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特別な夜のクライマックスを飾ったのは、音楽家の渋谷慶一郎氏によるピアノコンサート。通常は展示室として使用される天井高10メートルほどの空間に入ると、屋根も鍵盤蓋もとられたピアノが一つ置かれていた。

照明が消え、暗く静まる中、壁には現代アーティストの杉本博司が手がけた「海景」や「劇場」の映像が映し出され、鳴り響く音色がゲストを没入の世界へと誘った。


撮影:池田ひらく 提供:金沢21世紀美術館

「この空間で、映像と合わせてできることを、というリクエストを受けて構成を考えた。音を大きく、四方に出すために、ピアノは、蓋などをとりなるべく裸にして、“空間”を楽器にした」と渋谷氏。

美術館を設計したSANAAの妹島和世氏もゲストとして参加しており、「設計時から、色々なことに使ってもらったらいいのではないかという話はありましたが、実際にこのように使われると、美術館の違う面を経験したり、展示作品ともいつもと違った出会い方ができてとても新鮮でした」とコメント。

さらに、「今回のように閉館後に美術館を貸し切って企業やコレクターのパーティーが行われることは海外でもあります。もっとカジュアルに使用するなど、いろんな楽しみ方ができるのではと思います」と可能性に期待した。

美術館が果たせる役割


渋谷氏は、4時間にわたるイベントを次のように振り返った。

「フォーマル過ぎず、カジュアル過ぎず、適度な緊張感がある中でコミュニケーションをとれる場は意外と日本になく、貴重な取り組みだと思う。今回、ゲストの人選を長谷川館長が自ら担当されたのも、いい意味で偏りが出ていて面白かった」

その人選について館長は、「クリエイティブでありアートの知識や理解があり、グローバルな場数を踏んでいる人たちをお呼びしました。ジャンルや地域を跨いでいるからこそ、違いがわかる。また、アートのもつ“真善美の象徴性”の大事さを共有している人です」と説明する。

最後に、今回の事業が金沢という町に与える影響について聞くと、このように語った。

「例えば、銭屋の伝統を背負いながら、A_RESTAURANTで革新的なシステムを実践されている高木さんの取り組みを、美術館とのコラボで見せられただけでも価値があります。

今は、潜在的な可能性があるモノやコトも、コラボレーション、コーディネート、ファシリテートがうまくいかなければ前に進まない。資本が集中する東京には無数のコラボがありますが、金沢ではそれとは違う、ユニークで健やかなコラボができることがわかっていただけたと思います」


撮影:下家康弘 提供:金沢21世紀美術館

金沢という舞台で、地元で活躍する才能とのコラボにより、他にはない体験を提供する。その際に、美術館という場所や館長のファシリテーションが潤滑油のように機能し、想像以上のものにアップグレードされる。

事業として継続されるかは文化庁の検証結果によるが、今回のイベントが示した機能や仕組みを市や美術館が活用すれば、稀有な体験を求める観光客を呼ぶ装置となるだろう。あるいは、企業が求めれば地域を潤すビジネスにもなる。可能性が開かれたのち、どんなコラボが生まれるだろうか。

文=鈴木奈央

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