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電通総研内のクリエイティブシンクタンクによる連載「NEW CONCEPT採集」

イラストレーション=尾黒ケンジ

1枚のレコードを買うためにわざわざアメリカから日本へ。日本のボードゲームが突然人気に。 どちらも原因は同じ。「あれ? これネットで見つからないぞ?」という気づきが鉱脈となる。


少し前の話になりますが、人気TV番組『YOUは何しに日本へ?』で、大貫妙子さんの古いレコード「SUNSHOWER」を買うためだけにわざわざ日本に訪れた米国人が紹介されて話題になりました。

結局、目当ての盤を倉庫で偶然に発見。感動のフィナーレ……となったのですが、そもそも数多あるレコードの中でなぜこの1枚だったのか。しかもなぜ今だったのか。このエピソードの背景には「アーカイブ漏れ」という、今を読み解くキーワードがうかがえます。

この番組が放送されたのは2017年夏。この時期はちょうど、日本の1970〜80年代のポップス、中でも特に「シティポップ」と呼ばれ親しまれてきた音楽の評価が、日本の国外で急激に上がった時期と重なります。

「シティポップ」という音楽群はご存じの通り、日本国内のみで機能してきた「辺境ジャンル」であり、その概念自体が欧米にはありません。つまり、先の番組はこれまで欧米のアーカイブから「漏れ」ていたコンテンツが一気にアーカイブ入りした時期の典型的なエピソードだったわけです。


日本産の「シティポップ」がアーカイブ化されるきっかけとなった、大貫妙子「SUNSHOWER」

「アーカイブ漏れ」は価値を生み出します。その過程は色々ありますが、先のケースでは、以下のステップを辿っています。

1. 「アーカイブ漏れ」に気づく
2. アーカイブ化が進む
3. 「アーカイブ漏れ」に高値がつく
4. アーカイブ化が完成する

より具体的に辿るならば、1. ユーチューブなどの動画サイトをきっかけに、個人発のアーカイブ化が始まる、2. 集合知により、Discogsなどの世界規模の音楽データベースサイトに情報が集まる。音源を求める人が増えるが、この段階ではまだまだコンテンツの需給バランスが悪い、3. オークションサイトeBayやCD&LPなどのオンライン・マーケットにおいて高騰。しかも作品に対する評価はうなぎ上り……。先の米国人が訪れたのは、この(3)の段階というわけです。

その後は、4. レコードも再発され、価値は安定。著作権さえクリアになれば、スポティファイなどのストリーミングサイトで常時リスニングできるようになるでしょう。リストに載っているだけでなく、簡易に体験できる。その状態が、本格的なアーカイブ入りなのかなと思います。

ここで注目したいのが「評価」の軸です。ネット上での音楽のアーカイブ化は、これまでその音楽が享受されてきた国、土地の視点とは離れ、全く新たな視点からの再評価を生みます。つまりこれまで「アーカイブ漏れ」していた音楽がアーカイブ化された瞬間、その曲を聴いたことがなかった大多数の人の耳に触れ、違った視点からの評価が加わる。アーカイブ化は、コンテンツの作り手にも、新たな舞台なのです。

文=木村年秀 イラストレーション=尾黒ケンジ

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