シネマの女は最後に微笑む

ネット上で24歳になりすました50代の大学教授は、次第に若者との虚構の恋愛にのめり込んでいく(c)2018 DIAPHANA FILMS-FRANCE 3 CINÉMA-SCOPE PICTURES

コロナ禍で、リモートワークやオンライン会議、オンライン飲み会が多くなって久しい。モニターに映る背景を変えたりするのはもちろん、顔にメイクを施すアプリやフィルターを使って、肌をきれいに見せている人も多いのではないだろうか。筆者もいちいちメイクをするのが面倒なので、そのうち試してみたいと思いつつまだ踏み出せない。

フィルターは元の顔立ち自体を変えるわけではないが、別の画像を合成したり、顔を入れ替えたりする機能がついたアプリも人気で、自分の顔を別人に書き換えることはすでに可能になっている。人に「もっと若く美しく」という願望がある限り、今後は現実の場には一切登場せず、架空の顔でネット上でだけ活動する人々も出てくるかもしれない。

ネットにしか存在しない美男美女が集うオンライン会議や飲み会を見てみたい気もするが、自分の顔を改変してまで参加するのは、やはりハードルが高い。仮面とのギャップにひとり向き合うのは恐ろしいことである。

さて今回紹介するのは、『私の知らないわたしの素顔』(サフィ・ネブー監督、2019)。ネット恋愛にはまった1人の中年女性と若者の関係を虚実取り混ぜて描いたサスペンスだ。

クレール(ジュリエット・ビノシュ)は、パリのマンションに独り住まいの50代の大学教授。ドラマは、彼女が精神分析医に自分に起きた出来事を語るというかたちで進行していく。

24歳の別人になりきり虚構の恋愛へ


離婚した夫との間の2人の息子が時々訪ねてくるものの、自身は若い恋人リュドとの恋愛を楽しんでいたクレールだが、ある時偶然リュドの友人でアレックスという青年と電話で話す機会を得る。

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(c)2018 DIAPHANA FILMS-FRANCE 3 CINÉMA-SCOPE PICTURES

自分から離れていこうとしているリュドと繋がっていたくて、クレールはアレックスに接近していく。ただしあくまでネット上で、それも別人になりすまして。

ネットの中で自分以外の人間になりすますサスペンスドラマとして、以前『ナンシー』(クリスティーナ・チュー監督、2018)を取り上げた。そこでの主人公の嘘は、行方不明になった5歳の少女の30年後という設定だったため、実際に会ってもあるところまでは相手を騙すことができた。

文=大野 左紀子

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