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シネマの女は最後に微笑む

映画『タリーと私の秘密の時間』の撮影時(GettyImages)

「ワンオペ育児」という言葉がネットで広がり始めたのは、ここ3年くらいだろうか。

ワンオペとはワンオペレーションの略で、コンビニや飲食店などですべての業務を一人でこなす過酷な状況を指す。そこから、「配偶者の単身赴任など、何らかの理由で1人で仕事、家事、育児の全てをこなさなければならない状態を指す言葉」として「ワンオペ育児」が使われるようになった。その当事者は圧倒的に妻である。

夫が単身赴任で、必然的に妻が家事育児を担う場合もある。しかしそうではなく、夫が性別役割分担に囚われて家事・育児に協力的でない、逆に妻が何もかも抱え込もうとしてしまう、などの理由でワンオペ状態になっていることも多そうだ。

そこには、昔なら子供の世話を頼めた親世帯との別居、父親の育児休暇取得率の低さ、保育園など施設の不足、ベビーシッターという職業が普及していないなど、母親が孤立しがちな要素が絡んでいる。これは日本だけの現象かと言うと、アメリカでも似たような状況はあるらしい。

今回紹介するのは、シャーリーズ・セロンが「ワンオペ育児ママ」をリアルに演じて話題となった『タリーと私の秘密の時間』(ジェイソン・ライトマン監督、2018)。

ナイトシッターを雇っては?

マーロ(シャーリーズ・セロン)は臨月で休職中の妊婦。夫は出張が多く、家事と二人の幼い子供の世話はマーロが一手に引き受けている。情緒不安定の長男ジョナは何らかの神経障害があり、学校では「手のかかる子」扱い。校長からヘルプを雇うよう勧められて、マーロは気が重くなる。

冒頭はマーロがジョナにマッサージを施している場面だが、一見、母と子の情愛に満ちたそのシーンの暖かな印象は、ドラマの進行につれて、疲れを澱のように蓄積させているマーロと、それに気づかない夫ドリューという、どんよりした家庭の空気感へと変化していく。

仕事で成功している兄夫婦の、瀟洒な家に招かれたマーロとドリュー。子供はシッターと別室で食事を採り、大人だけでゆっくりディナーを楽しむという余裕ぶりだ。そこでマーロは兄から、ナイトシッターを雇っては? と勧められる。

やがてマーロは女の子を出産し、二人の子供に加え、一人で乳児の世話に明け暮れる目の回るような生活が始まる。夜泣き、不眠、搾乳、家事の間の居眠り‥‥。小刻みなショットの積み重ねから伝わってくるのは、加速度的に増していく彼女の疲弊だ。

さらに、ジョナの通う学校の校長から「ジョナはうちには合わないので別の学校へ」と言われ、マーロは盛大に切れてしまう。

文=大野 左紀子

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