シネマ未来鏡

(c)2018 EMERALD SHORES LLC–ALL RIGHTS RESERVED

ガルベストンは、メキシコ湾を臨む砂州の島にある人口約6万人の小さな街だが、アメリカ人にとっては、どうやら記憶のなかで素通りできない特別な場所らしい。

1900年に、この地を襲ったハリケーン・ガルベストンは、平均標高1メートルの土地へと襲いかかり、街を壊滅状態に陥れた。直近では、2008年、アフリカ西海岸で発生した超大型のハリケーン・アイクが、この街へ上陸し、市内の西部を中心に高潮で大災害をもたらした。

場所柄いつも常にハリケーンの脅威にさらされているガルベストンではあるが、海岸沿いには約50キロメートルに及ぶビーチが連なり、テキサス州屈指の海岸リゾートとして人気を集める。


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また、1969年には、カントリー界の大物グレン・キャンベルが、「ガルベストン」(作詞作曲ジミー・ウェッブ)という曲をヒットさせ(筆者はこの曲でその存在を知った)、この街への甘酸っぱい誘いを人々の心に刻んだ。

地理的に言えば、テキサス州最大の都市であるヒューストンから南東へ約80キロ、車で1時間半もあれば着く。気候は亜熱帯気候で、冬でも温暖、そのため全米各地から観光客が集まる。古くは港湾都市としても栄え、市内には19世紀に建てられた歴史的建物も多く点在する。

このアメリカ人にとって「特別な街」でもあるガルベストンを舞台にした映画が、互いに絶望の淵にあって図らずも道行きの同伴者となった男女を描いた「ガルヴェストン」だ。

究極にはラブロマンス


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ニューオリンズの裏社会で、闇の仕事で糊口をしのいできたロイ(ベン・フォスター)が、病院で見せられたのは、まるで雪が降ったかのように真っ白な、自分の肺のレントゲン写真だった。余命いくばくもないと悟るロイだったが、死への恐怖は、タフな世界で生きてきた彼でさえも、耐え難い焦燥へと導いていく。

死に取り憑かれたロイは、組織のボスから「仕事」を依頼されるが、何故か「拳銃は持っていくな」と厳命される。その言葉に不審を抱き、ナイフと拳銃を隠し持ち、現場へと向かう。そこで、待ち受けていたのは、やはり彼を亡き者にしようとする謀で、ボスはロイを切り捨てようとしていた。

待ち伏せしていた刺客たちを撃ち殺したロイは、その場で囚われていた若い家出娘ロッキー(エル・ファニング)を助け出し、車で街を出る。自らの体を売って、明日への希望もない生活を送っていたロッキーは、ロイに自分も一緒に連れて行ってくれと懇願する。


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死の恐怖を抱えながら組織の手から逃れようとする男と、行き場のない孤独のなかで絶望に打ちひしがれる女が向かうのは、かつてロイが幸せな時間を過ごした海辺の街、ガルベストンだった。

「ガルヴェストン」は、裏社会に生きるアウトローを主人公としたアクション映画であり、サスペンス映画でもあるが、逃避行を続けるロイとロッキーのロードムービーであり、究極には2人のラブロマンスでもある。

文=稲垣伸寿

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