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シネマの女は最後に微笑む

ロンドンで行われた『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』のワールドプレミア。中央が主演のジュディ・デンチ(Getty Images)

5月22日、金融庁は「高齢社会における資産形成・管理」の指針案を発表した。かなり前から指摘されていたように、年金支給額の維持が難しくなり、老後の生活費についてかつてのモデルは通用しないことを、ようやく国が認めたかたちになる。

国は世代別に「資産寿命」を伸ばすべく「自助」努力を呼びかけているが、総務省の「2018年家計調査報告」によれば、高齢者世帯の貯蓄は4000万円以上が17%いる一方、500万円を下回る層は23%に上る。

非正規雇用が広がり、定年退職金を得られない人も増加している中、いくつになっても働かなければ生活が維持できない層は今後ますます多くなるだろう。

しかし、そんな中でも好奇心と意欲を保ち、新しいことに出会いたいと思っている70代、80代も、少なくないのではないだろうか。

『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(ジョン・マッデン監督、2012)は、それぞれの事情を抱えてインドという異なる環境に飛び込んだ英国の老人たちの人間模様を描く名作である。

異なる地での冒険

40年連れ添った夫に死なれ、彼の残した負債のために家を売ることになったが息子夫婦とも同居する気のないイヴリン(ジュディ・デンチ)は、ネットで熟年向き長期滞在型プランを見つける。インドのジャイプールという街の郊外にあるそのホテルは、古き良き英国風を謳い、行きの旅費はホテルが負担。

心配する息子に「一言でいいから励ましてちょうだい。こんな冒険は初めてなのよ」と告げてイヴリンは旅立つ。物語はこの、専業主婦として生きてきた老女イヴリンの人生初の「冒険」を軸に進んでいく。

空港からイヴリンと一緒になった同ホテルに向かう老人達は、出資した娘の事業の不調で家を売ったダグラスとジーン夫妻、股関節手術を早く安価に受けられるという理由でインド行きを決めたミュリエル、少年時代をインドで送っている元判事のグレアム、「おばあちゃん」として落ち着きたくないマッジに、婚活に燃えるノーマンなど、総勢7名。

トラブルに見舞われつつもなんとかマリーゴールド・ホテルに辿り着いた一行を迎えたのは、造りは立派だが古びてあちこちガタのきているおんぼろホテルと若い支配人ソニーだった。

実はこの滞在プランの背景には、亡き父のホテルをなんとかして復興させたいソニーの思いがあったのだ。ハイテンションでどこまでもポジティヴなソニーの悪戦苦闘と恋のゆくえ、老人たちとの笑える絡みも見どころの一つだが、ここではイヴリン、ジーン、ミュリエルの3人の振る舞いにスポットを当ててみたい。

初めての環境に緊張しつつも、努めてそれを受け入れ馴染もうとしているイヴリンに対し、ジーンは何かと一言文句が多い女性である。既に冒頭のイギリスのシーンで、そんな妻に夫のダグラスが内心うんざりしている様子が見てとれる。

一方、ミュリエルはインド人への偏見を隠そうともしない頑迷なレイシスト。ここに来たのも単に手術のためと割り切っているので、周囲の人とのコミュニケーションはほとんどない。

イヴリンは外界を基本的に受容し、ジーンは過剰反応し、ミュリエルは無視していると言えるだろう。

文=大野 左紀子

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