シネマの女は最後に微笑む

効果的に人の気を苛立たせる大人たち


4人の関係において、もっとも効果的に人の気を苛立たせるのはアランだ。大事な話になりかけたところで必ず携帯が鳴り、客からのクレームに追われる製薬会社の担当者と大きな声で仕事の話。その間、居心地悪い沈黙を強いられているあとの3人を、まったく気にかけない。

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『おとなのけんか』(c)2011 SBS Productions, Constantin Film Produktion, SPI Film Studio, Versatil Cinema, S.L., Zanagar Films and France 2 Cinema. All Rights Reserved.

彼にとって、自分の息子が他所の子供にちょっと怪我を負わせたことなど、大した出来事ではないのだ。何よりも仕事優先という態度を隠さないのは、ネオリベラル的な強者意識からだろう。

クールを装い、自分以外の人々を上から目線で見ているそのふてぶてしさと、窮地に陥った時の狼狽ぶりとの落差が滑稽だ。

アランに負けないくらいの「厭(いや)さ」をジワジワと滲ませてくるのが、ペネロピである。

社交辞令で褒められたチューリップに対して「オランダから空輸して1束20ドル」と聞かれてないことまで言い、アフリカの貧困や飢餓問題に関心のあることをアピールし、息子に対するリベラルな教育を誇り、すべてにおいて「意識が高い」ことを匂わせつつ、事態が収まりそうになっているのにことさら被害者性を強調して話をこじらせる。

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『おとなのけんか』(c)2011 SBS Productions, Constantin Film Produktion, SPI Film Studio, Versatil Cinema, S.L., Zanagar Films and France 2 Cinema. All Rights Reserved.

この女性、真面目なのだろうがちょっと面倒臭い上に鼻持ちならない人物だなという雰囲気が、絶妙に醸し出されてくるプロセスが面白い。ある種の優越意識を持っているという点では正反対のタイプのアランと共通するが、どちらかというと偽悪的なアランに対して、ペネロピはどこまでも自分の正しさを疑わない人なので、一層厄介に見えるのだ。

それぞれの配偶者であるナンシーおよびマイケルは、言ってみれば「平凡な人」である。ナンシーは傍若無人な夫の態度を気にして始終フォローを入れており、なんとかこの場を穏やかにまとめようと努力する。マイケルは、のんびりした温厚な人柄で、お菓子やコーヒーを積極的に勧めるなど、場を和らげる役どころだ。

ではこの2人が調停役として機能するかというと、まったくうまくいかない。それぞれの配偶者が強く出ると曖昧に同調したり、顔色を伺ったりする場面があるように、ナンシーは夫のアランに、マイケルは妻のペネロピに基本的には追従する関係となっている。その抑圧された感情は、終盤で大々的に爆発する。

文=大野 左紀子

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