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日米スポーツビジネス最前線


日米で球団買収額にこれだけ大きな差が生まれてしまうのはなぜだろうか? それを読み解くには「正常収益力」と「マルチプル」の2つがキーワードになる。

一般企業のM&Aでもデューデリジェンスの出発点になるのが「正常収益力」の把握だ。正常収益力とは、その組織や事業そのものが収益を生み出す本当の力のことで、決算上の数値から、事業と関係のない損益や非経常的に発生する損益を除いて算出される。

日本のスポーツ界では、多くの球団が法人に保有されているが、協賛料の名目で親会社から損失が補填されるケースがある。例えば、球団の実質的な収入が100億円、支出が120億円だった場合、赤字となる20億円分を協賛料の名目で親会社が補填するのだ(この場合、決算上の収益は120億円となるが、本来の収益力は100億円だ)。

アントラーズやベイスターズの買収については、正確な財務情報が分からないので損益の調整が行われたケースに該当するかは判断できないが、一般論として日本のスポーツ界では決算上の売上が「正常収益力」より高く出ている可能性がある。ちなみに、米国ではスポーツチームが法人に保有されているケースは稀なこともあり、こうした損失補填の実態はない。

米国では多くのリーグが収益分配制度を導入


その米国では多くのスポーツリーグが戦力均衡のため球団間の収益分配制度を導入している。球団収入の格差が大きすぎると、戦力にも大差がついてしまうからだ。MLBでは各球団が収入の33%を供出してプールし、それを全球団に均等分配し直す。供出金は球団収入に比例し、分配金は均等であることから、高収入球団の収入の一部が低収入球団に再分配されることになる。

このため、特に収入の大きなビックマーケット球団は、関連会社を作って収入を球団外に移転してできるだけ供出金の額を下げようとする。例えば、球団が傘下にケーブルテレビ局を設立して、本来なら100億円の放映権料を80億円に下げれば、球団収入は20億円分目減りする。こうした背景から、米国ではむしろ数値上の売上が「正常収益力」より低く出ている可能性がある。


ニューヨーク・メッツのオーナー、スティーブ・コーエン氏(Photo by David Dee Delgado/Getty Images)

もう1つのキーワードは「マルチプル」だ。

M&Aにおいて事業価値を評価する代表的な手法の1つにマルチプル法があるが、これは類似企業の過去の買収事案などから「事業価値」が「売上」や「利益」の何倍(マルチプル)になっているかを参考に計算するというものだ。

Forbesによるスポーツ球団の事業価値評価もこの方法を採用している。詳細は明らかにされていないものの、球団の収益力(前述の「正常収益力」に相当すると思われる)に過去の球団買収から算出されたマルチプルを乗じることで事業価値を算出していると注釈にある。ちなみに、Forbesは前述したメッツや、NBAブルックリン・ネッツの買収(2019年8月にアリババの創業者ジョセフ・ツァイ氏が23億5000万ドルで買収)における事業価値を見事に予見している(球団買収額がForbes算出の事業価値に一致)。

マルチプルの算出でポイントになるのは、過去の取引を参照するところだ。特に非上場がほとんどのプロスポーツ球団の場合、株価のような分かりやすい指標がないため、売却額は売り手と買い手の非公開の交渉により決められる。そこでモノを言うのは需給バランスだ。当然だが、球団の買い手が多いほど競争原理からマルチプルは高まり、事業価値も高くなる。

文=鈴木友也

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