フォーブスジャパン 副編集長 / チーフコミュニケーションディレクター


「避けては通れぬ、激烈な変化を目の前にしたとき、必要なのはチャレンジング・スピリッツだと思うんです」

そして、彼女自身が多大な影響を受けたという、エストニアの改革推進を担った大統領の言葉を教えてくれた。

「エストニアはスタート時点でかなりの後れを取っている。だから私たちは、他の国々を追従することはできないのだ。ならば我々に唯一残されている最上の道は、まだどの国も実践していない新しいやり方を見出し、それに向けて跳躍(leap)するということだ」

「make a difference」という言葉で「変化」を表現するカロリ。エストニアという国も含め、彼らにとって「変化」とは、単なる存在様態の移行を指しているのではないのだろう。そこには「創出」という概念が深く内包される。つまり変化し続けることで、時代や外的因子に流されず、物質的だけでなく精神的にもより良い環境をつくり上げてきたのだ。

ただ、変化することはいつだってリスクを伴う。私は疑問をぶつけてみた。「リスクを取ることで、あなたを支える『安心』や『安全』の基盤が揺らぐかもしれない。なのに、なぜ挑戦できるのですか」。

答えは、「多様性が許容されることへの安心感が根底にあるから」。子どもだったカロリが、最初のビジネスアイデアを父親に話したとき、彼は「そんな馬鹿げたことを考えていないで勉強しろ」とは言わなかった。代わりに「素晴らしいアイデアだね。すぐにパテント事務所に行って、特許登録をしてきたほうがいいよ」と言った。

「パテントという言葉を初めて耳にして、訳が分からず、とりあえず事務所に行ってみると、16歳の女の子を見てスタッフはびっくりしていたわ。けれど、無料で調査するだけでなく、その後も支援し続けてくれたの」。エストニアの大人は、子どもたちの可能性と、彼らこそがこの世の中を変えてくれることを信じている。この安心感こそが、変化に飛び込むセーフティネットとなっている。

「私」を生かし、国境を自由に飛び越えて働く時代がすでにやってきている。そこでは、自身を含め、変わり続けることを前提とした、伸びやかで柔軟な世界がある。「個」の揺るぎない、また、譲れないコアやアイデンティティを見つけ、それが守られるのならば、恐れるものなど何もないはずだ。

若くしてヨーロッパを代表する女性起業家になったカロリ。 彼女はいま世界中をまわり、Jobbaticalと共に「No Border」の世界を創出してくれるパートナーを探している。「私の夢は、Jobbatical自身が世界のデジタル・アイデンティティになること。つまり、あなたのパスポートになるの。そうなったら素敵だと思わない?」。

すでにいくつかの政府と交渉を始めているカロリ。移住や移動のための煩雑な審査の壁をなくし、人々が不必要な障害を乗り越えることなく、目標を達成できるようになる。そんな世界は目の前にある。


カロリ・ヒンドリクス◎JobbaticalCEO。国内最年少の16歳で起業し、23歳でMTVエストニアCEO就任。2007年「欧州を代表する若手起業家20」に選出される。14年Jobbatical創業。17年にはフォーチュン誌「Most Powerful Women International Summit」の講演者に選出。6歳の娘を子育て中。夫はLeapIN CEOのアラン(p.42)。愛犬の名はアイディ。

文=谷本有香 写真=ビルギット・プーヴ、アンドレス・テイス

PICK UP

あなたにおすすめ

合わせて読みたい