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シネマの男〜父なき時代のファーザーシップ

(C)2014 italian international film s.r.l

男性ばかりだった領域に女性が進出するようになって、ずいぶん経つ。個人的なことで申し訳ないが、筆者が藝大の彫刻科に入学した1970年代末、男女比は圧倒的に男子優勢だった。

油画でも男子の方が多く、日本画、デザインで半々くらい、建築科はほとんどが男子。しかし今では、どこの芸大、美大も女子の方がずっと多く、一番少なかった建築科も女子が増加している。それは普通大学の建築科でも同様らしく、卒論ではしばしば女子学生が最優秀者になるという話も聞く。

近年、女性建築家の活躍も目覚ましい。金沢21世紀美術館を設計した妹島和世(+西沢立衛)、湘南台文化センターの長谷川逸子、日比谷花壇の乾久美子、そして2016年に惜しくも急逝したザハ・ハディッドの名は、新国立競技場のコンペで最優秀を勝ち取った世界的な建築家として日本人にも親しい。

しかし、女性建築家が実力で注目されるまでには、やはり男性が中心だった他の分野と同じくさまざまな苦労があっただろう。

そんな側面を意外な設定で描いたのが、イタリアで公開されるや否や大ヒットしたドラマ『これが私の人生設計』(リッカルド・ミラーニ監督、2014)だ。

日本でのイタリア映画祭でプレミア上映された際は、原題の「Scusate se esisto!」を訳した「生きていてすみません」のタイトルだったが、ネガティブな印象を与えるのを懸念してか、現在のタイトルになった。「人生設計」という言葉が選ばれているのは、主人公が建築士だからである。

2つの大きな「誤解」


セレーナ・ブルーノ(パオラ・コルテッレージ)はイタリアの片田舎出身。子供の頃から才能の片鱗を見せていた彼女は、ローマ大学はじめ世界各地の大学の建築科で修士号を取り、ロンドンでたくさんの現場を任される将来を嘱望された建築士だった。

ある時突然イタリアが恋しくなり、ローマ郊外に戻って仕事を探していた折、古びた公団住宅の巨大アパートで共同スペース案を募集していることを知り、有名設計事務所のコンペに挑戦。男ばかりが採用されるというその面接を奇策で乗り切り、自分の設計案の承認を目指して奮闘する……というドラマである。

この作品には、2つの大きな誤解が登場する。

1つ目は、セクシュアリティをめぐるセレーナの誤解。ローマ郊外の町でなかなか仕事に恵まれなかった彼女は、副業としてあるレストランのウェイトレスに応募する。オーナー兼シェフはバツイチのセクシーな中年男性、フランチェスコ(ラウル・ボヴァ)で、なにかと親切にしてくれる彼が実はゲイとは知らず、セレーナはすっかり恋をしてしまう。

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(C)2014 italian international film s.r.l

重ねに重ねた誤解が一気に解ける場所は、LGBTの人たちが集まるクラブ。男たちの中で腰をくねらせて踊るフランチェスコを目の当たりにしたセレーナはショックを受けるが、これがきっかけで2人は友人となる。

セレーナという女性は、建築・設計に関してはプロだが人生経験はまだ浅く、意外とうっかり者で夢中になると周囲が見えなくなるやや危なっかしいキャラクターだ。セレーナから見たフランチェスコの素敵さを強調するための、彼女目線のスローモーションの多用に思わず苦笑する。

狭い屋根裏部屋住まいだったセレーナは、夢に向かうがむしゃらなその姿勢に共感したフランチェスコの好意で、彼のマンションに同居。

ゲイの奔放な性生活に面くらいつつも、フランチェスコと気のおけない家族のような関係になっていく過程が面白い。登場するゲイは恋人のニコラを始め、やや類型的ではあるもののコメディリリーフ的な役割を果たしている。

文=大野 左紀子

映画
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