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インテグレートの藤田康人代表(左)とスペースマーケットの重松大輔代表(右)

ニュースで、SNSで、知人からの「転職しました」の報せで、スタートアップが話題にのぼることが増えた。テレビCMで、街頭で、タクシーで、スタートアップの広告を目にする機会も多くなった。

国内スタートアップの資金調達金額は、10年前から1桁増えている。優秀な人材やリスクマネーが集まりつつある。

この記事では、スタートアップの成長性を左右する大きな要素として「文脈力」を挙げたい。

「キシリトール」市場や「美魔女」ブームなど、世の中に数々の新たな市場を生み出してきたインテグレートの藤田康人代表と、いまやシェアリングエコノミーの最前線を担うスペースマーケットの重松大輔代表が語り尽くす。

「スペースマーケット」はあらゆるスペースを1時間単位から貸し借りできるプラットフォームだ。パーティーや会議、撮影など、利用用途はさまざまで、2019年4月にサービス開始5周年を迎えた。掲載スペース数は1万1000超、ユーザー数は年平均350%の成長率を誇る。

この春、雨天時や花粉症の人でも花見を楽しめる「インドア花見」という新たなスタイルを発信し、NHKニュースをはじめ多くのメディアが取り上げた。「インドア花見」はどのようにして生まれたのか。

ともに文系学部卒、大企業での経験を経て一から事業を立ち上げた起業家でもあり、数々の成功事例を持つ二人が、これからのスタートアップに必要な「文脈力」を読み解く──。


藤田 康人◎株式会社インテグレート 代表取締役CEO(左)
味の素株式会社を経て、ザイロフィンファーイースト社(現ダニスコジャパン)の設立に参画。キシリトール・ブームを仕掛け、キシリトール製品市場をゼロから2000億円規模へと成長させた。2007年5月、IMC(統合型マーケティング)プランニングを実践するマーケティングエージェンシー 株式会社インテグレートを設立、代表取締役CEOに就任。著書に『カスタマーセントリック思考』、『THE REAL MARKETING―売れ続ける仕組みの本質』(共に、宣伝会議)など。


重松 大輔◎スペースマーケット 代表取締役CEO(右)
1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション等を担当。 2006年、株式会社フォトクリエイトに参画。一貫して新規事業、広報、採用に従事。国内外企業とのアライアンス実績多数。 2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。2016年1月、シェアリングエコノミーの普及と業界の健全な発展を目指す一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し代表理事に就任。




藤田 今、ものすごくマーケティング、コミュニケーション、メディアが劇的に変わってきている中で、ビジネスを立ち上げて、うまくいくというのはすごく難しいと思う。そんな中で、スペースマーケットは成功していますよね。うちの会社でもユーザーとして使わせてもらっています。

重松 ありがとうございます。まだ成功してないですけどね。でも頑張っています。

藤田 重松さんからみて、同時期に起業して成功している会社と、立ち行かなくなった会社の違いはどこにあると考えますか。

資金の調達がまず必要。そのうえで、「やりきれる」会社が生き残る

重松 やはり「文脈力」、結構大事ですね。

藤田 どういう場面で重要になるのでしょうか。

重松 今、ある程度大きいビジネスをやろうと思うと、「ミッション」や「ビジョン」を掲げて、大きく資金調達をする、というやり方がここ5年ぐらいのルールチェンジとしてあるわけです。10年前だったら、そういった大型の資金調達をやっている会社は少なかった。「1億円調達する」と言ったら、すごいニュースになっていましたよね。今、1億円ぐらいじゃ、全然ニュースにならない。5億、10億が当たり前のようになってきている。そんな社会になってきています。

藤田 「資金を集める力」に文脈が問われている、ということですね。

重松 経営陣が中心となって、世の中へのインパクトや事業性などのビッグピクチャーを描き、まず「面」を押さえる動きというのが、ここ5年ぐらいでできるようになった。そうなると、描いたことを「やりきれる」会社と、資金を集めても「やりきれない」会社が出てきます。お金を集めて、それからちゃんと戦える、やりきれる会社が残っていると思います。

藤田 我々、スタートアップの経営者の方から相談を受けてお手伝いする機会が多いですが、結構あるのが、「お金を集めちゃいました」、もしくは「集められそうです」というもの。そこで自分たちのサービスや企業理念、ビジョンを世に広めていって、会社のブランディングをしていきたい。だから広報が必要だ、という話。

重松 そういうケースもありますね。

藤田 たぶん、彼らなりのロジックで、データやテクノロジーでイノベーションを起こして、世の中をより住みやすい、いい世界にしていきたいという思いはすごくあるんです。そのロジックは立っているし、ビジョンは素晴らしいけども、でもそれって本当に、あなたの会社のプロダクトでなくては解決できないですか? というところを一度考えてほしい。本当にフラットに見たときに、あなたの会社が本当に必要である、求められている、あるいは社会を変えられる、人を引きつけられるポイントってどこですかと。そう聞くと、自分の論理で細かく説明をしてはくれるのですが、でもそれって、みんな他の人も同じことを言っているよね、と思うことも多いんです。



強い思いがあっても「伝わる」かどうか。パーセプションを変えられるか

重松 そういう経営者は多いですよね。どうしても独りよがりみたいになっちゃう。いい意味での思い込みというか、強い思いはすごく大事だとも思うんです。超大事なんですけど、でも相手がそう思ってくれないといけないですよね。

藤田 多くの経営者は「我々のプロダクトは必ず人々の役に立てるんです」「だから我々は絶対に世の中に必要なんです」と熱く語ってくれます。重松さんがおっしゃるようにその思いを持つことはとても大切なんです。ただそれは社会や投資家や株主やユーザーがそのプロダクトを体験して彼ら自身に語ってもらうことが重要ですね。アピールしたからといって人の心は変わるものではなくて、プロダクトを磨き続けて粛々と為すべきことをし、誇張ではなく粛々と語ることによって、結果、その会社は必要とされるということが大事だと思います。

藤田 伝えたいからといって伝わるわけじゃない。本当に大事なのは、伝わること。「パーセプション」(認識)だと思っています。そういう意味では、重松さんはご自身で言っているだけでなく、まさしく「シェアリングエコノミー」を先導しているリーダーと認知されている。

重松 リーダー……。

藤田 自分では言っていなくても、ちゃんと伝わっていて、周りがそう言っている。それってすごく説得力が必要。実は強い文脈が必要なんですよね。

「シェアリングエコノミー」、プロダクトを追求する中で気づいた

重松 実は5年前にスペースマーケット事業を始めた当初は、「シェアリングエコノミー」という言葉もあまり一般的ではなかったんです。たまたま追求していた事業が、「あ、こういう分野なんだな」というのを、やりながら気づいていったんですよね。ちょうど世界的なトレンドだというのもわかって、いろんな分野でシェアリングエコノミー系のビジネスも出てきました。スペースマーケットの利用事例を積み上げていくことで、シェアリングエコノミーを発信していったという感じでしょうか。最初からそうは思わなかったですが、牽引できるような立場になりたいなと、やりながら思うようになりました。

藤田 僕から見ていると、すごく思うのは、良くも悪くも「薄っぺらくないな」って。というのは、頭が切れて、アイデアがあって、スマートにプレゼンをして、あっという間に大きなお金を集めて始めちゃっているベンチャーって正直、少なからずあるんですよね。でも最近、いろんな方が言っているのは、実は広報もプロモーションも大事なんだけど、それ以上に一番大事なのは、プロダクトだと。

重松 まさに、おっしゃるとおりですね。

プロダクトで苦労すると、ストーリーに迫力が出てくる

藤田 プロダクトそのものに、どれだけいろんな思いと願いと、苦い経験も含めて込められているかというところがあって初めて、「文脈力」を使って知ってもらうことができる。だけどちょっとしたビジネスアイデアがあって、お金も調達できるものだから、とりあえず広めようということになる。そして結局は「ダウンロードを獲得する」ことが目的になり、中途半端な見せ方だけで乗り切っているビジネスってありますよね。実は。

重松 多いですね。開発費と同じくらいPRに予算を割くという会社もありますが、順序でいくと、まずやはりプロダクトありきで、プロダクトがちゃんと磨かれてからのPRなのかなと思っています。

藤田 そうなんですよ。プロダクトで苦労すると、結局そこから出てくるストーリーやマーケティングもリアリティーや迫力がすごく違ってくるんです。



重松 そうですね。確かに。

藤田 重松さんは決して雄弁なタイプではない。思いはすごく強いけど、決して言葉がうまいタイプではないですよね。

重松 そうです(笑)。

藤田 だからこそというのもあるのかもしれないけど、そこの「迫力」や「リアリティー」を感じるところがある。シェアリングエコノミーのルールメイキングを担っているという、実態があって。結果的にそれが文脈として説得力のある取り組みになっている。言葉だけの、プロモーションとしてのシェアリングエコノミー文脈じゃない。

「広報担当を置けばいい」は順番が違う

藤田 そうなってくると、僕は「ベンチャーこそPRが必要だ、広報が必要だ」ということの意味合いを、もうちょっとちゃんとかみ砕いたほうが良いと思う。プロダクトもそうだし、あるいはプロダクトを中心とした、コミュニケーションも含めた事業戦略やマーケティング戦略をちゃんとやって、結果として広まっていくような。

重松 結果として広まる、そうですね。

藤田 仕組みをどう作っていくか、どんなアクティビティをするかということが広報、PRだと思うんですが、逆にいうと、「じゃあ、広報担当を置けばいいんじゃないか」ということでいいのか、メディアを回るだけでいいのかと。そこがちょっと、順番が間違っているのではないでしょうか。

重松 当然、まずきっちりとしたプロダクトがあって、それをさらにちゃんと広めるために、優秀な人にPRをやってもらうという事業戦略があるはずですよね。もちろん、事業戦略にもPR視点は必要なので、にわとりか先かたまごが先かという議論はありますが。

藤田 「広報を採用すればいい」という結論になっちゃうのはだいぶ短絡的かもしれないですね。

「インドア花見」は徹底的な顧客分析から生まれた

重松 「インドア花見」についてご紹介すると、「レンタルスペース」や「シェアリングスペース」というカテゴリーを知っていただくきっかけとして、シーズンやタイミングを戦略的に考えていたんです。その中でいろいろと調査をしていると、カスタマージャーニーとして、実際に室内でお花見をしていた人が過去にいたということがわかった。そのインサイトを深掘っていったところ、「インドア花見」のニーズが見えてきた。そういった新たな使い方の社会的認知が広まることで、ちゃんと売り上げも付いてきました。


外のお花見と同じように、室内のレンタルスペースで自由な過ごし方ができる「インドア花見」(スペースマーケット提供

藤田 僕もよくいろんなところから、「『インドア花見』ってどんなPR戦略だったと思いますか」と聞かれるんですけど、PR戦略だけではなくて、結果としてはビジネス戦略であり、マーケティング戦略であるものをPRというものの特性をうまく使って実現した、という順序なんじゃないかなと思っています。

重松 まさにおっしゃるとおりですね。

藤田 それが逆になって、PRをすることが目的になると、結局は今の時代だからすぐ嘘はばれるし、薄っぺらいものはすぐ見破られちゃう。だから本当に本物しか定着しないし、本物しか、多分共感されないんですよね。それにはやはりプロダクトが一番大事。そしてこのプロダクトの次に、いわゆるマーケティング戦略、それがあって初めて共感されるんです。お金があれば、どんな有象無象も含めて、広告を打ってユーザーを増やすことができる。それがマーケティングだと思っちゃうと、違う。

重松 それだと、結果的にコンバージョン(ユーザーを獲得)できないんですよ。でもユーザーもそんなにばかじゃない。濃いユーザーを、共感してくれる人をどう集めていくかというところなので。単純にSEO(検索エンジンで上位に表示されるための最適化)といったテクニカルな話だけじゃなくて。ストーリーが大事ですね。

藤田 SEOも大事ですけどね。

重松 そうですね。ビジネスをする上で、Googleをちゃんと理解するのはすごく大事なんですけど。全体のなかの一部ですよね。

価値を創造する。ユーザーの「負」の思いに目を向ける

藤田 スペースマーケットの「インドア花見」のようなことをやれるかどうかが大事なんです。我々はそこに需要を感じています。広い意味でのマーケティング戦略の中で、SEOや広告だけではなく、すごくパワーを持っているソーシャルメディアやコンテンツの中で表現していくということが、今、われわれにとってすごく大事なことなんですが、なかなか伝わらなくて。要するに「いいPR会社ないですか」という相談がいっぱいあるでしょう。「おたくは、どんなPRができるんですか」って言われるんですけど、ちょっと違うと思いますね。「インドア花見」は価値を創造した。ライフスタイルをつくるって、すごいことですよね。
 
重松 「エア花見」という言い方もあったけど、文脈としてあえて空間、レンタルスペースに落とし込みたい意図があり「インドア花見」と名付け、押し切りました(笑)。

藤田 こういうことが多分、ベンチャーが次のステージに行く、あるいは飛躍的に成長する、あるいはサステナブルに成長し続けることにつながると思うんです。事業の本質や、提供できる価値の本質を考えて、考え抜いて、やっとその先にプロモーションやPRがあるんだと思うんですよね。



重松 そうですね。そのほかにも、日常におけるユーザーの「負」の思いを抱える局面に着目することで、その「負」を克服できる使い方に目を向けることができました。実は「ママ会」「パパ会」で、子連れでよくスペースマーケットを使っていただけるんですよね。日常生活上の「ペイン(負の要素)」としては、子どもをレストランに連れていくと、子どもが騒いで走り回って他のお客さんに迷惑を掛けるので、なかなか連れていきにくいという悩みがあった。ママ友、パパ友で集まる場所が意外となかったんですよね。それがレンタルスペースだと他のお客さんの目もないし、最近は大画面のテレビが設置されていたりするので、子どもたちはアニメを見て楽しめるし、大人は気兼ねなく、ゆったり3、4時間ぐらい飲み食いしたりダラダラしたりできる。

藤田 いいですね。それは「インサイト」ですよね。

重松 そうなんです。子連れで、外で昼間からお酒を飲んでいると、知らない人から「昼間っから酒飲んで」と、本当に言われたりするんですよ。そういう社会的抑圧みたいな悩みがあったのが、レンタルスペースができて、解決できたんです。誰かの家でのホームパーティーになると、それはそれで家主に負担が集中しますしね。

藤田 「負」に着目したのはいいですね。

手応えつかんだ「レンタルスペースでハロウィン仮装」

重松 創業してサービスを始めて、初めて手ごたえをつかんだのは、ハロウィンの時期に仲間内で仮装をして、パーティーをするという使われ方が結構増えてきたこと。「これは、確かにニーズあるな」と。渋谷のハロウィンで騒ぐのは、実は世の中全体から見ると、ごく一部じゃないですか。仮装して街を歩くっていうのは、結構恥ずかしいじゃないですか。

藤田 勇気がいりますよね。

重松 でもやはりみんな変装願望があって。変装グッズをレンタルスペースに持って行って、レンタルスペースで着替えて、「インスタ映え」するよう、壁にバルーンアートの装飾をして自撮りをして、ご飯を食べて、最後はメイクを落として、衣装もカバンにしまって、普通の格好で帰るんです。そういう目的の利用が増えました。

藤田 「インドア花見」にも言えますが、よくマーケティングの話をするときに、使っていない人にどう使ってもらうかとか、ノンユーザーのことをすごく調べたりするんですけど、実は答えって、現ユーザーの中にものすごくあるんですよね。ただそれがうまく理解できていなかったり、消化されていなかったりして、「この人にしか響かない」状態になっている。大事なことはいろんなお客さんの本質的な課題やニーズにちゃんと向き合ってから、初めてそれが、ノンユーザーに対して、どう翻訳して訴求すればいいかを考えること。答えは既に、今のお客さんの中にあるんじゃないかなと思うんですね。意外とみんな、そこを見てない。



ユーザーの方がアイデアを持っている。命名し、広めやすくする

重松 そう。まさに今、その点について言いたいんですけど、最近、ちゃんとユーザーを見なきゃいけないなと改めて思って。丹念に見ていくと、ヒントがやっぱりあるんですね。

藤田 ある。

重松 「こんな使われ方してるんだ」みたいな。本当に面白いですよ。

藤田 我々よりも、よっぽどユーザーのほうがアイデアを持っているんですよね。

重松 そうです、一部のユーザーのアイデアからヒントを得て仮説を立てる。そして多くのユーザーが自分でも気づいていないインサイトに気づいてもらえるよう、伝え方を工夫したり、行動に起こしてもらいやすいように設計する。そのアイデアにユニークな名前を付けるのも、工夫のひとつですね。

藤田 それがマーケティングじゃないですか。新しいカテゴリーを作って、新しいサービスを作って、「インドア花見」のように命名して、それを広めやすくする。PRって、無理やり「メディアに出してください」と押し込むべきじゃなくて、むしろコンテンツそのもので、結果、勝手に情報が独り歩きしてくれるような仕組み自体や、コンテンツそのものをつくることなんじゃないかと思うんですよね。

重松 確かに。そうですよね。PRにおいてメディアの人とのリレーションも大事ですが、リレーションがあるだけでは伝わらない。

藤田 でもみんな、熱いんですよ。「このソリューションで世の中、イノベーションが起こるんです」って。その伝えたい思いを、伝わるに変換しないと。「文脈力」というと間違いやすいのは、伝わる発想じゃなくて、いかに自分たちの良さを素敵にストーリーにするかって、こっち側の文脈になっちゃうことが多いじゃないですか。情報の受け手側から逆算したときにどうなるか、というところになかなか、頭がいかないような気がする。

重松 受け手が共感しないとね。

「文脈力=仮説構築力」かも。そんな人材、なかなかいない

藤田 今、ものすごくユーザーを大切にして、ユーザーベースでマーケティングをしようっていう流れが一つあって、それはすごくいいと思うし、大切なことなんですけど。ただユーザーは実はマーケターじゃないので、ダイレクトに「インドア花見をしたい」ということは表現しないんですよ。だから企業が一生懸命ユーザーに聞いて回ったり、ユーザーに言わせようとしたりするんですけど、そのアプローチはちょっと違っていて。彼らができるのは、インサイトのかけらを表現することだけで、それを紡いで新しい価値に転換していくのは、マーケッターであり事業家なんです。仮説がないとそれは分からない。

重松 仮説がない。

藤田 文脈力って「仮説構築力」かも。

重松 確かに。「インドア花見」の設計もそうでした。前年のユーザーの予約データを見ていると「外でお花見の予定でしたが、雨予報なので、レンタルスペースで室内パーティーをすることにしました」というコメントがあった。そこから「インドア花見」需要の仮説ができました。あとは、お花見の時期って、ちょうど花粉症の時期で、メディアでは「花粉症対策」や「花粉でつらい人はこうしている」という報道トレンドがありました。確かに外でお花見するのに花粉症の方はつらい。あとはお花見で「ゴミ問題」や「混雑」の問題がいつも取りざたされている。そういった社会的な問題とも文脈を掛け合わせることで、比較的老若男女に身近に受け止めてもらえるコンテンツになるように設計しました。

藤田 今の話は、PR施策ではなく、マーケティングの商品開発、サービス開発の話だよね。PRの本質は実は、まさにサービス開発であり、コンテンツ開発であり、文脈開発が基本であって、そこが多分、すごく誤解されているところなんですよね。

重松 そうです。「インドア花見」のムーブメントは執行役員・広報の端山愛子が中心に、マーケチームと連携しているのですが、実は端山はインテグレートさん出身なんですよね。

藤田 はい、うちの会社の広報でした(笑)。聞けば聞くほど、端山さんは今広報担当だけど、マーケッター思考なんだなと思う。

重松 そうですね。でもそもそもそういう人材と出会えるか。もし出会えなかったら、人材を育てる必要がありますが、それもかなり難しいことで。スタートアップの初期のフェーズだったら、本来は、経営者自らがマーケやPRの観点も含めて事業をつくっていけるかどうかが大切。

藤田 僕らに相談をしてくれる方々の話をお伺いしていても、そこがなかなか難しいんだろうな、と思います。プロダクトやサービス開発自体と、それらがもつ良さがどういう文脈なら伝わるか、というところを行ったり来たりしていくことが大事ですね。

重松 そうですね。



「伝えたい」を「伝わる」に変換する、をデザインする

藤田 PRというと、よく話題性と言われる。インパクトとか面白さは必要かもしれないね。それによってメディアには出るかもしれないが、結局世の中にどんな文脈が残るかとか、ユーザーの中にそのブランドに対するどんなストーリーが残るかっていうと、なかなか難しい。対象者が誰で、何を伝えたい、じゃなくて、何が伝わってほしいか、もっと言うと、何がどう伝わって、どんな態度変容や行動をしてほしいか、そういったことをデザインする力が必要になる。

重松 まさにそうですね。いろんな理解が必要ですよね。プロダクト、ユーザー、メディア、いろいろ理解しないといけない。

藤田 そういったときに最近、よく「ブランドパーパス」が重要だという議論があるんです。要は製品の利便性だけではなくて、そのブランドが持っている社会的な役割も、すごく今の時代は大事だと。スペースマーケットのブランドパーパスは?

重松 そうですね。究極的には、自分が場所を探すときに簡単に探せて、簡単に決済できる。そこで目的に合った満足度の高い時間を過ごせるっていうのが大事なんです。

藤田 それによって世の中の人にどんな新しい幸せや、どんな価値をもたらすのでしょうか。

重松 我々は「チャレンジを生み出し、世の中を面白くする」というビジョンを掲げています。いろんなシチュエーションで場所探しが簡単になることで、その結果チャレンジする人がどんどん増えていく。チャレンジは、なんでもいいんです。何か一歩踏み出すことすべてがチャレンジ。そして世の中が面白くなっていく。これをすごく大事にしていますね。

藤田 やっぱりイノベーションって、すごくドラスティックに人々を幸せにしたり、世の中をいい方向に変えていくことってあると思う。たまたま昨日の朝、シンガポールから帰ってきたんですけど、シンガポールのGrabタクシーって知ってます? Uberを買収しちゃった。すごく便利ですよ。ロサンゼルスもそうなんですよね。公共交通機関が全然なくて、車がないとどこにも行けなかったのに、今はUberがあるので、ロサンゼルスという街の生き方や住み方が変わってしまっている。破壊的にライフスタイルを変えちゃっているわけですよね。

重松 劇的に変わりますね。

藤田 そういうふうに世の中の新しい価値を作って、破壊的に、世の中を変えちゃうということがすごい。同じシェアリングの概念で、スペースマーケットも劇的に人々の生き方を変えちゃう可能性があるわけですよね。

重松 そうですね。やはり不動産の概念を変えていきたいなと思って。不動産ってもともとオーナーサイドとしては売買と賃貸という儲け方しかなかったんですよ。それを小分けにして、時間単位で小分けにして貸せるようにしたっていうのは、我々がある意味……。

藤田 ディスラプティブな革命を起こした。

重松 賃貸では全然値段が付かなかった物件でも、時間貸しにするとその何倍も収益を稼ぐケースもある。個人でも自分の家の空いている部屋や時間を貸し出す人が増えていますが、そうすると新しい収益軸ができ、働き方が変わって、生き方の選択肢も増えるかもしれない。

スペースマーケット創業時、実はビジネス利用しか想定していなかった

藤田 そのプロダクトアイデアって創業時と今で、変わりましたか。どんどんブラッシュアップされているのでは。

重松 創業初期に作ったサービスコンセプトビデオを見ると、ひたすら会議利用かイベント利用、ビジネス利用しか想定していなかったんです。当時はこんなにパーティーで使われるなんて思っていませんでした。今、ビジネス利用かプライベート利用かでいうと、プライベート利用のほうが多いですね。

藤田 そのときに、今のように莫大な資金調達ができていたら、もしかしたら会議室利用を想定したタクシー広告をバンバン打ってコケていたかもしれないね。

重松 そうかもしれませんね。資金調達環境はいいほうが絶対いいんですけど、雑に使うわけにはいかないので。豪華なオフィスとか。

藤田 タクシーに乗るたびにスタートアップのCMがいっぱい流れるよね。10億あったら、5億広告に使うというフェーズもあるかもしれないけど、それも、繰り返しますがプロダクトあってですから。プロダクト=コンテンツであり、コンセプトであり、文脈であり。それを広めるために初めて、広告かPRかという手段があるので。

重松 手段ですよね。まずはベースがあっての、本当に手段。出口の手段って感じですよね。そこばかり頑張っても、あまり意味がないので。

サービスの鉄板の価値、ストーリー、ボトルネックに着目

藤田 基本的に、僕らが必ずやるのは、いわゆる現ユーザーの分析調査です。徹底的にやります。まず、カスタマージャーニーやカスタマーエクスペリエンスです。顧客がどんなジャーニー、体験をして、この製品、ブランド、ソリューションを使っているのか。使うきっかけは何か。どうして使い続けているのか。やめてしまった人はなぜ途中でやめてしまったのか。何が足りなかったのか。今、使っていない人の中でも、そもそも知っていて使わない人と、知らなくて使っていない人がいることが見えてくる。それらを全て分析して体系化した上で、各ターゲットに対して、やめちゃった人が戻ってくるにはどうしたらいいか、今使っている人がさらにロイヤル化するためにはどうすればいいか、知っていて使わない人は、何が伝われば使うようになるか、ということを顧客視点から設計します。



重松 なるほど。

藤田 「黄金文脈」と我々は言っているんですけど、つまりそのサービスが持っている本当に鉄板の価値というものが、まさに文脈化されていることが大事。あとそれがどんな場面、どんなタッチポイントでどんなストーリーになっていると、それがトリガーとなって、ブレークするか。そしてもう一つはボトルネックですよね。きっと今の事業もボトルネックがあるんですよね。

重松 あります。

藤田 あるんです。このボトルネックが何かということを把握し、全部まず理解した上での全体の「パーセプションデザイン」、お客さまがどんなふうに今の状態から理想的な状態、つまり「このサービスを使い続けたい」というふうになるかというパーセプション変化のデザインを設計します。その上で、伝え方、広がり方、知らせ方のコンテンツストーリーを作り、それに合うタッチポイント、あるいはメディア、伝え方みたいなことを設計していきます。また「誰が言うか」も大事にしています。スピーカーとして、誰に言ってもらったら消費者のパーセプションが変わるのか。企業自身が言ったほうがいいメッセージと、他者に言ってもらうべきメッセージと、メディアから言ってもらったほうがいいメッセージと、専門家が発信したほうがいいメッセージ。いろいろあるので、それも掛け算をしています。

重松 その設計はなかなかやれないですよね。

藤田 なかなかやれないんですよ。それができる人はなかなかいないんですよね。

重松 本当にごくわずかなんですけど。でも本気でそういう人がやると、ちゃんと上向くんですよね。

藤田 でも大体、そういう方が言っていることは似かよってる。「お客さんを大事にしよう」とか、「お客さんの中にいろんなヒントがある」とか、「プロモーションよりプロダクトだ」とか。

重松 確かに。

結局はプロダクト勝負。常に進化し続けるべし

藤田 商品を作っている側が当たり前だと思っていることが、実はお客さまには当たり前じゃないこともありますよね。「パッケージに書いてあるからわかってるでしょ」とか。でもそんなに大きく書いていなくて、実はお客さまは気づかずにちょっと違う使い方をしてしまったり、違う作り方をしてしまったりしている。それって「伝える」と「伝わる」の違いですよね。「伝わる」にはどうしたらいいのかを考えないと。

重松 思い込み、ありますよね。

藤田 思い込みってあるでしょう。あと願いもね。

重松 こっちの願いが入っちゃう。それはすごくある気がする。まさに「バッドニュース」に耳を傾けなければと思っています。スペースマーケットを頻繁に使っていただいているお客さまが他のサイトにチェンジしてしまったという時、フィードバックをちゃんと受け止めて対応しないと、スーッといなくなってしまう。特にウェブサービスは認知も大事なんですが、使い勝手やUI/UXが大事。結構劇的に変わります。

藤田 そうだよね。プロダクトの体験をどうデザインするか、ですよね。それって。ちゃんとこちらが「伝えたい」ことがどういうプロセスなら「伝わる」か、いかにいい体験をしてもらえるかにこだわることは大切ですね。

重松 Web会議システム「Zoom」がいい例ですね。Skypeは圧倒的な市場だと思ったのに、Zoomが出てきて、みんな乗り換える。使い勝手がいいとそうなっちゃう。プロダクトの勝負ですね。

藤田 結局は誰かが何か不便や不快を感じたら、一生懸命広げたい、広まってほしい情報も広まらないんですよね。みんながそうだよねと思えるところにこだわりを持つことが一番大事ですよ。そしたら勝手に広がるんですよね。人って、いいものは伝えたい。言いたくなっちゃう。

重松 速いですよね。ツイッターが今また、日本で急激に伸びているみたいに、拡散も速いので。広がるのもワーッと早い。

藤田 消えるのも速いですよ。

重松 忘れ去られるスピードも速くなっていますよね。本当にね。常に話題を提供し続けられるかどうか。定着して、要するに繰り返し使ってくれる人がどう増えていくかというのがすごく大事ですね。

藤田 スペースマーケットは会社として使っていますが、社員に聞くと、常に進化しているんだよね。それがどんどん伝わる。

重松 ありがとうございます。やはり常に分析をして、プロダクトとしても改善を続けています。登録されているスペースも、本当にいろんな場所があり、スペース内のUI/UXも進化しています。

藤田 たまに見ていると、え、こんな所もあるんだというところがありますね。

重松 結構、神社とかも借りられたりしていますね。最近、ジムも増えてきている。パーソナルトレーナーさんがやっているジムで、自分たちが使ってないときに、他のパーソナルトレーナーに貸しているんですよ。

藤田 まさに顧客、どれだけ徹底的に顧客と向き合って、語り合い、顧客のいろんな思いや行動を引き出すか。

重松 そうですね。その結果、スペースを貸し出す人「ホスト」も、借りる人「ゲスト」も、多くの人が笑顔になってくれることを願っています。

藤田 市場を生み出し、常に進化させていく。人生が変わる人もいますからね。ワクワクしますよね。



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