ポリネーターが見る世界の景色


さて、このワークショップを生み出したのはパリの老舗ビジネススクールESCPの准教授シルヴァン・ビュローと、アーティストのピエール・テクタンである。この二人の出会いから、「Art Thinking Improbable」は始まった。

ビジネススクールESCPの先生であるシルヴァンは 「起業家教育」で教鞭をとっていた。ただ、授業で過去の起業家事例や起業のプロセスを教えても「賢い人物」は生まれるが、過去の慣習に囚われない「ありえない」事業を生み出す起業家は生まれにくかった。

そんな悩みを抱えているとき、2008年夏に友人の結婚式で、アーティストで幼馴染のピエールに再会する。ピエールは過去の事例に縛られずにアーティストとして社会の問題を意識した作品を生み出し続けていた。

ビジネススクールの「起業家教育」講義を続けるよりもアーティストに学ぶ講義の方が、シルヴァンが求める「ありえない」事業を生み出す起業家が生まれるのではないか。この出会いが「Art Thinking Improbable」の始まりとなる。


Art Thinking Improbableの創設者シルヴァン・ビュロー(左)とピエール・テクタン(右)

しかし、当初は批判もされた。2008年に閃きを得てスタートしたとき、ビジネススクールESCPの他の教授達からは「アーティストがビジネスパーソンに教えられることがあるのか?」と懐疑的な目で見られることもあった。「馬鹿者扱いされたよ」と後にシルヴァンは語る。

筆者も2018年に3回、「Art Thinking Improbable Workshop」を日本で行った。誰も馬鹿にこそはしなかったが、懐疑論者にはたくさん出会った。

「アーティストが講義をすることがビジネスに役立つのか?」「フランス発のものを日本で展開して意味があるのか?」

新しいことを起こすためには様々な障壁に直面する。ただ、その障壁を超えても「そんなのありえないよ!」というものを生み出せる人、やり遂げる人が次の時代を作っていくのは歴史が証明している。90年代後半、インターネット回線も普及しておらず「インターネット・ビジネスなどありえない」 と言われていた中国において、ジャック・マーがアリババを立ち上げ、今では世界最大級のインターネットビジネスプラットフォームになっているように。


Art Thinking Conference DAY 2が開催されたパリのインキュベーション施設「104」の一室にて。

「ありえないもの」を生み出すためにはアーティストの視点が必要である、とするのが「Art Thinking Improbable」のアプローチである。その視点を持つアーティストにはどのような人物がいるのか。

次回は「Art Thinking Improbable」を支えるアーティストにフォーカスしてレポートする。

文=西村真里子

この著者の記事一覧へ

PICK UP

あなたにおすすめ

合わせて読みたい