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あたらしい”違和感”

Jose Luis Pelaez Inc /Getty Images

「あなたの好きな食べ物はなんですか?」と尋ねられても、皆さんは普通に答えられると思います。しかし、「なぜあなたはその食べ物が好きなんですか」と質問されると、すぐに答えられない人が多いのではないでしょうか。

いろいろな答え方があるかもしれませんが、身も蓋もない言い方をすれば、その理由は、「食べたことがあるから」ではないでしょうか。

この話は、電通若者研究部の活動で僕が大学生の方々と共創プロジェクトを行う中で、折に触れて話すちょっと意地悪な質問です。

彼らからよく聞く悩みの一つに、「新しいことを始めたいのだけどどうしたらいいのかわからない」があります。いつの時代の若者にもありがちな悩みと思いきや、僕はそこに「新しい違和感」を覚えます。つまり、”どうしたらこれがかなうか”というHowの悩みよりも、”そもそも何をしたらいいか”というWhatの悩みが年々顕在化しているように感じるのです。

そこで、冒頭の好物の質問をするわけです。だいたい「えー、そんなことですか!」と拍子抜けされてしまうのですが、これは、「新しいことに一歩踏み出す」行為についての本質的な示唆を含んでいます。

それが好きかどうかは、食べてみればわかる。でも、「最初の一口」は食べてみたことのない状態で口に入れないといけない。そこに生じる、おいしくないかもしれないという不安を乗り越えて「新しいことに足を踏み入れる」ための動機付けとして、多くの人は「客観指標」を頼りにします。

いきなりお店に入らずにグルメ口コミサイトを見る。いきなり旅先に飛び込むのではなくガイドブックを立ち読みする。いきなり新規事業を起案するのではなく事例を集める。“食べたことのある人たちの意見”を取り込むことで、まずい思いをするリスクを取らず、おいしいものだけを口に入れようとするわけです。

情報流通量が増え、いつでも誰でもそうした「客観指標」を取り入れられるようになった今、情報収集は当たり前になっていますが、実はデメリットもあるのです。

意思決定の根拠を自分の外側から引用してしまうことによる他責化や、周りの流行りや評価に振り回された意思決定ばかり重ねることから“自分らしさ”への不安に陥ってしまうなど、心理面でのデメリットがいくつか挙げられます。

加えて、価値創造におけるデメリットが実は大きいのではないでしょうか。客観指標が存在するということは「誰か食べたことがある人が既にいる」ということ。「自分史において新しいこと」でいいならそれで問題ありませんが、「社会的に新しいこと」を産み出すのは、このアプローチだけでは難しいでしょう。

イノベーションを起こそう!といいつつも、他社事例を企画書につけるように求めてしまう経営層も、これに近いパラドックスに陥っているのです。

文=吉田将英

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