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では、脳はどうすれば鍛えられるのだろうか?

「ある運動をしようとイメージする時にも脳は活動していて、想像している動きによって働く領域が同じように興奮することがわかっています。ですので脳トレといいますか、動作の想像を繰り返すことで、その脳の領域も鍛えられる可能性があると考えています」(鎌形氏)

東京五輪メダリストの橋本大輝選手、萱和磨選手、谷川航選手をはじめ、多くの体操選手の育成にあたってきた冨田氏は、最近の練習方法をあげてこう話す。

「体育館内数ヵ所に設置したビデオカメラの映像をタブレットでリアルタイムに確認し、演技のフィードバックをその場で得てすぐさま実践といった練習を繰り返し行っています。

実際の動きで脳が興奮し、終わってから映像を見てさらに脳を活性させていることになるので、理にかなっていると感じました。また、例えば空間認識をより強くするために、トランポリンを活用し、類似した動きから習得するといったトレーニングを取り入れたりしています」

一方で、脳をイマジネーションに“慣れ”させすぎるのには注意が必要のようだ。

「同じことをただ繰り返すことによる“慣れ”は脳にもあって、その“慣れ”によってイマジネーションの解像度がさがり、脳の興奮が抑えられてしまうと、脳トレの効果は期待できません」(鎌形氏)

その点でも、冨田氏が選手としても指導者としても追求してきた「美しい体操」への意識と「感覚の言語化」は、イマジネーションの解像度を高め、脳に良い影響を与えることにも繋がるだろう。特に「言語化」については、今回の鉄棒、平行棒での研究結果においても、神経接続の強さとDスコアとの相関が見られている。


萱和磨選手(Photo by Stringer/Anadolu Agency via Getty Images)

コロナ禍で迎えたオリンピックを振り返ってみても、練習が制限された中でベストなパフォーマンスを発揮するために、選手も指導者もあらゆるアプローチを模索する必要に迫られているという。

「競技種目に関わらず、これまでは筋力や動作といったダイレクトな要素を強化するトレーニングや研究が行われてきましたが、新たな角度でのアプローチとして、脳は面白いと思っています。新しい取り組みやトレーニング方法を開発できる可能性もあります。また、これまでとは違ったスポーツの捉え方、価値にも繋がるかもしれません」(冨田氏)

「運動を司っているのは脳なので、脳機能を可視化して集中して鍛えることができれば、パフォーマンスをより効率的に発揮できるのではないかと期待しています」(鎌形氏)


鎌形康司◎順天堂大学大学院医学研究科放射線診断学准教授。医学博士。2007年に順天堂大学医学部卒業、医師国家試験合格、2014年同大学院修了。2016年メルボルン大学神経精神センター visiting fellow、帰国後2019年より現職。日本磁気共鳴医学会大会・大会長賞など受賞多数。

冨田洋之◎1980年、大阪府生まれ。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科准教授。2004年アテネ五輪・団体総合で金、個人種目別平行棒で銀メダルを獲得。2007年の世界選手権にて日本人初のロンジン・エレガンス賞を受賞。2008年北京五輪・団体総合で銀メダルを獲得し同年に引退。2018年より現職、体操競技部コーチ、国際体操連盟技術委員も務める。2021年7月には初の著書『自分を操る』を出版。

*1)順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の冨田洋之准教授、医学研究科放射線診断学の鎌形康司准教授、青木茂樹教授、脳神経外科学の菅野秀宣先任准教授、スポーツ健康科学研究科の和気秀文教授、内藤久士教授らの共同研究グループによる
*2)順天堂大学スポーツ健康科学部の福尾誠非常勤助教、大学院スポーツ健康科学研究科の和氣秀文教授および内藤久士教授、医学研究科放射線診断学の鎌形康司准教授、青木茂樹教授、脳神経外科学の丹下祐一准教授および菅野秀宣先任准教授らの共同研究グループによる

文=新川諒 編集=宇藤智子

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