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シェフが繋ぐ食の未来


こうして、ショコラ作りの作業をひととおり見学したところで、マルコリーニ氏にご対面である。「まいど、おおきに、ありがと」と挨拶してくれるなど、いたって気さくな氏に、まずは、「25年間、トップショコラティエとして、走り続けてきた今、あなたの心の中にあることははなんですか?」という、大きな質問をぶつけてみた。

すると、即座に「責任」という答えが返ってきた。「ショコラに関する技術やノウハウを伝えていくという責任と、カカオの育つ環境はもとより、未来へ向けての地球環境を守りつないでいく、サステナビリティに向き合う責任の二つの側面がありますが」と説明を加えてくれた。

その責任感の強さこそが、世界レベルでトップに立つことができるシェフの資質であるのだろうと、共感すると同時に、トップだからこそ負わなければならないものの大きさに、身が引き締まる思いもした。

農園に最もよく通うショコラティエ


ショコラに関するノウハウでいえば、見せてもらった工程が全てであるわけだから、それを何一つ隠すことなくオープンにするという潔ぎのよさ、懐の深さにもまた感心せざるをえない。

ビーントゥバーというと、日本には、数年前にサンフランシスコなど、アメリカでの流行を経由して入ってきた言葉として根付いたが、実は、マルコリーニ氏こそが、世界的にも先がけの一人なのである。カカオ農園に最も足しげく通うショコラティエとしても知られている。


(c)Marcolini Antwerp store

マルコリーニ氏が初めてカカオ農園を訪れたのは2008年のことだという。ブランドを立ち上げてから10年近くを経てのことであるが、どうしても自分の目で確かめたという思いが募り、当時は通例であった仲介業者を排して、自らカカオ農園へ向かった。そのときの鮮烈な想い出を語ってくれた。

「それは、人生を変える旅でした。トリニダード・トバゴ、サントメ、メキシコを周りました。最後にメキシコのタバスコで、クララ・エチェバリエという女性の農園を訪ねると、私がそれまで知らなかった、最もクオリティの高い“クリオロ・プロセラーナ”という種類の豆を見せてくれたのです。まるで、魔法の扉が開かれるように、カカオの深淵な世界を知らされました。ランチを楽しんだあと、彼女は1トンのクリオロ・プロセラーナを売ってくれると約束してくれたのです。信じられませんでした」

以来、マルコリーニ氏の、カカオ豆への情熱が増したことは言うまでもない。

文=小松宏子

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