田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

現在、世界中を危機に陥れている新型コロナウイルス感染症。では、このパンデミックの凄まじい脅威を経験した世界は、これから、どのように変わっていくのか。

そのことを考えるとき、まず最初に、我々が覚悟しておくべきことがある。

多くの専門家が指摘するように、この新型コロナウイルスによる感染拡大は、第2波、第3波という形で何度も到来する可能性があり、さらに、新たなウイルスによるパンデミックは、今後必ず、何度も人類社会を襲ってくるだろう。

では、どうすれば、我々は、このパンデミックに耐えられる社会システムを創ることができるのか。

そのためには、小手先の改革ではなく、現在の社会の政治、経済、文化の在り方を根本から変え、新たなパラダイムに立脚した「ポストコロナ社会」と呼ぶべきものを構築していかなければならない。

では、そのポストコロナ社会における政治、特に国際政治の在り方は、どう変わっていくのか。

まず、アメリカのトランプ政権の”America First”の政策や、イギリスのEU離脱の動きに象徴される「自国第一主義」は、大きな壁に突き当たり、限界を露呈する。それゆえ、世界各国は新たな次元の「国際協調主義」に向かうことになるだろう。

すなわち、このパンデミックの初期には、他国からの感染者の流入を止めるため、出入国制限や国境封鎖などの「孤立政策」とも見える手段を講じなければならない。しかし、世界各国が緊密に相互依存したグローバリゼーションの時代には、長期にわたり国際的な人の移動を止めることは、世界全体の経済が麻痺することを意味しており、いずれ、人の移動を認めなければならなくなる。

そのため、仮に、その“鎖国状態”の中で、自国一国だけ感染拡大を止めることができても、地球上のどこかで感染が拡大しているかぎり、“鎖国”を解いた瞬間に、他国のウイルスが流入してくる。

そして、このとき深刻な問題になるのが、医師や医薬品、医療施設が不足している発展途上国での感染拡大である。いかに先進国で感染拡大を止めても、途上国で感染拡大が続くかぎり、国際的な人の移動を通じて先進国でも必ず感染が拡大していく。

従って、このパンデミックを真に終息させるためには、世界全体で感染情報や医療情報を交換し、医療と経済の両面で、相互協力体制を強化していかなければならない。特に途上国には、医師団の派遣や医薬品、医療器具の提供、さらには、それに伴う経済的支援を行わないかぎり、世界全体で、このパンデミック危機を乗り越えていくことはできない。

すなわち、このパンデミック危機は、「自分の国さえ守れば良い」という自国第一主義に立脚するかぎり、実は、自分の国も危うくなるというアイロニカルな性質を持った危機に他ならない。

もとより、国際政治においては、かねて途上国支援の重要性は語られてきたが、パンデミックの時代には、それが、人道的な課題(ヒューマニズム)という意味を超え、自国の安全のために不可欠な課題として、先鋭的に突きつけられることになる。

文=田坂広志

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賢明なもう一人の自分

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