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世界を歩いて見つけたマーケティングのヒント

金沢 ひがし茶屋街(筆者撮影)

ブランディング業界では知られた話だが、プロダクトのグレードが上がれば上がるほど、ロゴやエンブレムのサイズは小さくなる傾向にある。もちろん例外もあるが、高級外車などの領域で見られる現象だ。

せっかく高いお金を払って所有するのだから、目立つ大きさの方がいいのではないか。普通はそう思う。しかし、特定のブランドと長く付き合っている顧客は、あえて小さなロゴのプロダクトを選ぶ。高級スーツのように、裏地を見なければブランド名が分からないようなプロダクトを選ぶことさえある。

自著『カルトブランディング』でも述べたが、「信者」はブランドと自らの関わりを、さまざまな場所で示す。その手段の一つとして、ブランドロゴの大きく入ったプロダクトを身につけることはよくある。しかし、さらにブランドとの関係が深くなれば、あえて目立たない、けれどもブランドとの関係が分かるアピール方法へと移行する。「自分はブランドと深くつながっている。でも、このことは分かる人に分かればいい」という「信仰スタイル」になるのだ。

これは男女関係を想像すると理解しやすい。付き合いたてのカップルは、恋愛に熱中し、時として同じTシャツを身につける(いわゆるペアルック)。しかしながら、関係が落ち着いてくると、ちょっとしたアクセサリーへと変化する。別に目立つ必要はないが、同じものを身につけることでお互いの関係性を確認したい。このようなマインドへと移行する。

スポーツチームのファンもそうだ。熱狂的なサッカーチームのファンの一部は、あえてレプリカユニフォームを着用しない。靴下などちょっとしたアイテムに、チームカラーを取り入れる。

分かる人には分かる。これは「秘密結社」的な大人の楽しみなのかもしれない。

飲食店の看板がどんどん小さくなる理由


飲食店でも同じである。「十数年前から看板がどんどん小さくなって、目の前まで行かなければ分からない店が増えた。場所を覚えるのが大変なんだよ」。かつて訪れた金沢で、タクシーの運転手が苦笑しながら語ってくれた。

古民家が数多く残る金沢だから、景観保護の観点でそうなっているのだろう。そう思っていたのだが、大衆的な居酒屋などはしっかりと大きな看板が掲げられている。反対に、人から紹介されて行くような名店は、極めて小さな看板が掲げられているだけだった。ある和食店の看板は、縦12センチ、横18センチ程度。店名が白い背景に黒色で書かれており、もはや看板というより表札である。知らなければ飲食店と分からずに通り過ぎてしまうだろう。

実は、こうした店は顧客の「自尊心」を高める。「自分はこんな隠れ家を知っているんだ」と思わせてくれるのだ。

その時は、やはり看板の小さな寿司店に入り、金沢の海産物を堪能した。気が付けば、後日金沢に関心がある知人におすすめしている自分がいた。「金沢だったらいい店知っているよ。分かりにくいから通り過ぎないように気を付けて」。自尊心が満たされた筆者の表情は、ほころんでいたに違いない。

究極はロゴのない高級ブランド品、看板のない高級飲食店に行きつくであろう。決して目立たず、口コミだけでゆっくりと確実に熱狂的ファンが増えていくブランドこそが理想形であると、金沢の街を歩いて感じた。

連載:世界を歩いて見つけたマーケティングのヒント
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文・写真=田中森士

ブランディング
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