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シネマの女は最後に微笑む


ドラマの随所で発揮されるファビエンヌという女優の「大物感」は、それを演じるカトリーヌ・ドヌーヴの姿に重なっている。

すべてを女優業に捧げてきた人だけが放つオーラ。数々の栄光に包まれてきた人だけが持ち得る余裕。人生に対する冷徹な構えと時折わずかに見せる孤独、ユーモア。豹柄のコートをここまで堂々と着こなせる人は、ファビエンヌ=ドヌーブをおいて他にはいないだろう。

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photo L. Champoussin (C) 3B-Bunbuku-Mi Movies-FR3

「監督と寝てセザール賞の役をサラから奪った」と皆の前でリュミエールから非難されても、それが何か?という態度でスルー。「ママみたいに強い人ばかりじゃない」という言葉に「強くて何が悪い?」と開き直る下りは、(ハリウッド実力者の性暴力に対して女性たちが声を上げた)Me Too旋風に対して批判的な見解を出していたドヌーヴならではのリアリティが滲む。

男性陣の役割にも変化が


ファビエンヌとリュミエールを中心として、その周囲に配置されている男たちの描写も興味深い。

まず、長年ファビエンヌに仕えてきた秘書のリュック。人生経験を積み控えめな微笑を絶やさないこの有能な老人は、冒頭近くにある理由から家を出ていくのだが、その後もつかず離れず母子を見守り続ける。母と娘の関係性をよく知っており、この機会に直接ぶつからせ和解へと歩ませるために、自分は一旦身を引いたのではないか、そういう深い奥行きを感じさせる人物だ。

そして現在ファビエンヌのパートナーであるジャック。料理とマッサージを引き受ける初老の癒し系だが、ファビエンヌに従いつつもやんわり忠告する場面は優しさと年の功を感じさせる。

リュミエールの夫で、今ひとつパッとしないテレビ俳優であるハンクは、わりと軽いノリで彼女の尻に敷かれているように見えて、実は妻の心をしっかりと見抜いているというジャックと同じ役回りだ。初対面の誰にも胸襟を開く彼の社交性は、気難しいところのあるリュミエールを人知れず救っているように見える。

そして途中から登場する、ファビエンヌの元夫でリュミエールの父ピエール。いかにもうだつの上がらない老人だが、明るいキャラクターで孫娘シャルロットと仲良くなり、壊れていた仕掛け人形のおもちゃを器用に直してみせる。もちろんこれはリュミエールが子供の頃に遊んだおもちゃであり、その修復が母と娘の関係に重ねられているのは言うまでもない。

つまり男たちは全員、自己主張してぶつかり合う母娘二人より一歩引いた存在でありつつ、彼女たちの対立を和らげたり相対化したりする作用を果たしている。ひと昔前なら、男の闘争を緩和する女性の姿に託して描かれていたそれが、男性の新しい役割として描かれているところが面白い。

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photo L. Champoussin (C) 3B-Bunbuku-Mi Movies-FR3

劇中劇と現実は終盤、不思議な交錯を見せてくる。その中でこの映画が、親子の確執から和解へという内容と、物語映画を形作る脚本や演技といった構成要素とを、同じ位相で拮抗させようとしていることに気づく。

この視点はドラマの細部に散りばめられているが、最後にリュミエールからファビエンヌに、シャルロットを通じて返される一撃によって、内容と構成要素は見事に一致する。母と娘の膠着した関係性を越え、脚本家として女優に向き合う姿勢をとったリュミエールの聡明さに拍手を送りたい。

連載:シネマの女は最後に微笑む
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文=大野 左紀子

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