獣医師が考える「人間と動物のつながり」


さらに、犬なら何でも良いというわけではなく、犬種ごとの特性や個性も生かす。

日本では麻薬探知犬として、ジャーマンシェパードやレトリバー系の犬種が活躍している。ジャーマンシェパードは、護衛や追跡といった仕事に特に能力を発揮する犬種として重宝され、レトリバーは、鳥猟において人とパートナーを組み、活動する犬として使われてきた歴史がある。両者ともに訓練が入りやすく、穏やかで従順な気性の大型犬である。世界中で警察犬や軍用犬、介助犬として採用されていることは、あまりに有名だ。

麻薬探知に引き続き、爆発物や銃器の探知にも用いられ始めているが、いずれも、この犬種の持つ能力と気性への信頼性は欠くことができない。

さらに犬種の中には、特に優れた嗅覚を持つグループがある。それらはセントハウンド(嗅覚ハウンド)と呼ばれ、日本で親しまれる犬種としては、ダックスフンドやビーグルがこのグループに属している(※1)。

セントハウンドは、匂いに対する追跡欲求が特に強く、頑固に追いかける気質がある。従順ではあるが、頑固さでは人の方が根負けすることもしばしば、といった犬種だ。

検疫探知犬には主にビーグルが起用され、嗅覚と追跡力を発揮している。さらに、フレンドリーで威圧感の少ない見た目の特徴も、適役と言える。

摘発対象の動植物は、麻薬などと違い、ごく一般の人が悪意なく持ち込むケースも多い。こうした状況下で活動する犬には、人側の受入れやすさも必要となるからだ。さらに、注意喚起やPR活動にも一役買っている。

ちなみに本年4月より、農林水産省は、違法な肉製品や植物の持ち込みに対する対応の厳格化を開始した。ジャーキーやハム、ベーコンといった加工品や、果物も摘発の対象となり、輸入検査を受けずに持ち込みを行う場合、懲役または罰金が科される。手土産として購入しやすい品目であり、認識不足で渡航すれば、誰もが検疫探知犬のお世話になりかねないので注意したい(*2)。

動植物検疫の強化には、鳥インフルエンザや口蹄疫などの感染症、病害虫の持ち込みを予防する目的がある。国内の畜産や、環境に大きなダメージを与えかねないもののほか、人への影響が懸念されるものまで、海外からの玄関口は、侵入の防波堤となっている。

医療技術の発展目覚ましい現代において、感染症は減少の一途と考えるのは性急だ。むしろ未開の地に開発の手が入ることにより、新たな病原体が自然から人の社会に持ち込まれ、新興感染症を生み出している。さらにそれらは、発展した移動技術により、高速で大量に運ばれるリスクもはらんでいる。検疫強化は、今後も続いていくことになるだろう。

こういった要所に、動物が生まれ持った能力で貢献している。

高度化する技術が話題をさらう中、ひたむきに仕事をする動物や、動物をパートナーとし、信頼を持って仕事を共にする人の姿は、どこか微笑ましく映る。こういう関係が存在し続けることにも期待したいものだ。

※1)匂いの受容体の数だけで考えると、他のグループに属するより体格の大きな犬種の方が勝っている場合がある。ここでは、利用目的と気性を総合的に評価したグループ分けに基づいて記載している。
※2)輸入検査対象物の詳細は、動物検疫所ホームページと植物防疫所ホームページも参照されたい。

連載:獣医師が考える「人間と動物のつながり」
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文=西岡真由美

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