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フォーブス ジャパン ウェブ編集部 エディター

角田太郎氏。アマゾンの起業スピリットを体現する「ドアデスク・アワード」も受賞したレジェンド社員だ。

重い鉄の扉を横に引き開けると、そこには異空間が広がっていた。整然と並ぶ圧倒的な数のカセットテープ。壁際には磨き上げられたカセットテープレコーダー。そして未体験の厚みを持つ音が、聞いたことのない丸みをも帯びつつ、近くなり遠くなりして鼓膜を撼わす。

東京、中目黒。昼間は保育士が保育園児たちを遊ばせる公園のすぐ先に、その店はある。おそらくは「世界唯一のカセットテープ専門店ではないか」といわれる「waltz」。音楽業界の錚々たるビッグネームたちも足繁く通う場所で、2010年代に入ってからカセットカルチャーが復活していく上でのキープレーヤーにもなった場所だ。世界でカセットテープを作ったり売ったりしている中で、ここを知らない者はおそらくいない。

「waltz」の神話は2017年12月、ハイブランド「グッチ」から「グッチプレイス」に選ばれたことでも決定づけられた。店を偶然訪れた、グッチの現デザイナーアレッサンドロ・ミケーレの「美意識とリンクするスポット」として、たとえばかつては大公の宮殿だったイタリアの文化的な遺産、フィレンツェの「ピッティ宮殿」などと並んで選ばれたのだ。カセットテープのパッチなどがあしらわれた高額な限定コラボレーション商品も人気だ。

そしてもう一つ、この店が話題になった理由がある。店主の角田太郎氏が、あの世界最大のECサイト、アマゾンのサービスのいくつかを立ち上げ、軌道に乗せた、知る人ぞ知る社員だったことだ。

世界でただ1つの小さなこのカセットテープ店「waltz」を海外にまで知らしめた角田氏。waltzの名前には、彼が最初に勤めたWAVEの「w」、そして何よりもamazonの「a」と「z」が入っているという。そのアマゾン時代を元同僚たちの「証言」も交えて振り返りながら、「開店後2年間、SNSを始めまったく宣伝をしなかったのに話題になった」ことの裏にあるに違いない、静かなる情報戦略を探ってみた。

店主は、アマゾン・ジャパン初の「バーレイザー」だったレジェンド社員

実は筆者も2001〜2004年、アマゾン・ジャパンで角田氏と職場を共にしている。アマゾンで出世街道を突っ走っていることで名高かった角田氏が「アマゾンを辞めたらしい」という噂を聞いた時、筆者は驚いた。さらに、「どうやら、中目黒で小さなカセットテープ屋を始めたみたいだぞ」と聞いた時はなおさらだ。


「ドアデスク」を思わせる、シンプルだが物語を孕んだ外観

改めて振り返ると、角田氏はアマゾン・ジャパン「2期生」として2001年に入社。2015年までの間、音楽・映像販売事業のほか、書籍事業本部やヘルス&ビューティー事業部長などを歴任した伝説のアマゾニアンである。

彼はまた、アマゾン・ジャパンで「バーレイザー」に最初に選ばれた社員でもある。これは創業時にジェフ・ベゾスが創始したポジションで、採用面接の水準(バー)を高く維持する重要な役割を持つ特別な精鋭社員だ。面接者全員がOKを出した採用候補者も、その一言で「落とす」ことができる意思決定者でもある。

文=石井節子 撮影=帆足宗洋

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