挑戦する人と挑戦する企業をつなぐ、Forbes JAPAN 初の採用ブランディング

東京大学工学部を卒業後、P&Gに入社。経営戦略部門に10年間在籍し、各部門、各拠点に潜む課題を解決すべく、国内外を奔走した。終盤はCFOの右腕に......石川勤という男は、将来を嘱望される1人だった。

彼は突然、Uターンを決めた。石川県加賀市に舞い戻り、石川樹脂工業を継いだ。

「別の有名企業に転職しても、これまでやってきたことの延長線上になっちゃうな、と。だったら、家業に入って親父と喧々諤々しながら、自分が『これだ!』と思える経営戦略やものづくりを実践していきたいと考えたんです」

世界を舞台に活躍した彼が、経営において特に重要と考えていることがある。それこそ、採用だ。

「余剰人員など存在しない当社に必要なのは『頭も手も動かせる』人材です。その条件を叶えられるのは、高専生しかいない」

幸運にも、2021年度は2名の高専生を新卒で採用できたが、同社と高専とのパイプはほとんどない。そこで、タッグを組んだのが、キャリア教育事業を展開する高専キャリア教育研究所(以下、高専キャリア)だった。

プラスチックメーカーが、脱プラスチック時代に起こした“革新”


本題に入る前に、石川樹脂工業の概要と、石川勤について簡単に触れたい。

同社は、木製の漆器製造業として1947年に創業。会社設立後はプラスチックメーカーに転身し、食器・雑貨や工業部品、仏具などさまざまな製品を開発している。

3代目である石川が専務として入社したのは、2016年。

「前職との大きなギャップは意外にもなかった」と話す彼だが、長い歴史の中で培った慣習の見直しや、商品のてこ入れなど解決すべき課題は山積。トップである父と激論を交わしながら、経営改革に取り組んできた。

「P&G時代は、工場の立て直しや商品のブランド戦略、国内の物流改善など多岐にわたる領域を担当していて。戦略、実行、改善を繰り返すうちに、財務・会計・内部統制・コスト改善に関する知識や経営視点が自然と身に付きました。

家業に入ってからは、それまでの経験をベースに、“自分らしい経営”を追求してきた感じですね」

石川らしい経営とは。

2020年2月に同社が発表した「サステナブル宣言」に至るまでの経緯を辿ってみると、彼の経営手腕やものづくりへの考えがつまびらかになった。

脱プラスチックが叫ばれる中、「プラスチックメーカーが循環型生産を打ち出した」と各所から注目を集めたこの宣言。具体的に何をしたのか。

「“車で踏んでも割れない強靭さ”と“ガラスのような美しい光沢”を併せ持つ『トライタン』という樹脂素材を活かし、2011年に自社ブランド『Plakira(プラキラ)』を立ち上げました。

しかし、職人の技術力を結集してグラスやタンブラーを開発・製造しても、今一つ振るわなかったんです」

使い捨てではなくガラスのように美しい、しかも割れない......素材の強みを生かして、長く愛されるサステナブルな商品づくりを──

石川はPlakiraのリブランディングに乗り出す。協力を仰いだデザイン会社にはコンセプトづくりから入ってもらい、デザイナーの発想を積極的に戦略に取り入れた。

2019年。両社のタッグによって最初に生み出されたのが、飲み口がゆらいだ形状の「ゆらぎタンブラー」。美しさと耐久性を兼ね備えた画期的なプラスチック製品は、外食産業を中心に話題を呼び、ほどなくして大手ファミリーレストランチェーン“全店”での導入が決まった。

高専キャリア教育研究所 と 石川樹脂工業の記事を掲載しています
石川樹脂工業 石川勤

エリートが惚れ込んだ、高専生──「彼らは、宝だ」


「ゆらぎタンブラー」発売の翌年、2020年2月に「サスティナブル宣言」を公にした石川樹脂工業。

「再利用の観点から自社ブランドには、全てトライタンを使用する」を掲げた宣言を踏まえ、同年3月には新ブランドをスタート。すると、発売してすぐにある有名企業の目に留まった。かの、星野リゾートだ。

「2020年11月には星野リゾートと共同開発したウォータージャグ(部屋用のカラフェサイズ)を発売。『星のや』の一部に導入されました。星野佳路氏の『環境経営』の哲学にはかなり影響を受けていたので、この取引は大きな自信につながりましたね。僕たちが進んできた道は間違っていなかったんだ、と」

事業を新たなフェーズへと移行させた石川樹脂工業。会社としても次のフェーズへ......石川は採用において新たな布石を打った。

ターゲットは高卒でも大卒でも、中途でもない。彼がとりわけ熱いまなざしを送っていたのは、高専生だった。父親が県内にある石川高専第2期生だったことに加え、P&Gで活躍していた先輩社員にも高専出身者が多く、好印象を抱いていたからだ。

「余剰人員が存在しない中小企業の当社には、手も頭も動かすことができる高専生の存在が不可欠。そう思い、ずっと石川高専にアプローチをかけていたのですが、なかなか採用できなくて。しかし幸運にも2021年度は“たまたま”同校の高専生が、2名も新卒入社してくれたんです」

高専生たちの登場で、社内には文字通りの新風が巻き起こった。

「自動化設備導入のためのプロジェクトマネージャーから、3Dプリンターを活用した現場改善、設備のねじが緩んでいればその場で締め、製品の梱包までこなす......手も頭も使って、業務をマルチにこなす高専出身者たちの活躍ぶりには驚かされました。『彼らは日本の宝だ』と確信しましたね。

高専生採用への意欲はさらに高まりましたが、一方で2人のような優秀な人材と偶発的な出会いを待つのは難しい。実際に2022年度の高専生の採用はゼロ。どうしたものかと社内で考えあぐねていた時に、探し当てたのが高専キャリアでした」

「作って売ってみせろ」高専生に向けられた情熱と覚悟


「高専生を、もっと挑戦者に」というミッションを掲げる高専キャリアは2017年に創業。キャリア教育事業を幅広く展開している。石川はすぐに同社にアプローチし、代表を務める菅野流飛と取り組みについて協議。まずは、キャリア教育プログラムの共同開催を目指すこととなった。

両社でつくり上げたプログラムのタイトルは「そのアイデア、作って売ってみせろ」。

菅野は、石川の言動の端々にキャリア教育への並々ならぬ熱意を感じたという。

「これまでさまざまな企業とキャリア教育プログラムを実施してきましたが、企画立案に終始したものがほとんどでした。ですから『モノをつくり、売って利益を出すところまでチャレンジさせたい』という石川さんの要望を聞いた時は、心底驚きましたね。

例えば、金型が必要な製品だとしたら、その金型づくりで失敗する可能性だって大いにあります。かかるコストとリソースを想定したら、なかなか踏み切れる企画ではないと」(菅野)

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高専キャリア 菅野流飛

対して、石川はこう述べた。

「名だたる有名企業と一緒のことをやっていても仕方ない。うちの会社だからこそできる“一歩踏みこんだ”プログラムを実施したかったんです。参加する高専生には、コストを含めたものづくりを全て見てもらい、真のビジネスを経験してもらう。

それをサポートする私たちは、万が一彼らが失敗した時にどうリカバリーできるか、そのシナリオプランニングさえしっかり持っていれば、問題ないと。だからといって、ドキドキしていないわけではないですよ(笑)。入社して5年経って、中小企業経営のイロハが分かってきた今だからこそ、生まれた発想です」(石川)

キャリア教育も「フィードバック・イズ・ギフト」の精神で


「そのアイデア、作って売ってみせろ」は、すでに2022年1月8日からスタートしている。キックオフでは、全国から9名の高専生が石川樹脂工業に集合。2泊3日のスケジュールで、工場見学や製品企画講義を行った。

最後に、伴走する菅野に異例のプログラム実施に対する意気込みを語ってもらった。

「石川樹脂工業をはじめ、各社でファクトリーオートメーションが進んでいく中で、理想的な人材像についてますます議論が交わされることでしょう。こうした時代の変わり目において、“柔軟性のあるエンジニア”である高専生が脚光を浴びる日は近い。

この40年間変わらなかった高専生のキャリア教育にさらなる一石を投じるべく、プログラムに邁進したいですね」(菅野)

石川が日頃心掛けていることは、フィードバック・イズ・ギフト。彼からフィードバックというかけがえのない贈り物を渡された“日本の宝”たちは、一体どのような輝きを見せるのだろう......思い浮かべてつい心が躍ってしまうのは筆者だけだろうか。

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