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AI通信「こんなとこにも人工知能」

Andrey_Popov / Shutterstock.com

元農水省次官による息子殺害事件、新幹線殺傷事件、熊谷殺人事件など、このところ司法が下す量刑の決定に対して、世間的に大きな議論が巻き起こることがしばしばだ。司法のエキスパートたちは世論や感情に流されることなく、前例や判例に則とって冷静沈着に判断を下しているのだろう。

ただ、SNSやメディア報道を見る限り、遺族の気持ちはもちろんのこと、時代を反映した新しいタイプの事件に対して司法も新たな基準を設けるべきという国民の意見が日に日に強くなっているように思える。

また2020年を境に、“自動化”も司法の大きなテーマになっていきそうだ。人の犯した罪、もしくは人と人の利害不一致による法的紛争を人工知能が裁く──。そんな時代が間もなく現実として訪れつつある。というのも、人工知能を司法や係争に取り入れる有用性や効率性については、かねてからさまざまな形で研究が続けられてきた。昨今では、実際に国レベルでユースケースが確立されつつもある。

エストニアで判事を務めるカイ・ヘルマンド法務部次官は、韓国で行われた「人工知能と法、そして人間」というシンポジウムに登壇。その席で、エストニアでは2020年から、定型化された係争の可能性が低い7000ユーロ以下の少額裁判に対して、「AI判事」を用いると発表した。エストニアは、社会システムや政府インフラの多くをデジタル化しているIT先進国と知られているが、いよいよ司法の場でも人工知能の利用を開始するということになる。

中国ではすでに、今年の初めから刑事訴訟の進行をサポートする用途でAI判事が用いられている。またオーストラリアの家庭裁判所では、離婚裁判に人工知能が活用されているという。オーストラリアのAI判事は、約90以上の要素を分析して提示。夫婦の公平な財産分割を判断・支援する。

おそらく暴行事件や殺人事件、特殊詐欺など、深刻性や複雑性が高い裁判の判断に人工知能を用いることはそう容易くないだろう。ただ、さまざまな司法判断、係争解決の手段としてAIが用いられる潮流が生まれているのもまた事実である。今後、スピードの差は国によってあるにしろ、AI判事そのものが普及していくことまず間違いない。

AI判事については、公平性の問題が常に議論されている。偏向したデータが学習のベースになってしまえば、ある特定の手段に対して不利な判決や判断が量産されてしまうというものだ。言い換えれば、効率性を担保しつつも、いかに公平なシステムを生み出せるかが普及のカギというわけだ。

思うに他にも課題がある。例えば、冒頭の事件の例のように、高齢化や格差の広がり、超孤立社会、外国人の流入増加、もしくは女性の社会進出や経済力が高まった際の離婚紛争の取り扱いなど、新しい時代の新しい現象に対して、既存のデータだけを学習した人工知能は上手く判断を下すことができるだろうか。

つまり、定型化できない新たな事件や紛争に対して、AIは時代に即した適切な判断を下せるのかという課題である。そして仮に正確な判断を下せたとしても、その判断を人間側が受け入れられるかという「受容性」の課題もある。

司法という分野において、AIはどこまで人間の判断を代替していくのか。その線引きは非常に難しいものとなりそうだ。

連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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文=河鐘基

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