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米カリフォルニア州サンディエゴのタワー・パドル・ボーズ(Tower Paddle Boards)も1日5時間勤務制を試したが、結果はデジタル・イネーブラーと似たものになった。同社のステファン・アーストルCEOによると実験は最初こそ成功したものの、従業員が自由時間を少し楽しみ過ぎるようになってしまったのだという。この制度はその後、夏限定とされた。アーストルは、この勤務体制により労働倫理が損なわれ、会社のスタートアップ文化が失われたと嘆いている。

日本マイクロソフトは昨年、「ワークライフチョイスチャレンジ2019夏」と題した勤務時間短縮プロジェクトを実施し、2300人の従業員に「仕事(ワーク)や生活(ライフ)の事情や状況に応じた多様で柔軟な働き方を自らがチョイス(選択)できる」機会を与えた。目的は、勤務時間の削減により生産性と士気が改善するかどうかを見極めることだった。

日本は米国と同様、長時間労働の文化が根強い。さらに日本の社員は会社に対して強い献身を示す。実験の結果からは、従業員の満足度が向上し、生産性は約40%向上したことが示された。

こうした事例を見ると、ある疑問が浮かぶ。柔軟な勤務時間は小企業よりも大企業の方が実現しやすいのだろうか? 万単位の従業員を抱える企業は、出勤しない社員を埋め合わせるだけの労働力がある。一方の中小企業はぎりぎりの人手で事業を回しており、既に働き過ぎの状態にある。勤務時間が減ってしまえば、やり残しの仕事を片付け、効果的に顧客対応をするための十分な人手を確保できないかもしれない。

日本マイクロソフトの成果を額面通り受け取ることはできない。従業員は、この制度の正式導入を目指して意図的に仕事に精を出したかもしれない。週休3日制が本格導入された後も、従業員は熱心に働き続けるだろうか? それとも、そのありがたみを忘れてしまうだろうか?

勤務時間短縮に興味を持つ企業が考えるべき点は多い。顧客はどう思うだろうか? サービスの低下に気づいてクレームを出したり、他の企業に乗り換えたりするだろうか? 従業員全員が遅い時間から働き始めて早めに退勤することを希望した場合、勤務時間の問題が生じてしまわないか? 深刻な問題が起きた際に担当者が出勤していなかったらどうするのか?

出勤しない人が特定の時間に集中すると、職場にいる従業員は不満を抱くだろうか? 会社の士気にはどのように影響するだろう? 業務フローが中断されるだろうか? 職場にいない人に連絡して対応してもらう必要が出てきて、時間短縮の意味がなくなってしまわないだろうか?

アマゾンやグーグル、フェイスブックなどの大企業は、より規模の小さい企業と比べて大きな利点を持つだろう。勤務時間短縮は意図せずとも、今既に市場をほぼ独占している巨大企業をさらに巨大化させ、競合企業を一掃してしまう可能性もある。

企業が考慮すべきもう一つのことは、低失業率により人材探しが困難になる場合で、企業は考え方を変える必要がある。先進的な企業は優秀な人材を引き付けるために柔軟な勤務制度を採用しようとするかもしれない。労働時間を従業員のニーズに合わせて変えることで、重要な従業員の退職を防げる可能性がある。逆に景気が悪くなった場合、企業は人材を選ぶことができ、より長時間の労働を要求できるだろう。

米国の失業率が現在の最低水準を維持すれば、企業の多くは新たな人材を自社に引き付けると同時に現従業員を満足させるための独創的な方法を導入する必要がでてくる。これができなければ、1日5時間勤務などの魅力的な制度を提供する企業に、賢く優秀な社員を奪われてしまうかもしれない。

編集=遠藤宗生

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