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Forbes JAPAN Web編集部


黒木は現在のニオイセンサーの技術について、こんな例を示した。

「農産物の状態を把握するときに、これまでは人間の鼻に頼って食べ頃や腐食を判断していました。例えば日本酒造りでは、酵母を入れて発酵させますよね。発酵をどこで止めたらいいか、24時間気にしていなければなりませんでしたが、ニオイセンサーでモニタリングして、止めるタイミングをアラートできるだけで大分役に立つようです。これまで長年の勘で決めていたのが、客観的に把握できるようになる。そういった品質管理の分野でも使われています」

食品開発においても、ニオイの可視化はとても有効だという。香りは個人の主観によるもののため、どのような香りを食品に入れたいのか、求めるイメージを伝えることが難しい。可視化して表現し、さらにデータとして管理できるようになることで、客観的な香りのイメージを共有することができるようになる。

また、AとBの香りを足すとCの香りになる、というように香りを作り出す方法がより明確になり、完成形の味に近づけるために必要な要素を把握することができ、再現性が生まれる。

アロマビット
アロマビット代表取締役 黒木俊一郎

今後はヘルスケアの分野でもニオイが活用されていくかもしれない。疾患を抱える人の体臭や呼気のニオイのパターンをデータとして蓄積し、ニオイのパターンと病の相関関係を明らかにすることができれば、ニオイから病気の可能性を推測することができる。

「医療分野でのニオイの有用性は、簡便さにあります。例えばアプリを搭載したスマホに息を吐くだけで病気の疑いがわかったり、アップルウォッチのように常に身につけるデバイスでニオイを感知するだけで、体調の変化をモニタリングできます。パーソナルヘルスケアとして、いろいろな病気の察知ができるようになることを狙っています」

自然をリスペクトするきっかけに


農業、食品、医療、あらゆる分野に役立つニオイ識別センサーだが、黒木はどのような思いで開発を続けているのか。今後の展望を聞くと、意外な思いを口にした。

「自然界の声を聞ける世界にしたいと思っています。植物はどうやらニオイでコミュニケーションをとっていて、葉をちぎるとニオイが強くなるのもその一環。ニオイが情報化されるようになると、植物がストレスを感じていることがわかったり、『痛い』と言っているのがわかるようになる。すると、環境問題や地球の状態もわかるようになります。

アマゾンのような生物が生茂る場所にニオイセンサーを置いたら、生命の声が聞こえるようになるんです。そうすると自然をリスペクトするし、愛おしくなるじゃないですか。自然とユーザーの相互理解が進みます。

この世界は本来ニオイで繋がっているはずですが、それがいまは情報化されていないために、人間が自然の声に鈍感になっています。自然界との対話や新たなコミュニケーションのきっかけになることをミッションにしています」

見えずとも、私たちはさまざまなニオイに囲まれた世界に生きている。だからこそ、それらを情報として見える化することで、多様な分野での活用が見込まれる。

ニオイについて知ることは、他者とのコミュニケーションについて考えることだ。ニオイは決して悪者ではないだろう。


黒木俊一郎◎アロマビットCEO兼代表取締役社長。米国マカレスター大学卒(化学・物理専攻)。NEC(現在のルネサスエレクトロニクス)にて、半導体のエンジニアとして、最先端プロセス開発に従事。その後、ゴールドマン・サックス証券を皮切りに、ハイテク分野に特化した投資アナリストとして外資系投資銀行などに10年間従事。2009年、米国知財ファンドにて、オープンイノベーション創出、技術・市場評価業務ならびに事業開発業務に従事。2014年2月に、小型ニオイセンサーならびにニオイデータのスタートアップ「アロマビット」を設立。


【連載】ニオイは悪者か?<全4回>
1.「ニオイ」は悪者か? 体臭について知っておきたいこと
2.嗅覚と恋愛 「あの人のニオイが好き」の科学的根拠
3.そのケアは正しいか? 臭気判定士に聞く、夏場の「ニオイ」対処法
4.世界も認めるアロマビット、「ニオイの可視化」で何ができる?

文=河村優

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