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世界を目指す「社内発イノベーション」事例


それでも、「自分達が変わろうと思っても変われないことが社外に伝わると、いつしか背を向けられます。とくに『確実なものしかしない』と決めている企業はそうなのではないでしょうか」と丹羽氏は言う。

「いけるところまでいこう」

丹羽氏が帝人ファーマに参画したのは2016年4月。日野にある医療技術研究所に配属され、当時所長を務めていた中川氏とその頃から新しいことをするにはどうしたらいいか話し合っていた。互いに本社に異動してもそれは変わらなかった。経験豊富な大西氏の起案はまさに求めていたもので、社内でも最終的に止められることはなかった。

「いけるところまでいこう」。中川氏、大西氏、丹羽氏は固く誓った。


帝人ファーマ 研究開発事業本部 在宅医療企画技術部門長・中川誠氏

我々アドライトに丹羽氏から相談があったのは昨年11月。そこからコンペを経て、アクセラレータープログラムの計画策定から募集選定、メンタリング、DemoDayに至る全期間の支援に取り組むことになったが、アクセラレータープログラムはコモディティ化の域に達している。「また大手企業が始めるのか」という印象を持たれやすく、設計次第でブランドイメージを損なうリスクもあった。

しかし、3月からスタートした計画策定の段階で、我々の心配は杞憂に終わった。丹羽氏の口から発せられる言葉はどれも甲乙付けがたいものだったからだ。「スタートアップにとっていいアクセラレータープログラムにしたいのです」「自分達も汗をかきます」。

今回、事業共創を目指していることもあり、テーマ設定も具体的かつ尖ったものでいこうと決めた。世のアクセラレータープログラムのうち、ITやデジタル技術を使った「デジタルヘルス」をテーマにするものは健康なユーザーを対象にしていることが多い。一方、患者中心、とくに「在宅医療」にフォーカスしているものは見当たらない。

行動指針として「5Sの精神(SAFETY:安全、SINCERITY:誠実、SERVICE:奉仕、SPEED:迅速、SMILE:笑顔)」を掲げる帝人ファーマにふさわしいものとして固めていった。

本プログラムにおける重要な要素としてもうひとつ欠かせないのは、非(在宅)医療領域の企業も応募対象としたことだ。医療従事者だけでは想像範囲が絞られる。自由な発想で在宅医療に挑戦して欲しいという狙いのもと、提供リソースのひとつに「未経験でも在宅医療領域での事業化に集中できる環境」を設けた。

集客に苦戦も、目標数以上に

「プログラムの最初から最後まで苦労の連続でした」と苦笑いする丹羽氏だが、最もプレッシャーだったものとして「集客」を挙げた。アクセラレータープログラムは応募がなければ始まらない。質も要求される。「親会社の帝人であれば認知度はありますが、帝人ファーマは呼吸器系を中心とした一部のカバーにとどまります。いかに知ってもらうかが大変でした」

現に、船出は決していいものではなかった。プログラムの説明会にあたっては、記事を公開し、個別に声がけ等するも、参加者数は想定を下回った。マーケティングおよびプロモーションにメインで携わっていた筆者としても試練の時期だった。


7月に行ったプログラム説明会のもよう

一方、説明会参加者の反応は上々だった。終了後、会場で「応募します」と複数社からコメントがあり、エントリーが日に日に増加。その後、説明会を再度開催し、参加者数こそ初回を下回るも、再び複数社からエントリーがあった。プログラムへの共感もあるが、帝人ファーマによる参加者への丁寧なフォローが奏功した。

最終的には全国からエントリーがあり、締切待たずして目標数を上回った。内訳も医療未経験企業が過半数を超えていた。

文=佐藤 奈津紀

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