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Photo by VGL / Getty Images

誰もが幸せな人生を送りたいと思っている。不幸になりたいなどと願う人は一人もいないだろう。だから、幸せになるためにはどうしたらいいか、いろいろな人が多くの本を書き、幸福論を語るのだ。

一方で、幸せには人それぞれ理想とする形があり、一概にこうすればいいという法則がないようにも思える。

人間の脳、ロボットの研究から幸福について科学的に解き明かした前野隆司氏に、誰でもできる「幸せをコントロールする仕組み」について聞いた。

基本のメカニズムは同じ


「経済的に裕福になり、ものが豊かにあれば幸福度は増す」普通に考えれば、そう思うかもしれない。しかし、そんなイメージに反する調査結果がある。

図:生活満足度と一人当たり実質GDPの推移(1960〜2010年)/前野隆司著『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)より
図:生活満足度と一人当たり実質GDPの推移(1960〜2010年)/前野隆司著『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)より

日本の「一人当たりのGDP(国民総生産)」と家庭、仕事、健康や教育、コミュニティ、安全など人の生活に関わりの深い物事について、人がどれだけ満足しているかを調べた「生活満足度」の推移を比較すると、GDPは上昇しているのに、生活満足度は横ばいが続いている。なんと、終戦直後の1950年と最近とでは生活満足度に大きな違いがないという調査結果が出ているのだ。それを見て、カメラやロボットの研究をしていた前野隆司氏は衝撃を受けたのだという。

「僕は、科学技術の進歩とそれに基づく豊かさの向上こそが人々を幸せにすると信じて、企業に就職しエンジニアになりました。なのに、自分がいくらいいカメラやロボットを作っても、人々の幸福に貢献していないかもしれないということですから」

そこから前野氏はロボットの心を作るよりも人間の心を明らかにするべきだと考え、幸福を研究し始めることになる。

「人の考える幸せのイメージは、バラバラかもしれません。でも、人間はひとつの生物。同じ複雑な脳を持った生物である以上、目指す幸せの形は多様でも基本のメカニズムは一緒なのではないかと考えました。そんな人間の脳が幸せを感じるためのメカニズムを明らかにしようと、幸福学の追究を始めたのです」

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏。ロボットや脳科学の研究を出発点として、心理学、社会学、哲学まで、分野を横断して研究しつつ、幸福学・感動学の日本での第一人者として、個人や企業、地域と、各フェーズで活動中
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏。ロボットや脳科学の研究を出発点として、心理学、社会学、哲学まで分野を横断して研究しつつ、幸福学・感動学の日本での第一人者として、個人や企業、地域と各フェーズで活動中

自分が幸せかどうかを考える時、「もう少しお金があったら幸せだったのに…」とか「もう少し頭が良かったら…」、「もう少し外見が魅力的だったら…」と思う人は少なくないのではないだろうか。しかし、幸福に最も影響を及ぼすと思われるお金が、実は幸福とはあまり関係がないことがわかっている。

「プリンストン大学名誉教授でノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンの研究によると、『感情的幸福』は年収7万5千ドルまでは収入に比例して増大するのに対し、それ以上になると比例しなくなるのです。つまり、収入増は感情的に幸福を感じる要素にはならないのに、お金が増えれば幸せになると思い込んでしまっていること。これをカーネマンは『フォーカシング・イリュージョン』と呼びました。人は間違ったところに焦点を合わせがちだと言うのです」

収入に限らず、名誉や物質、優れた肉体など、私たちが手にしていれば幸せなのではないかと思う要素はいろいろある。もしこれらが幸福に関係ないとしたら、いったい何を目指せばいいのだろうか。

「幸福について研究し始めた最初の頃、『幸福のチェックリスト』というものを作り、チェックがついた数が多いほど幸福なのではないかと仮説を立てて調べたことがあります。でも、チェックリストの項目をほとんど満たしていなくても自分は幸せだという学生がいました。じゃあ、どれを満たしていれば幸せなのか。それを知りたくて『幸せの因子分析』というものを行ったのです」

文=定家励子(パラサポWEB) 写真=吉永和久

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