ローエの「Less is more」であると聞きました。

木下:大学が、バウハウス教育の影響を受けた武蔵野美術大学で、しかも学科が、一番そのバウハウス色の強い基礎デザイン学科だったもので。広くいろんな分野を勉強しながら、その根底に流れるデザインサイエンスを見出すみたいな学科で、論理学を追求してきました。

──そんな木下さんの審美眼に適った「もの」たちにも興味があります。今日は幾つか時計コレクションをおもちいただいていますが。





木下:「フランクミュラー」は、同社のWEBサイトを制作した時の記念に買ったものですが、バウハウスの話でいくと、やはり「IWC」は外せないですよね。愛用しているのは「IWC インジュニア」。これは時計専門誌の編集長に薦められて買ったものですが、重量が200グラム近いにもかかわらず重心位置が低いので、付け心地が非常にいい。


──それこそ、ボクサーエンジンのポルシェのような話ですね。

木下:ええ。対磁性能を上げるために厚みがあるわけで、理由のある重さなのです。まさにデザインサイエンスでしょう(笑)? もうひとつもってきたのが「クロノトウキョウ」です。浅岡肇さんという、スイスの独立時計師アカデミー(AHCI)にも加盟している方のブランドで、自分1人で、手作りでトゥールビヨンまでつくってしまう天才時計師なのです。僕のもっているものはムーブメントが他社製なので、まだお手頃なのですが、質感といいデザインといい、非常に完成度が高い。これは主に冠婚葬祭用として使っています。松任谷正隆さんとブリュッセルでミーティングをしてきた帰りにミラノで買った「パネライ」も思い出の品で、普段から愛用しています。


──その日の服装をどこから考えるかというのも人それぞれですが、木下さんは時計から?

木下:実は服装にはあまり頓着しません。時計も他人ではなく自分が見るためのもので。僕はわりと、自分の作品である仕事の方を集中して見てほしいというのがあって、自分自身はむしろ目立たないよう、常にアンダーステイトメントであるように心がけているのです。

──なるほど。ちなみに、世の時計好きは往々にしてクルマ好きでもあることが多いのですが、クルマもドイツ派でしょうか?



木下:それもありますし、クラシックカーも好きなのですが、数年前より乗り、面白いと思っているのは「テスラ」ですね。スマートフォンのようなインターフェースに自動運転技術、自動車の最先端テクノロジーの結晶という点でも面白いし、実は乗り物としても運転する喜びがあるのです。僕は、自分で運転して移動する時間を大切にしているのですが、運転という緊張があるからこそ、仕事を忘れてリラックスできるという逆説的なメリットも享受しているのです。

──Forbes JAPAN SALONでも、きっと時計好きやクルマ好きの仲間と出会えることと思います。

木下:そうですね。日本でもラ・フェスタ・ミッレ・ミリアのようなクラシックカーのラリーイベントが定着していますが、サロンの仲間たちと一緒にクラシックカー・ラリーのようなクラブ活動というかイベントなどができたら嬉しいですね。



──また海外に行けるようになったら、どこに行きたいですか? 思い出に残る旅先は?

木下:中国の内モンゴル自治区で訪ねた360度見渡す限りの平原ですとか、北極圏のICE HOTELなど、印象に残る旅先はいろいろとありますが、実はフロリダのディズニーワールドも印象深かったですね。総面積が山手線の内側と同じくらいあって、エンターテインメントにかける情熱と本気度に驚かされました。

──ディズニーとは意外な側面もおもちなのですね。

木下:好きな映画も『TOY STORY』なのです。

──今日はとても興味深いお話をたくさん聞かせていただきましたが、最後にサロンを通じて、仲間や社会にどんな貢献をしていきたいかを教えていただけますか?

木下:若手への支援はとても大切だと思っています。それと、デザインやアートをより身近なものにするために、Forbes JAPAN SALONの皆さんと一緒に活動がしたいと思っています。


きのした・けんいち◎1969年生まれ。CG、インダストリアルデザインのプロダクションを経て、1997年ラナデザインアソシエイツを設立。 90年代半ばのインターネット黎明期よりウェブデザインを手がける。現在では化粧品会社や大手出版社のデジタル戦略を担当するほか、インスタレーションやテレビ番組用のデータビジュアライゼーションなど、仕事の幅を広げている。
現在はデジタルクリエイティブを中心に据えているが、松任谷由実のCDジャケット、マーチャンダイズも手がけるなど、トータルなクリエイティブディレクションを強みとする。グッドデザイン賞など国内外で受賞多数。武蔵野美術大学非常勤講師でもあり、双子姉妹の父でもある。

Promoted by Forbes JAPAN SALON / interview & text by Shigekazu Ohno(lefthands) / photographs by Takao Ota

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