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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

2011年1月、スイスのリゾート地、ダボスで開催された世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」に集まった世界のトップリーダー達の目は、一人の若き政治家に注がれていた。

その名はデーヴィッド・キャメロン。その前年5月の総選挙で党首として保守党を勝利に導き、43歳の若さで英国首相に選ばれた彼が、どのようなスピーチをするのか、聴衆は厳しい眼差しで見ていた。

世界各国の大統領や首相を始め、グローバル企業の経営者、ノーベル賞学者など、各分野のトップリーダーが集まり、世界中のメディアにも注目されるダボス会議は「世界の大統領や首相の品評会」とも称される場であり、そこでのスピーチの成否によって、その政治家の評価が定まってしまう場でもある。

しかし、そうした大きなプレッシャーがかかる場において、キャメロンは、大胆なアピールの戦略に出た。それは、これまでの大統領や首相は、誰もが演壇に立ち、ときおり原稿に目をやりながらスピーチをするのに対して、キャメロンは、一切、原稿を見ず、短いスピーチをすると、演壇を離れ、会場の聴衆から自由に質問を受け始めたのである。そして、この質疑においては、どのような政策的質問を受けても、当意即妙に回答していったのである。

この姿を見て、驚きと感銘を受けたのは、筆者だけではなかった。その場に集まった1000名を超える世界のトップリーダー達も、キャメロンの該博な政策知識、臨機応変の答弁能力、そして、大会場の聴衆を呑む胆力など、その政治家としての力量に感銘を受けたのであった。もとより、これは、「若い政治家」として侮られないためのキャメロンの戦略であったとはいえ、見事なスピーチであった。

しかし、こうした見事なスピーチをするのは、決してキャメロンだけではなかった。ダボス会議の常連でもある、元英国首相のトニー・ブレアは、文字通り「華のある政治家」であり、彼が壇上で「まず第一に」(First of All!)と語り始めると、会場の聴衆の誰もが、彼の話に惹きつけられた。巧みなレトリックを交えながら、論理的かつ説得的に語る彼の流麗なスピーチは、ダボス会議でも、最も多くの聴衆を集めるものであった。

このトニー・ブレアに比べると、同じ労働党の党首でも、地味な政治家と感じていたのが、彼の後を継いで英国首相となったゴードン・ブラウンであった。しかし、筆者は、別な機会に、この認識が誤りであったことを思い知らされた。

文=田坂広志

田坂広志の「深き思索、静かな気づき」
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